第64話 視線

 僕とコウ、ついでにゴリラはミナモさんにコッテリ説教された。


 ミナモさんの部下の方々が銀行強盗達とその仲間達に能力封じの手錠をつけて、連行用のバスに乗せていく。


ヒョロガリの銀行強盗

「おいっ!! 嬢ちゃんっ!!」


鉄也

「誰が嬢ちゃんだっ!! 僕は男だぞっ!!」


ヒョロガリの銀行強盗

「なんでだっ!?」


鉄也

「ん?」


ヒョロガリの銀行強盗

「なんでお前っ!! 俺を助けたんだっ!?」 


鉄也

「……」


ヒョロガリの銀行強盗

「俺はお前の敵だったんだぞっ!? 銀行強盗をやったっ!! 無関係の女の子を人質に取ったっ!! 多くの人達に迷惑をかけたっ!! 人間としてクズの俺をなんで助けたっ!?」


鉄也

「……小柄な人が貴方を心配していたから……。誰かに慕われるって事は……それだけ貴方が誰かに慕われるような優しい行動をとったって事でしょ? だから死んでいい悪人だとは思えなかった……。それだけだよ……」


ヒョロガリの銀行強盗

「……」


鉄也

「優しい事をやった人を見殺しにしたくないからね。だから更生して、心の底から優しい人間になってね。貴方なら優しい人になれるって信じているよ」


ヒョロガリの銀行強盗

「……キュン……」


ゴリラ

「おいっ!! そこのヒョロガリッ!! 俺の鉄也に惚れるなんてなぁっ!! 100万年早いんだよっ!!」


ミナモ

「ゴリラくぅん……。誰の鉄也だって?」


ゴリラ

「み、ミナモさんっ!? そ、その大きくて、硬くて、鋭いドリルはどこから取り出したのっ!?」


ミナモ

「さぁ、ゴリラくん。お尻を出しなさい」


『ドリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュウウウゥゥゥゥゥ』


ゴリラ

「ぬおおおおおおおぉぉぉぉぉんっ!?!? おんおんっ!? ドゥアアアァァァァァァァァァァァァッ!?!?」


女の子

「びええええええええぇぇぇぇんっ!?!? 怖いよおおおおぉぉぉぉっ!?!? 美人のお姉さんがゴリラのお尻にドリルを突き刺しているよおおおぉぉぉっ!?!?」


裸鬼

「おい。幼女、泣くんじゃあない。ほら、サクランボとフランクフルトだよ」


『ボロン』


女の子

「びえええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!? パパのより大きいぃぃぃぃぃぃぃっ!?!?」


酒宮

「副隊長っ!! 何やってんですかっ!?」


裸鬼

「酒宮。何って泣き止ませようとかと思って……」


酒宮

「逆効果ですよっ!! 今日1日でどんだけトラウマ植え付けるつもりですかっ!? って……桜田の娘さんじゃん」


桜田

「む、娘よっ!? な、なんでこんなところにっ!?」


裸鬼

「ん? なんだ俺の部下の娘さんだったのか」


桜田

「娘よっ!! もう大丈夫だっ!! パパが来たからなっ!!」


女の子

「びえええええええええええええええんっ!! あの人っ!! パパのより大きいぃぃぃぃっ!?!? 怖いよおおおおぉぉぉぉっ!!!!」


桜田

「な、何っ!? なっ!? なんとご立派なっ!?」


鉄也

「何やってんですか……。ん?」


コウ

「どうしたんだー? 鉄也ー。後ろ振り向いてー」


鉄也

「いや、なんか視線を感じて……あとハーブの匂いがして……」


コウ

「気のせいじゃねー?」


鉄也

「そうかな?」


ヒョロガリの銀行強盗

「……お前……。名前は?」


鉄也

「ん? 僕? 『鉄也』。それが僕の名前だよ」


ヒョロガリの銀行強盗

「……そうか……。鉄也……。俺や俺の子分達はさ……。家が貧しくて、物を奪っていかなきゃ……生きていけないくらい……貧しくてさ……」


鉄也

「……」


ヒョロガリの銀行強盗

「俺達はこんなクズのやり方でしか生きていけないって思っていたけどよぉ……。お前に『優しい人になれる』って言われてよ……。心の底から救われたよ……。ありがとう……」


鉄也

「……」


ヒョロガリの銀行強盗

「お嬢ちゃんも悪かったな……。怖い思いさせちまって……」


女の子

「もう、悪い事しちゃダメだよ」


ヒョロガリの銀行強盗

「ああ。約束する……。すまなかった……。そして鉄也」


鉄也

「ん?」


ヒョロガリの銀行強盗

「俺、罪を償うよ。罪を償って、真っ当な人間になる。そしていつか、出所したらお前にプロポーズしにいくっ!!」


 ヒョロガリの銀行強盗はいつの間にかバラの花束を持って、真剣な顔で僕に言った。


コウ

「ちょっ!? な、なんでそうなったんーっ!?」


ゴリラ

「俺の鉄也に近寄るなぁっ!!」


 ゴリラもいつの間にかバラの花束を持って立っていた。


ミナモ

「ちょっと私の鉄也に近寄らないでくれないかな?」


チビの銀行強盗

「聡明な兄貴のイメージが崩れていくぅ……」


 こうして、テロ組織『パイナポー』は壊滅したのであった。



ー?目線ー


「鉄也くんの能力……まさかとは思っていたけどね……」


 『神話白桜記録しんわはくおうきろく』という書物がある。『白桜』という神とその神に仕える者達について書かれている書物だ。


 彼の能力はその書物に登場する『白桜の巫女』の能力に類似している気がしていた……。


 まさかとは思っていたが、全く同じモノだったとはねぇ……。


 あの男にわざわざ嘘の取り引きを持ち掛けて、『怨恨醜落』を渡し、彼と出会うように仕向けた甲斐があったよ……。


「『レガナ・オクトパス』。君のような悪人と取り引きなんてするつもりはハナからなかったよ。私の理想とする世界に君のような悪人は必要ない」


鉄也

「ん?」


「っ!?」


 鉄也くんがいきなりこっちを見たっ!? 


コウ

「どうしたんだー? 鉄也ー。後ろ振り向いてー」


鉄也

「いや、なんか視線を感じて……あとハーブの匂いがして……」


 ば、バカなっ!? 私は組織にいた時、気配を消す技術は誰よりも長けていたんだぞっ!? それにここは遠く離れたビルの屋上だぞっ!?


 この距離でも感知できるとはね……。


コウ

「気のせいじゃねー?」


鉄也

「そうかな?」


 すごく勘のいい子だな……。さすがミナモが育てただけの事はあるな……。


 鉄也くん達が去ったのを見届ける。


「ふぅ……やっと行ったかぁ……。それにしてもやはり君の事が欲しいな。鉄也くん」


ー?目線終了ー



 

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