第76話 無事を祈る

 僕は卯月達を連れてコウが待っているホテルに戻る。


コウ

「お? 戻ったか……。なんかいろいろと連れて来たな……」


熊丸

「コウさんもいらしたんですね。この度は我々も力になりたく来させていただきました」


コウ

「よろしく頼む」


 先程は冷静じゃなかったから気付かなかったけど、コウがいつもと違う喋り方だ。コウは普段少しふざけたように語尾を伸ばしている。


鉄也

「……」


 きっとコウもいろいろと冷静さを保つようにしていたのだろう。


 コウにとってもゴリラは大切な友人だ。それが目の前で連れ去られたのだ。


 コウだっていろいろ思うところはあるはずだ。それを必死に堪え、冷静を保っている。


 それなのに僕は……。


鉄也

「コウ……」


コウ

「ん?」


鉄也

「改めて言わせて。迷惑かけてごめん」


コウ

「……」


鉄也

「コウだって……同じ状況だったはずなのに……僕は冷静でいられなかった……。ごめん……」


コウ

「……いいよ、気にすんな……」


鉄也

「……コウ……」


コウ

「お前ができない事は俺がやる……。お前が冷静でいられない時は俺がぶん殴ってでも落ち着かせる……。お前が戦うのならお前の隣に立って共に戦う……」


鉄也

「……ありがとう……」


コウ

「フッ。お前の隣に立つ男だからな」


 コウと僕がそんな話をしていると卯月がコウの近くに寄る。


卯月

「いい気にならない事ね。貴方がだらしない時、鉄也様の隣にいる立場は私が貰うから」


コウ

「おー? やるかー? ビッチ猫ー」


卯月

「やってやろうじゃない。人間風情が」


鉄也

「コラコラ、喧嘩しないの」


亜数

「……フッ……。ようやくいつもの鉄也らしくなったな」


ゴスペル

「……そうにょね……。さっきまでの鉄也様もコウという人間にも心のどこかに焦りのようなモノを感じていたにょ……」




 僕達は作戦会議を始める。


 僕とコウが怨害と戦い、熊丸達が行方不明者の救出と護衛を行う。


 ニャンタロスの空間移動の能力で行方不明者を救出する。


 亜数さんの能力で防御力が高いクローゼットを作り出す。そしてニャンタロスが救出した人々をそのクローゼットの中に確保する。


 救出した人達が怪我をしていた場合は、コンスケがクローゼット内で能力を使用し、治療を行う。


 熊丸は救出作業をしているニャンタロスのフォロー。ニャンタロスに攻撃が来た際にはニャンタロスを護衛する。


 ゴスペルは亜数さんとクローゼットの護衛し、救出した人達と治療を行っているコンスケを護る。


鉄也

「そして卯月。お前は僕のそばにいてくれ。その力を貸してくれ」


卯月

「て、鉄也様が……。きゅん……了解致しましたっ!! この卯月っ!! どこまでも鉄也様のお尻について行きますっ!!」


鉄也

「……なんか言い方が嫌だ……」


コウ

「なー、鉄也ー。……俺はこのビッチ猫の能力を知らねーが役に立つのかー?」


卯月

「はぁっ!? 何を言ってくれているんですかっ!? 20年も生きていない若造がっ!!」


鉄也

「そういえば卯月の能力をコウはまだ知らなかったっけ?」 


コウ

「んー? おー。まったく知らないなー」


鉄也

「卯月の能力はサポート系ではそれなりに強いと思うよ」


卯月

「て、鉄也様……私の力を……そこまで信頼されているなんて……。きゅん……」


コウ

「本当かなー? こんな猫が役に立てんのかよー」


卯月

「あぁっ!? 舐めているのっ!?」


 卯月の能力は説明するより、実際に見た方が分かる。


鉄也

「とにかく卯月の力は役立つよ」


卯月

「えっへんっ!!」


鉄也

「だから大丈夫だよ」


コウ

「まー、鉄也がそこまで言うなら信じてやるよー」


卯月

「何? その上から目線の態度は?」


コウ

「おー? なんだよー? やるかー? ビッチ猫がー」


卯月

「殺すぞ」


コウ

「秋刀魚の開きみたいにしてやろうかー?」


鉄也

「はいはい。物騒な事をしないの」


 まったく……コウと卯月は顔を合わせる度に何故か喧嘩になる……。なんでかなぁ?


亜数

「話が進まなくなるから争うな」


ゴスペル

「にょぉ、卯月はなぁんで、コウとだけ喧嘩するにょかねぇ? 喧嘩するほど仲が良いって事かにょ?」


コウ

「仲良いワケねぇーだろうがー。ぶっ潰しちまうぞー」


卯月

「ゴスペル。貴方、私のこの爪に切り刻まれたいの?」


ゴスペル

「にょわっ!? こ、怖いにょっ!?」


鉄也

「はいはい。喧嘩しないの。それより、他の人はその作戦でいいかな?」


コウ

「異論はねぇーよー」


熊丸

「我々も異論はありません」


亜数

「任せておけ。とびっきり丈夫なクローゼットを出してやるぜ」


コウ

「なら出撃は明朝だなー」


鉄也

「気張って行こう」




 深夜0時、作戦会議が終わり僕は1人ホテル内の自販機で甘めのコーヒーを買う。買ったコーヒーを開けて飲む。


鉄也

「……ゴリラ……。頼む……無事でいてくれ……」


コウ

「やっぱりお前も寝れねーのかー……」


 コウがゆっくりとこちらに歩いて来た。


鉄也

「コウ……」


コウ

「……鉄也……。安心しろよー、ゴリラはものすごく馬鹿だがこんな事でくたばるほど柔じゃねぇー……。アイツのタフさはお前も知っているだろー」


鉄也

「……」


コウ

「あの馬鹿なら待っていてくれるさー。だから今はしっかり休んでおけよー」


 コウのその言葉は僕の事を安心させるだけの言葉だって事は分かっている……。


 けど、その言葉は……どこか優しく、安心させる言葉だった……。


鉄也

「うん……。コウ、ありがとう……。コウが僕の相棒で良かったよ……」


コウ

「おー。俺達は最強の『黒鬼コンビ』だからなー。俺とお前がいれば、どんな事だってやり遂げられるさー」


鉄也

「うん……。ありがとう……」




ーコウ目線ー


 部屋に戻る鉄也を見送った後、俺も泊まっている部屋に戻り、ベッドに横になる。


コウ

「……」


 ゴリラが連れ去られた時、鉄也はとても動揺していた。どんな敵が相手でも冷静だったアイツが……。


 それはきっと昔の事件の所為だ。軽はずみで肝試しをやりに行った場所で、殺人鬼に襲われた事件。あの時、鉄也は俺達を護る為に死にかけた。


 それから、鉄也が自身の知り合いが傷付く事を嫌がるようになったり、やたらと心配したりするようになった……。


 ミナモさんや俺が1週間くらい連絡が取れなくなったら能力を使って俺やミナモさんのいる場所に来るようになった……。


コウ

「……ゴリラ……。俺達があの時……戦えるだけの技量と力があれば……鉄也は……もうちょい普通の生活ができたかな……」


 そんな独り言をポツリと言っちまった……。


 ゴリラ……。お前さ……『責任とって鉄也を幸せにする』って昔、言っていたよな……。


 なら俺達がお前を助け出すまで……無事でいろよ……。精神が崩壊していたり、死んでいたりするんじゃねぇぞ……。


 鉄也は強い存在だ。いろんな事ができる能力あって、肉体的も丈夫で、剣術や体術もできる。すごく強い奴だ。


 けどよ……鉄也は、不屈の戦士ってワケじゃねぇんだ……。心は人より強いかもしれねぇけど……脆いもろいところだってあるんだからよ……。


 だから鉄也の精神を壊さない為にもお前は無事でいろよ……。


ーコウ目線終了ー

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