第74話 それだけでいい

コウ

「落ち着けっ!!」


鉄也

「落ち着けるかっ!! ゴリラがっ!! ゴリラが捕まったんだぞっ!! 赤の他人じゃないっ!! ゴリラは僕達にとって大切な友人だぞっ!! それにゴリラは戦士じゃないっ!! この件に巻き込んでいい奴じゃないっ!! 今すぐに助け出しに行かないとっ!!」


コウ

「だから落ち着けって言ってんだよっ!! 今焦って動いたところで敵の思う壺だぞっ!! 冷静になれっ!!」


鉄也

「だとしてもっ!! 相手が有利な状況でもっ!! 僕の命を引き換えにすればっ!!」


コウ

「馬鹿野郎っ!!」


 コウは僕の左頬を殴る。僕はその拳をマトモに受けて地面に転がる。


鉄也

「何しやがるっ!!」


コウ

「冷静になれっ!! 戦場では冷静さを失った奴から死んでいくっ!! それはお前も知ってる事だろうがっ!!」


鉄也

「……」


コウ

「とにかく頭を冷やせ……。とにかく俺は『怨害』の事を知らねぇ……。一度、作戦を練る為にホテルに行くぞ……」


鉄也

「……分かった……。ごめん……」



 僕とコウは宿泊するホテルに行き、部屋に入って作戦会議を始める。



コウ

「……とりあえず、さっきも言ったが……俺は『怨害』ってのは詳しく知らねぇ。詳しい説明をしてくれ」


鉄也

「『怨害』ってのは、さっきも言ったけど人間の負の感情の集合体。負の感情が長い年月をかけて集まって、重なり合って、霊的な化け物となった存在」


コウ

「さっきもそう言っていたな。俺は基本的に幽霊とか見えねぇから分からないけど」


鉄也

「それを言うなら僕だって見えるだけで専門外だよ」


コウ

「まぁ、いい続けてくれ」


鉄也

「『怨害』は基本的に夕暮れ時から夜になると力が増して、活動が活発になる。まだ確証はないけど……行方不明者が夕暮れ時に姿を消しているのは……『怨害』の活動時間だったからだと思う……」


コウ

「なるほどな」


鉄也

「僕は『怨害』と戦った事は1度しかない。けど、霊媒師の話によると知能は低い。だから人に取り憑くという知性はない。人を襲うのも本能に近いらしい。僕やコウが襲われなかったのは本能的に襲えなかったんだと思う」


コウ

「ならなんでゴリラは襲われたんだ? 鉄也の話が本当なら鉄也と俺は耐性ってのがあるんだろう? 俺達の近くにいたゴリラは襲われにくいんじゃねぇのか?」


鉄也

「分からない……。僕もそう考えていたんだけどね……。霊媒師からも僕やコウの存在は幽霊達からしたら脅威になるらしい。だから一種の魔除けみたいなモノになるって聞いていたから……」


コウ

「え? 俺も?」


鉄也

「戦いの経験がある人は、魂や精神力を錬磨させる。それが霊的な存在に対する耐性になって、幽霊には一種の脅威になるらしい……。僕もそこまで詳しくはないからどういう脅威になるとかは知らないけど……」


コウ

「そうか。ならお前の知り合いの霊媒師と連絡をとって、来てもらった方がいいな」


鉄也

「それができるならとっくにやっているよ。あの人……どこにいるか分からないんだよ……。あの人、急に現れて、急にいなくなるから」


 僕の知り合い霊媒師の『櫻田さくらだ』という人は、あの人が僕に用事があると現れて、用事が終わるとすぐにいなくなる。携帯電話も持っていないから連絡もできないし、どういうワケか僕の感知能力にも引っかからない。まったく、あの人は謎が多い。


コウ

「これはちょっとした疑問なんだが……どこでそんな人と出会ったんだよ?」


鉄也

「ん? ああ、僕のバイト先の常連客。たまたま話していて、仲良くなった間柄だよ。なんでも元『国の盾』の専属霊媒師だったらしい」


コウ

「そんな人がいたのか。俺は知らんな。幽霊関係で困った事なかったし」


 まぁ、コウの場合は寄ってきた悪霊は僕が殴って追い払っていたからね。


コウ

「まぁ、いい。呼び出せねぇんなら仕方ない。『怨害』の話を続けてくれ」


鉄也

「『怨害』は自身の存在維持をする為に人を襲う。そして捕らえた人間を殺さないように流動力と負の感情を吸い取る」


コウ

「ならまだゴリラは今すぐに殺される事はねぇって事か」


鉄也

「でも、安心はできない。『怨害』は本能で『異界』って技を会得する……。でも、引き摺り込む範囲が町全体って事は……それだけ力を蓄えているって事だよ。それに負の感情を吸い取る為に……『怨害』は捕らえた人間のトラウマを夢で見せ続ける……。霊媒師の話によると精神崩壊を起こす人もいる……」


コウ

「そうか。とりあえず鉄也は霊的な存在に大ダメージを与えるって武器を今から取りに行ってくれ。あとその武器の性能を教えてくれ」


鉄也

「わかった」


 僕は『銀星』を作り出す。


 『銀星』は、僕の能力で作り出した銀色の宝玉。この宝玉は、行った事がある場所に空間移動する事ができる。


 僕は『銀星』を使って自室に空間移動する。



ー鉄也の部屋ー


鉄也

「……」


『やめろおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?!? もうやめてくれええええええぇぇぇぇぇっ!?!? うああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?』


『にょおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?!? なんでオイラまで巻き込むにょおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?!?』


『今日はミナモも鉄也もいないっ!! 今日は邪魔はされないっ!! さぁっ!! 今夜は寝かせないぞっ!!』


『ズブッ。ドリュリュリュリュリュリュリュリュリュウウウゥゥゥゥゥ』


『んにょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!?!?』


『ゴスペルウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!?!?』


『名前……』


『え?』


『初めて……名前を呼んでくれたにょね……』


『ゴ、ゴスペルッ!! お、お前ぇっ!? このディスコは何回も言ってるからなっ!! お前忘れているのかっ!?』


『にょっ!? そうだったにょかっ!? 忘れていて恥ずかしいにょっ!!』


『まだ喋れる余裕があるようだな……。なら大きくしてみようか……』


『ズゴゴゴゴゴゴォォォォ』


『にょおおおおぉぉぉぉっ!?!? 裂けるっ!? 裂けるにょっ!?!?』


『ここからが回転だ』


『ドリュリュリュリュリュリュリュリュリュウウウゥゥゥゥゥ』


『んほんにょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?!?』


『ゴスペルウウウゥゥゥゥゥッ!?!? 助けてくださいっ!! 誰かっ!! 誰か俺達を助けてくださいぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!』


鉄也

「……」


 ディスコさんとゴスペル、亜数さん。まぁた、クローゼットに入っているよ……。


鉄也

「まぁ、いいや。それより『神木霊剣』はどこだっけ……」


卯月

「鉄也様。どうかされたのですか?」


鉄也

「ちょうどいい。卯月、お前も来てくれ」

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