想い出の曇天

第85話 月の映らぬ水面に残る心はあの優しかった夢に遠く果てなく

ーミナモ目線ー


 とある休日。今にも雨が降り出しそうな曇天。私は1人駅前の喫茶店に立ち寄っていた。


 その喫茶店は私にとって思い入れのある喫茶店だ。

 

 私にとって掛け替えのないとある男が好きだった喫茶店だ。


 遊びに行く時、任務に行く前など私と彼がどこかに出掛ける時の待ち合わせ場所であり、任務終わりに立ち寄り互いの愚痴を言い合う場所だった。


新入り店員

「い、いらっしゃいませっすっ!!」


ミナモ

「ブラックコーヒーを1つ」


新入り店員

「か、かしこまりましたっすっ!!」


店長

「最近、1人で来る事が多くなりましたね……」


 私がコーヒーを注文していると店の奥から昔からの知っている店長さんが話し掛けてきた。


ミナモ

「うん……」


新入り店員

「て、店長っ!? この絶世の美女と知り合いなんっすかぁっ!?」


店長

「はい。昔からの常連のお客様ですよ」


新入り店員

「ま、マジっすかっ!? こ、こんな美女が常連のお客様だとぉっ!? これは俺にチャンスがやってきたって事かっ!? ひぃやっほぉいっ!!」 


店長

「ちょ、ちょっと? いきなりどうしちゃったの? 矢場杉くん?」


新入り店員

「初めましてっすっ!! 自分っ!! 昨日からこのお店で働いているっすっ!! 新入りの『矢場杉やばすぎ 池太郎いけたろう』っていうっすっ!!」 


ミナモ

「え、えっと、初めまして新人さん」


新入り店員

「年齢21歳っすっ!! 現役ぴちぴちの大学生っすっ!! 趣味はスポーツ観賞と映画観賞っすっ!! この出会いはきっと運命っすっ!! 是非っ!! 俺とお近付きになってほしいっすっ!!」


ミナモ

「え、えっと……」


店長

「コラ、矢場杉くん……。お客様をナンパするんじゃありません……」


新入り店員

「でも店長っ!! 俺がモテないのは叔父である店長も知っているじゃないっすかっ!! ここで逃したらっ!! 俺っ!! 一生結婚できないかもしれないっすっ!!」


店長

「もういい……。貴方はキッチンの方へ行って食器を洗っていてください……」


新入り店員

「えぇ……」


店長

「『えぇ……』ではありません。まったく、そういうところがあるからモテないのですよ。早く食器を洗いに行きなさい」


新入り店員

「はぁい……。分かりました……」


 新人店員は店内のキッチンへトボトボ歩いて行った。


店長

「ウチの店員が大変失礼しました」


ミナモ

「いえ、お気になさらず……」


店長

「普段は真面目な青年なんですけどね……。どうも美女が来られると……」


ミナモ

「そうなんですか……」


 そういえば、学生時代は裸鬼以外からあまりナンパされた事なかったなぁ……。


 彼が隣にいたからかな……。彼がいなくなってからやたらとナンパされるようになった気がする……。


店長

「……お客様を長年見てきましたが……もう何年も一緒に来てくださったお友達と来られる事がありませんが……彼と喧嘩しているのですか?」


ミナモ

「……うん……。まぁ、そんなところかな……」


店長

「……そうですか……」


ミナモ

「……人間関係って難しいね……」


店長

「そうですね……。人間関係とはとても難しいモノでございます……。早く仲直りできるといいですね……」


ミナモ

「……うん……」


店長

「仲直りできましたら彼を連れて、来てくださいね……。休日以外ならいつでもお待ちしております……」


ミナモ

「……うん……。店長さん、ありがとうございます……」


店長

「……少々、お節介を言い過ぎましたかな……。こちらがご注文のブラックコーヒーになります……」


ミナモ

「ありがとうございます」


 頼んだコーヒーを店長さんから受け取り、私は窓際の空いている席に座る。


 私はコーヒーを飲みながらカバンから取り出したアルバムを開き、写真を見る。


ミナモ

「……」


 それは、無邪気に笑い合っていた同期が写る写真だ。


 そこにはまだ10代の頃の私と裸鬼、そして世界最強にして最悪の能力犯罪者に成り下がった親友『由多 志木ゆだ しき』が写っていた。


 私はその写真を見つめながら過去を振り返る。


ミナモ

「……この時は……貴方が組織から抜けるなんて……思っていなかったよ……。志木……」


 私は……どうすれば……良かったのだろうか……。


 いつ、どこで、何をすれば……共にいて心強かった志木が……組織を去る未来を回避する事ができたのだろうか……。


 どうすれば……誰よりも優しかった志木が……能力犯罪者に成り下がる未来にならずにすんだのだろうか……。


 何をしたら……志木と私達が共に歩んで行ける青春時代と、これからあったであろう共に歩む未来を得る事ができたのだろうか……。


『ミナモ……。君と私が一緒ならどんな敵が現れても負ける事はない。何故なら私達は『最強のコンビ』だからね』


 私は志木の言葉を思い出しながら……どうにもならない、どうやっても変える事ができない過去に対して自問自答をする……。


ミナモ

「……志木……。私達は……最強で……最高の……コンビだったよね……。志木……」


 私が窓から空を見上げるとポツポツと雨が降り始めていた……。それはまるで私の心を映しているのではないかと思えてしまった……。


ーミナモ目線終了ー

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