第69話 ニャンタロス

ーニャンタロスー


 にゃーの名前は『ニャンタロス』。かつてとある村で『富をもたらす猫神』として祀られていた存在にゃ。まぁ、今は鉄也様に仕える使い魔をしているにゃ。


鉄也

「ニャンタロス。出かけるよ」


ニャンタロス

「鉄也様。にゃーは今毛づくろいで忙しいのにゃ」


鉄也

「いいからケージに入って」


ニャンタロス

「そこ狭いから嫌にゃ」


鉄也

「帰りにマグロの刺身を買うから」


ニャンタロス

「しょうがないにゃ」


 にゃーは鉄也様が用意した猫用のケージに入り、鉄也様に運ばれる。狭いのさえ我慢すればお刺身にありつけると思えばこの程度、我慢できるにゃ。


 にゃ? なんか見覚えがある道にゃ……。


ニャンタロス

「鉄也様。1つ聞いてもいいかにゃ?」


鉄也

「ん? どうしたの?」


ニャンタロス

「今からにゃー達はどこに行くにゃ?」


鉄也

「え? あぁ、うん。そういう事ね……。ただの散歩だよ」


 こ、この目っ!! な、何か隠しているにゃっ!! 考えろっ!! 考えるにゃっ!! にゃーはこう見えて神にゃっ!! ちょいと考えれば分かるはずにゃっ!! 


 鉄也様は隠し事をする時は必ず目を逸らすにゃ……。にゃーに何か隠しているにゃ……。


 この道……。この匂い……。ま、まさかっ!? 獣医さんかにゃっ!?


ニャンタロス

「て、鉄也様っ!! きゅ、急用を思い出したにゃっ!! 今日はヴァイオリンのお稽古があるにゃっ!! 今日こそあの曲をマスターしないとならないにゃっ!!」


鉄也

「今日は休め。諦めろ」


ニャンタロス

「うにゃああああぁぁぁぁっ!! 出すにゃっ!! ここから出すにゃっ!!」


鉄也

「諦めて行くよ」


 そ、そうにゃっ!! にゃーの能力を今こそ使う時にゃっ!!


 にゃーの能力の名は『猫足時空ねこあしじくう』にゃっ!! 空間と空間を繋ぎ合わせて移動する能力にゃっ!! その力を使ってここから脱出するにゃっ!!


 にゃっ!? にゃにぃっ!? 能力が発動しないにゃっ!?


鉄也

「ニャンタロス。君と何年一緒にいると思っているんだ? 君が逃走する事くらい想定しないと思っていたのか?」


ニャンタロス

「にゃっ!?」


鉄也

「このケージは僕の能力で作り出した物だ。ありとあらゆる能力効果を無効化するようかなり力を込めて作り出した。諦めろ。ニャンタロスの負けだ」


ニャンタロス

「にゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」


 こうして獣医の所に来ているにゃ……。


 何故にゃ? 何故、にゃーはここに連れて来られたにゃ? にゃー病気にかかってないにゃ。怪我もしていないにゃ。それなのに何故にゃ?


獣医のおじさん

「あのぉ、鉄也くん。毎回思うんだけど……この猫、本当に猫なの? なんか尻尾が2つあるし……」


鉄也

「猫です」


ニャンタロス

「にゃーは猫じゃないにゃっ!! 富を司る神にゃっ!!」


獣医のおじさん

「しかも喋るし……。長年獣医をしているけど、こんな猫は見た事ないよ? なんで喋るの? なんで尻尾が2つあるの? え? 怖いんだけど……」


ニャンタロス

「えぇいっ!! 触るんじゃないにゃっ!! 人間っ!! にゃーはどこも悪いところはないにゃっ!!」


鉄也

「ダメだよ。健康診断をしないとならないんだから。毎年の事でしょ。卯月は大人しく診断されて、ワクチンも打っていたよ」


ニャンタロス

「にゃああああぁぁぁぁっ!! やめるにゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 鉄也様っ!! 離してくれにゃあああぁぁぁぁっ!!」


鉄也

「ほら。マグロのお刺身だよ」


ニャンタロス

「にゃーっ!!」


鉄也

「今だっ!! 『ファントム・マジシャン』っ!! 『ペット・バインド』っ!!」


 しまったにゃっ!! にゃーが刺身に目を奪われた隙に鉄也様の能力で作り出されたロープでぐるぐる巻きにされたにゃっ!!


獣医のおじさん

「鉄也くん。君が能力者なのは知っているけど……いきなり能力を使うのやめてくれない。ビックリするんだよね」


鉄也

「獣医のおじさんっ!! 今の内にっ!! 健康診断とワクチンをっ!!」


獣医のおじさん

「任せなさいっ!!」


ニャンタロス

「にゃああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!? お注射嫌にゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」


 そしてにゃーの地獄が始まる……。


獣医のおじさん

「じゃあ、チクっとするよぉ。動かないでねぇ」


『プスッ』


ニャンタロス

「うんぎぃにゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」


 それはまるで永遠のように感じたにゃ……。


ーニャンタロス目線終了ー



鉄也

「ニャンタロス。いい加減機嫌直してよ」


ニャンタロス

「にゃーを騙しておいてその態度はなんなのにゃっ!? にゃーはこの世の地獄を味わったにゃっ!!」


卯月

「別にそんなに怒る事じゃないと思うのだけど?」


ニャンタロス

「もう怒ったにゃっ!! 鉄也様とは絶交にゃっ!!」


鉄也

「ほらマグロ丼だよ。ちゃんと大トロも乗せたよ」


ニャンタロス

「にゃーっ!! ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツッ!!」


 どうやら機嫌が直ったようだ。

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