第68話 模擬戦

ーとある日の帰り道ー


鉄也

「コウ。今日、組み手しよう」


 ここ最近、組み手をしていなくて、体が鈍りそうだから体を思いっきり動かしたいので、僕はコウを組み手に誘った。


コウ

「いいぞー。どこでやるんだー?」


鉄也

「『国の盾』で訓練用で使う山とか使えない?」


 『国の盾』では、実戦訓練をする為の山がある。その山は通称『筋肉山きんにくやま』と呼ばれている。昔の戦士達が自慢の筋肉を見せ合い、鍛え合っていた山だからそう呼ばれているらしい。そこで訓練兵は訓練を行っている。


コウ

「おー。あそこかー。ちょっと借りられないか聞いてみるけどよー。立ち合い人とか呼んだ方がいいんじゃねーかー?」


鉄也

「そうだよね」


 僕とコウが本気で組み手したら途中からガチになっちゃうからね。ガチになり過ぎた時に止めてくれる人がいた方がいいよね。


鉄也

「でも僕とコウを止められる知り合いって誰かいる? ミナモさん、今日も忙しいみたいだよ?」


コウ

「爺ちゃんも今日は忙しいらしいからなー」


鉄也

「王帝のおっちゃんは?」


コウ

「『国の盾』のトップをわざわざ呼び出すのはなぁー……」


鉄也

「他の帝達は? 誰かいないの?」


コウ

「裸鬼さんにでも頼むかー。あの人なら暇だろー」


 コウは携帯電話を取り出して、電話をかける。


コウ

「裸鬼さーんー。今暇ー? 今暇じゃないー? えー。何しているのー? えー? ゲームしているのー? ならそれやめて『筋肉山』に来てほしいんだけどー。えー? なんでって、そりゃー俺と鉄也が組み手するからさー。おー、30分後にお願いしますー」


 コウは電話を終えると『来てくれるらしいぞー』と言った。


鉄也

「そんじゃ、筋肉山まで競争だっ!!」


 僕は全速力で筋肉山に駆け出す。コウも『おーいーっ!! いきなり走り出すなよーっ!!』と言いながら僕を追いかける。


 筋肉山に到着すると裸鬼さんがいつもの褌姿で腕組みしながら待っていた。


裸鬼

「お前達さぁ。俺の事をなんだと思っているんだよ? 俺はさ、せっかくの休日だからさ、ゲームをしていたのによぉ」


コウ

「いやー、だって俺と鉄也が本気で殴り合った時に止められる人って裸鬼さんくらいしかいないから仕方ないしよー。頼りにしているんだよー」


鉄也

「よっ!! 副隊長っ!! 頼りになるぅっ!!」


裸鬼

「仕方ねぇなぁっ!! まっ!! 俺は副隊長だからなっ!!」


 相変わらずこの人はチョロいな。そう思いながら僕とコウは準備運動をし始める。


裸鬼

「ルールとか決めておいた方がいいか?」


コウ

「そうだなー。腹に1発撃ち込まれたら負けってのはどうだー?」


鉄也

「いつものルールか。それにしようか。能力はどうする?」


コウ

「今日は無しでやろー」


 僕とコウは流動力を全身にまとわせる。


 コウは両足を少し開き、左足を前に出す。つま先を少しだけ立てる。姿勢も少しだけ前傾になり、腰は少し落とす。顎を少し引く。


 僕は両足を少し開き、右足を少しだけ前に出す。姿勢を少し前傾にする。右手を前に突き出す。左拳を腰のあたりに構える。


裸鬼

「準備はいいか?」


コウ

「おー」


鉄也

「いつでもいいですよ」


裸鬼

「では……始めっ!!」


 裸鬼さんの掛け声と共に僕とコウは駆け出すっ!!


 コウの右ストレートが僕に目掛けて放たれるっ!! 僕は突き出した右手で叩いてコウの拳の軌道を逸らすっ!! 僕はそのまま右肘をコウの顔面に叩き込もうとするっ!! だがコウは後ろに跳んで攻撃を避けるっ!! 


 コウは地面に着地した瞬間に突進して来たっ!! 拳のラッシュを僕に叩き込んでくるっ!! 僕は両手でラッシュを叩いて軌道を全て逸らすがコウはすぐに拳を戻し、殴ってくるっ!!


 僕はコウの拳を掴んで、思いっきり引っ張り引き寄せ頭突きをしようとするっ!! コウは左手で僕の頭突きを防ぐっ!! 僕はコウの拳を離して距離を取るっ!!


コウ

「相変わらずエグいなー」


鉄也

「コウも相変わらず強いね」


コウ

「今度はこっちから行くぞーっ!!」


 コウは僕の方に駆け出し回し蹴りを繰り出すっ!! 僕はその蹴りを紙一重で避け、コウの突き出した右足を掴むっ!!


コウ

「っ!?」


鉄也

「ウラアアアアアアァァァァッ!!」


 そしてそのままコウを持ち上げて地面に叩きつけようとするっ!!


コウ

「オラアアアァァァッ!!」


 コウは咄嗟に拳を地面に叩き込み衝撃を弱めるっ!!


鉄也

「マジか」


コウ

「今度はこっちの番だっ!! オラアアアァァァッ!!」


 コウは僕に足を掴まれたまま左足で僕の顔目掛けて蹴りを喰らわそうとするっ!!


鉄也

「くっ!!」


 僕は掴んでいる足を離し、両腕でコウの蹴りを防ぐがそのまま吹っ飛ばされるっ!!


鉄也

「いったぁ……。流動力をまとわせていなかったら骨折れていたかも……」


コウ

「さすがだなー。あれを受けてその程度かー」


鉄也

「負けてられないなっ!!」


 僕はコウに向かって駆け出し、飛び膝蹴りをコウの腹に目掛けて叩き込もうとするがコウは両拳で僕の膝を防ぐっ!! けど威力を抑え切れず後ろに吹っ飛んで倒れ込むっ!! 


コウ

「いってぇー」


鉄也

「ウラアアアアアアァァァァッ!!」


コウ

「っ!?」


 僕は倒れ込んだコウの腹を踵で踏みつけようするっ!! だがコウは咄嗟に地面を転がり僕の攻撃を避けるっ!! コウは立ち上がりながら右アッパーを叩き込もうとするっ!! 僕は後ろに跳んで避けるっ!!


鉄也

「やっぱりコウは強いなぁ」


コウ

「お前が言うかー? お前だって強いだろー」


鉄也

「いくぞっ!! ウラアアアアアアァァァァッ!!」


 僕はコウの頭、胸、腹に前蹴りを放つっ!! だがコウは拳で蹴りを防ぐっ!! そしてコウはそのまま左拳で殴り掛かってくるっ!! 僕はその拳を前蹴りで相殺するっ!!


コウ

「やるじゃーん」


鉄也

「そっちこそっ!!」


 コウと僕は咄嗟に後ろに下がり、お互いに突進するっ!!


鉄也

「ウラララララララララァァァァッ!!」


コウ

「オラオラオラオラオラオラオラオラァァァァッ!!」


 僕とコウは互いに殴り合うっ!! 殴り掛かる拳を自身の拳で弾いて、自身の拳で殴り掛かり、だが相手の拳で弾かれる攻防戦を繰り広げるっ!! 


 僕とコウは一旦互いに距離を取る。


鉄也

「このままだと決着つかなそうだし、お互いに大技を繰り出そうか」


コウ

「そうだなー」


 僕は右膝に流動力を集めて強化する。コウも右の拳に流動力を集め強化する。


鉄也

「『飛突・朱雀ひとつ・すざく』」


コウ

「『破拳・玄武はけん・げんむ』」


 僕の膝とコウの拳っ!! 互いに互いの流動力を使った大技が炸裂するっ!!


鉄也

「ウラアアアアアアァァァァッ!!!!」


コウ

「オラアアアアアアァァァァッ!!!!」


裸鬼

「あっ!? 辺りの木々が技の衝撃波でへし折れていくっ!? こ、これっ!? や、やべぇヤツやんっ!?」


 お互いに技の威力で吹っ飛ばされるっ!!


鉄也

「ウラアアアアアアァァァァッ!!」


コウ

「オラアアアアアアァァァッ!!」


 互いに態勢を立て直し、互いに拳を構え突進しようとするっ!!


裸鬼

「ストップッ!! ストップッ!! ストオオオォォォッッップウウゥゥゥッ!!!! これ以上はマズイからやめてええぇぇっ!!!!」


 裸鬼さんが僕とコウの間に入り、組み手を止めにかかるっ!!


鉄也

「裸鬼さん、危ないですよ」


コウ

「離れてろよー」


裸鬼

「辺りを見てみろっ!! 周囲の木々が倒れちまってんぞっ!! 後片付けするの誰だと思ってんだよっ!! 今日の組み手は引き分けとするっ!!」


コウ

「ちぇー、まーたー決着つかなかったなー」


鉄也

「ね。それにしてもコウ、強くなったね」


コウ

「お前こそー」


 そんな話をしていると裸鬼さんの部下の佐々木さんと浦田さんがこっちに走って来た。


佐々木

「副隊長っ!! ここにいらしたんですかっ!! ってっ!? な、なんですかっ!? この有様はっ!?」


浦田

「副隊長っ!! 仕事のミスがあったから早く直しに来てくださいっ!! ってっ!? ふぁっ!?」


鉄也

「佐々木さんに浦田さん。ちょっと組み手していただけですよ」


浦田

「そ、そうなるかぁ? 普通?」


佐々木

「お? 鉄也くんじゃん。相変わらず小さいし、可愛いなぁ」


鉄也

「はっ倒すぞ」


佐々木

「まぁ、ウチの奥さんほどじゃないけどね」


鉄也

「おっ!! ついに付き合って結婚したのっ!?」


コウ

「マジかよーっ!! ずーっとウジウジしていたからまだ付き合っていないと思っていたのによーっ!! いつの間に結婚したんだよーっ!! 隅に置けないなぁー。このこのー」


浦田

「まったくっ!! ようやくだからなぁっ!! 俺がうまくアシストしたおかげだなっ!! 感謝しろよっ!! このこのぉっ!!」


佐々木

「いやぁ、照れるなぁ。去年の終わりに告白して今年の春に籍を入れたんだ」


鉄也

「奥さんの顔ってどんな感じ?」


佐々木

「1つ年上の姉さん女房って感じの人だよ」


 ロケットペンダントを取り出して、写真を見せてくれる。美しい金色の髪のカッコいい雰囲気のある女性だった。


佐々木

「奥さんは『エリカ』っていって本当に素敵な人だよ」


浦田

「でも、これからだからな。仕事はいつも以上に頑張らなきゃならないし、奥さんをしっかり支えてやるんだぞ」


佐々木

「はいっ!!」


浦田

「ウチのガキはもう直、大学生だがまだまだ心配でな。これからもっと俺が稼いでやらないとな」


裸鬼

「羨ましいなぁっ!! チクショウッ!! 惚気やがってっ!! お前らっ!! 片付けして帰るぞっ!!」


浦田

「副隊長も片付け終わったら仕事のミスを直しに本部に来てくださいよ」


裸鬼

「分かっているよっ!!」



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