第70話 依頼

 いよいよ明日から夏休みになったある日。


 僕とコウは校長先生に呼び出された。校長室に入ると校長先生は僕等にソファーに座るように促す。


 校長先生は『学帝がくてい』の『二宮にのみや まなぶ』。『国の盾』の8番隊の隊長を務めているお偉いさんだ。8番隊は主に訓練兵を育成する為の部隊だ。


 ちなみに何故、僕が『学帝』が校長をしている学校に通っているかというと、僕が学校内でなんらかのトラブルを起こした時に止める役割をする人物が必要だったからだ。


鉄也

「校長先生。いきなり呼び出してどうかなさいました?」


コウ

「仕事の依頼かー?」


学帝

「まぁ、依頼をしたくて呼ばせていただきました」


 校長先生がそう言うとコウの目付きが少し変わる。


コウ

「なら鉄也を呼ぶのはまずくねぇかー? 鉄也はあくまでも組織の協力者であって、組織の人間ってワケじゃねぇー。組織の仕事をやらせるのは……」


鉄也

「まぁ、僕はコウの仕事を手伝ったりしているし、今更って気はするけど……」


学帝

「コウくん。君、また鉄也くんを仕事に連れ出したでしょう」


コウ

「あ、あれは鉄也がついてきただけだってばー」


学帝

「挙句に報告書を鉄也くんに書かせたでしょう。他の人達は騙せても私やミナモさん、岩帝さんは騙せませんよ」


コウ

「ぐぅ……」


学帝

「まぁ、それは今はいいです。話が脱線してしまいましたね」


コウ

「今回は断りてーんだけどー。ちょっと頼まれて調べ事があるんだよー」


鉄也

「まぁ、話だけでも聞こうよ。それで? 僕達に頼みたい仕事ってなんですか?」


学帝

「そうですね……。では依頼内容をお話します」


 校長先生の依頼内容は『A県のとある町の行方不明者が多発している事件についての調査をしてほしい』という事だった。


 今年の春から始まり、現在37人が行方不明になっている。警察が調査するもなんの手掛かりも掴めず、組織も動いているがなんの成果も得られない状態らしい。事件の共通点は夕方目撃したのを最後に消息が掴めない事、そして16歳から29歳の若者である事だけだ。


学帝

「行方不明者の中には私の元教え子や姉妹校の生徒もいます」


コウ

「……」


鉄也

「……」


学帝

「本当なら私自ら出向きたいのですが……私は能力の縛りでこの町から離れられません……。悔しい限りです……」


 校長先生の能力は詳しく知らないけど、校長先生は学校と生徒達を護る為に能力の底上げをしたらしい。その結果、『帝』の中では五本指に入る実力を得たが、代償としてこの町から離れられないそうだ。


 こんな時に思うのは少し無礼な気がするけど、『国の盾』の本部がここにあって良かったと思う。会議があった時に出向く事ができるから。


コウ

「なるほどー。それで俺達かー。鉄也は『帝』と遜色無いそんしょくないくらいの実力あるし、組織に所属しているワケじゃねぇーから監視があればどこでも行けるし、俺も自分の部隊があるワケじゃねーからなー」


学帝

「それに鉄也くんの能力はいろいろな事ができる。もしかしたら原因が掴める可能性があるかと……。本当は君達のような生徒は巻き込みたくない……。けれど……」


鉄也

「その行方不明になっている方の中に……校長先生のお子さんかご兄弟ですか?」


学帝

「え? 何故それを」


鉄也

「なんとなく」


 なんとなくだけどそう感じた。校長先生の心配の仕方がどことなくミナモさんに似ていた気がした。だからそうじゃないかとなんとなく思った。


学帝

「……はい。まぁ、歳の離れた妹がいましてね……。やりたい事があるからとその県に行って……そこから……」


コウ

「ちょっと待てよー。組織の幹部とあろう奴が私利私欲で生徒を……それも俺達みたいな立場の奴を動かすってのはどうかと思うぜー」


学帝

「……私もそう思います……。ですが……」


鉄也

「まぁ、引き受けるんですけどね」


学帝

「え?」


コウ

「まーなー。校長先生にはいろいろ世話になってるからなー。断る事はしねーよー。同じ立場なら同じ事しているかもしれねぇしなー。それに王帝からも今回の件は直々に依頼されていたんだよー」


学帝

「王帝からですか?」


コウ

「組織の関係者や血縁者が行方不明になってるからなー。学帝に頼まれる前に依頼されていたんだわー」


 え? 何それ? 僕はそんな話、聞いてないんだけど?


コウ

「鉄也。自分聞いてないんだけどって顔しているけどよー。お前は確かに協力者ではあるけど、組織の人間ってワケじゃねーんだからそりゃ言われねーよー」


鉄也

「むぅ……」


コウ

「頬を膨らませてもなー」


鉄也

「まぁ、ついて行くから別にいいか」


『ピローン』


 ん? メールか。誰からだろう? あ、王帝のおっちゃんからだ。


『鉄也くんへ

チャオッ!! 鉄也くん、元気にしていたかな? 王帝のおっちゃんだよぉ。

鉄也くん。コウくんと一緒に任務受ける気ない? と言ってもコウくんが任務に行くから多分ついて行くかな? 

だからこっちから先に依頼しとくねっ!!

詳しい情報はコウくんから聞いてねっ!!

そんじゃっ!! 王帝より』


鉄也

「……王帝から僕にも今、依頼が来たよ」


コウ

「……いいのかー? それでー……。国の裏側のトップがそんな感じのメールして……」


鉄也

「え? 王帝のおっちゃんに仕事頼まれる時はこんな感じだよ。僕とおっちゃんは仲良しの友達だからね」


学帝

「私が言うのも変ですが……随分と軽い感じで依頼してきますね……。まぁ、いいです。では、2人ともお願いします」


コウ

「とりあえず、明日の朝から出発するぞー」


鉄也

「分かった」


 こうして僕とコウはA県の行方不明事件が起きている町に行く事となった。


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