第71話 鉄也の嗅覚は様々な匂いを嗅ぎ分ける。くんくん……

 A県の行方不明事件が起きている町に到着し、さっそく行方不明になった人達が普段通る道の探索をする事となった。僕達が最初に捜索し始めたのは最近行方不明になった人の通り道だ。


コウ

「行方不明になってまだ3日しか経ってないからなー。手掛かりらしきモノがあればいいんだけどよー」


鉄也

「コウ。行方不明になった人……確か『奥村』って人だっけ? その人の持ち物とかある?」


コウ

「そう言うと思ってよー。用意しといたぜー」


 コウは背負っていたカバンから袋を取り出す。その中から革靴が出てきた。


コウ

「ほらよー。嗅いで調べろー」


鉄也

「くんくん……」


 僕は靴の匂いを嗅いで、周囲の匂いを確認する。


鉄也

「くんくん……この道の途中から匂いが消えてる。魂の気配もここの道の途中から無い。たぶんここで何かあったんじゃないかな?」


コウ

「魂の気配?」


鉄也

「うん。人の魂の気配っていうのかな? 残滓ざんしっていうのかな? そういうモノは匂いで感じる。気配を隠そうとしてなければなんとなく分かる」


コウ

「なんでもありかよー」


国島

「あれ? 鉄也くんにコウくんじゃん」


国田

「国島、言葉を慎め。コウさんだろう。コウさんは今は『帝』なんだから敬語で話せ」


 探索をしている最中にミナモさんの部下の国島さんと国田さんが話しかけてきた。


鉄也

「国田さん達がこの事件の調査をしていたんだ」


国田

「はい」


コウ

「別に気にしなくていいよー。『帝』ってのは強い奴に与えられる称号だからなー」


国島

「なんで2人がここに?」


コウ

「まー、依頼だよー。行方不明事件のー」


鉄也

「何か分かった事とかあります?」


国田

「こちらも収穫はありません。行方不明者の共通点もありませんし……」


コウ

「国田さん達が持っている情報もくれー。情報整理したいー」


 まず最初の行方不明者は『春咲 ひなの』。A高等学校に通う18歳の少女。学校帰りに行方不明になったとの事。家族との折り合いが悪かったらしく、当初はただの家出ではないかと考えられていた。


 その3日後に同じ学校の16歳の生徒『夏木 ヒカル』が行方不明になる。彼は家族との仲も良く、友人も多い。人間トラブルになる事もなかった少年だった。


 その1週間後、A県の自動車工場に勤める『秋本 くるみ』が行方不明になる。彼は去年結婚したばかりで、仕事も順調。順風満帆な人生だったらしい。しかし、突然行方不明になった事により事件ではないかと……。


 警察もなんらかの事件ではないかと動いたがまた1人、また1人と行方不明になっていく。組織の一員である国島さんと国田さんが捜索を始めたが、何も手掛かりが掴めないとの事。


国島

「こっちもいろいろ調査や聞き込みしたけど、手掛かりがまったくなくてどうしたもんかと困っていたんですよね。けどまさか『帝』が動くとは……」


コウ

「まー、組織の関係者や血縁者まで行方不明になったらなー。組織の奴等もやべぇって思ったんだろーさー」


鉄也

「しかし妙だなぁ……。連れ去られたんならそれらしきモノを感じそうなんだけど……」


 ん? 行方不明の奥村さんって人の匂いが消えてる辺りからなんか赤黒いモヤみたいなモノが一瞬見えた。


 あの感じ……霊的なモノか? しかもかなりヤバいタイプのモノに似ている……。


鉄也

「……」


コウ

「んー? どうしたんだー?」


鉄也

「ねぇ、コウ……。この町ってさ……なんかヤバいモノとか祀ったりしてないよね?」


コウ

「そこまでは知らねーよー。てか今、そんなの関係ねーだろー」


国田

「そういえば、この町……過去に邪神を祀っていた事があるって聞いた事がありましたね」


国島

「なんでそんな事を?」


国田

「実はオカルト好きなので」


鉄也

「……」


コウ

「……鉄也?」


鉄也

「ちなみにそれは現在進行形で祀られていますか?」


国田

「いえ、もう廃れてしまったと……」


 もしかすると、もしかするかもなぁ……。あまり考えたくないけど……。


鉄也

「ちなみにその邪神とやらが祀られていた場所って分かりますか?」


国田

「町外れに古びた神社がまだ残っているそうです」


 国田さんから詳しい位置を確認する。この町の外れの北東か……。勘弁してほしいな。僕は幽霊とか見えても専門外なんだけど……。


鉄也

「分かりました。ありがとうございます。コウ、ちょっと来て……」


コウ

「お? お、おうー」


 僕達はその古びた神社とやらに向かって歩き出す。


コウ

「鉄也。なんか分かったのかー?」


鉄也

「行ってみない事には確信は持てないけどね……。僕の予想が正しかったら……たぶん、今回の事件を起こしているのは人間じゃない……」


コウ

「は?」


鉄也

「魂の気配っていうか、残滓というか……。突然、途中から消すなんてのは……誰にでもできる技術じゃない」


コウ

「……」


鉄也

「気配を消す技法を使える人だけだよ」


コウ

「そーなのかー?」


鉄也

「僕やコウみたいに昔から気配を消す訓練をしている人ならできなくはないけど……なんの訓練もしていない人ができる技術じゃない……」


コウ

「攫われたって可能性はー?」


鉄也

「攫われたとしてもその時の魂の残滓みたいのは残る……。攫った奴が気配を消す技法を使えたとしても、他者の魂の残滓を消すなんて芸当はできない」


コウ

「鉄也みたいな能力なら可能なんじゃねぇかー?」


鉄也

「可能性が無いわけじゃないけどね……。能力なんて人の数だけあるし、全てを把握するのは無理だから……。ただ霊的なモノが一瞬見えたから……もしかしたらって可能性があったんだよ……」


コウ

「ふーんー」


 僕の予想が外れていて欲しいけど……。


 

 僕とコウは、国田さんが教えてくれた古びた神社に到着する。


 先程見えた赤黒いモヤのようなモノがそこら中にある。


コウ

「ここに来る時にこの神社の歴史を軽くネットで調べてみたけど見るかー?」


 コウの携帯電話を借り、その情報を確認する。


 『黒霧神社くろきりじんじゃ』。A県のとある村で化け物が現れた。赤黒い霧をその身にまとった赤い瞳の化け物。その化け物は、村人を次々殺していった。それに恐れた村人はその化け物を神として崇め、生贄を差し出し、災いを納めていた。またその化け物は人の死を好み、村人達はその化け物の前で罪人を殺していた。


鉄也

「……神として崇めたねぇ……。人の死を好むって随分と物騒だな……」


コウ

「まー、元は化け物だからなー」


鉄也

「……化け物が恐ろしいから神として崇め、怒らせない為に生贄を差し出し、罪人を殺すところを見せてご機嫌をとるとか……」


コウ

「まー、そう言ってやるなよー。大昔に俺やお前みたいな強い存在がいなくて、太刀打ちできなかっただろうからさー」


鉄也

「……まぁ、いいか……」


 僕は神社周囲を探索する。


 神社の探索すると自分の未熟さからコウとゴリラを危険な目に合わせてしまったあの出来事を思い出し、嫌な気持ちが湧き上がる。


 あの時、もっと僕が強ければコウもゴリラも危険な目に合わずにすんだと思うと……当時の弱かった自分に腹が立ってしまう……。


コウ

「鉄也……。何探しているか分からねーけどよー……。無理すんなよー」


鉄也

「大丈夫。仕事に支障はないよ」


コウ

「……無理すんなよー」


 探索を開始してからそこまで時間が掛からない内に僕が探しているモノが見つかった。


 社の裏側……。赤黒いモヤが集まっている場所があった……。


コウ

「何かあるみてぇだなー……。俺の目にはなんにも見えねぇーけどよー……嫌な気配っていうのかなー……なんかそこにあるのは分かるぜー」


鉄也

「……『異界』か……」


コウ

「『異界』って……あの『異界』かー? 流動力操作の奥義のアレかー?」


鉄也

「うん。これは僕の勘だけど、この町……全体が『異界』に引き摺り込む射程範囲なんじゃないかと思う……」


コウ

「おいおい、そんな長距離を射程範囲にできるモンじゃーねぇーだろー。そもそも『異界』を維持するのにも相当な流動力が必要なはずだろうがー」


鉄也

「……」

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