第65話 曇天を見上げる

ーミナモ目線ー


 私は今、能力犯罪者の取り調べ、監禁、刑罰を行う施設の1つである『奈落牢ならくろう』へ足を運んでいた。


 テロ組織『パイナポー』のボス『レガナ・オクトパス』の情報が知りたかったからだ。


 何故、彼が世界最強の能力犯罪者由多 志木の盗み出した妖刀『怨恨醜落』を持っていたのか。


 彼と『由多 志木』とは、どのような関係で、どんな繋がりがあったのか。


 いろいろと『レガナ・オクトパス』から聴き出す為だ。


 『由多 志木ゆだ しき』。彼は『エデン』という組織を作り上げ、自分の組織に害をなす者を自らの手で皆殺しにしている。志木は現在、指名手配され私達も追っている最中だが、足取り1つ掴めないでいた。


 私が『奈落牢』に到着し、『レガナ・オクトパス』の取り調べが行われている部屋に入ろうとすると裸鬼が部屋から出てきた。


裸鬼

「……ミナモさん、やはり来たンスか……」


ミナモ

「……取り調べをしていたのは裸鬼だったの?」


裸鬼

「まぁ……そうッスねぇ……。ちょい気になる事があったんで……」


ミナモ

「……そう……」


裸鬼

「……俺もミナモさんと同じッスよ……。志木の野郎の事が気になって、居ても立っても居られない状態だったンスよ……」


ミナモ

「……」


 裸鬼は今にも泣き出してしまいそうな悲しげな顔をしていた……。その手は血で汚れていた……。おそらく拷問もしたのだろう……。


 また裸鬼に嫌な役割をさせてしまった……。


 裸鬼の上司として、同期として、情けないな……。私は……。


裸鬼

「……結論から言わせてもらうッスけど……あのクソ野郎は志木の居場所はおそらく知らないと思うッス……。かなりキツイ拷問をしたッスけどあの野郎は『知らない』『分からない』しか言わなかったッス……」


ミナモ

「そう……。嫌な役割をさせちゃったね……」


裸鬼

「……ミナモさんにあんな野郎の拷問をさせたくなかっただけッスよ……」


 裸鬼は、拷問をするのは嫌いな人間だ。時と場合によっては、相手の人としての尊厳を貶したりしなければならないからだ。裸鬼はそんな事をするのは嫌なはずだ……。


ミナモ

「私の為に……ごめん……」


裸鬼

「いや、そんな事はいいッス」


 裸鬼は脇の下からタバコとライター、携帯灰皿を取り出す。口にタバコを咥え、火をつける。タバコの煙を吸うとため息と共に煙を吐き出す。


裸鬼

「それよりいろいろと分かった事もあるッスよ」


ミナモ

「聴かせて」


裸鬼

「まず『怨恨醜落』をあのクソ野郎に渡したのは間違いなく志木の野郎だと白状したッス」


 やっぱり、そうだったのね……。


裸鬼

「どうも志木の野郎……『パイナポー』と取り引きをする予定だったようッス……。トンデモナイ大金を支払って志木の傘下に入る予定だったらしいッス。襲撃する銀行は志木の指示した場所だったそうッス。傘下に入れる証にと『怨恨醜落』を貰ったらしいッス」


ミナモ

「志木があんな犯罪集団を自分の傘下に? 考えにくい」


 志木の悪人嫌いは腐っても変わらないはず。自分の配下に『レガナ・オクトパス』のような極悪人を入れるような事はしない。


裸鬼

「やっぱりミナモさんもそう思うッスよね」


ミナモ

「これはあくまでも私の想像でしかないけど……。志木は何か目的があって、その為に『パイナポー』を利用したんだと思う」


 志木は多くの人達を仲間に取り入れたという話を何度か聞いた事がある。だが、彼は仲間に危険を伴う仕事、手を汚すような仕事は絶対にさせない。そういった仕事は自分の手で行う。そういう男だ。


裸鬼

「その目的ってなんなンス?」


ミナモ

「そこまでは分からない……。けど私の知っているあの『由多 志木悪人嫌いの馬鹿』は、自分の配下に極悪犯罪者とその仲間達を入れるなんて事は絶対にしない。ましてや、金の為なんかにそんな事しない」


裸鬼

「……あのバカは何がしたいんだ? ウチの縄張りでそんな事したら俺達が飛んで出てくる事くらい分かりそうなもんなンスけどね……」


ミナモ

「……」


 私達の実力を測っていた? 私達に大きな戦いを仕掛ける為に様子見をしていたって事? その考えが本当だったとして、何の為に戦いを挑むのだろう?


 そもそも志木はウチの戦力くらい把握しているはず……。わざわざ自分の計画が伝わってしまうリスクを負ってまでするとは考えにくい……。


 じゃあ、本当の目的は何?


 そういえば、襲撃した銀行は確か鉄也達の通学路……。まさか、狙いは鉄也だった? でも志木に鉄也を狙う理由がない……。


ミナモ

「鉄也……」


裸鬼

「ミナモさん? 鉄也がどうかしました?」


ミナモ

「いや、なんでもない……」


裸鬼

「ミナモさん……。アイツは……俺達が止めなきゃならないッスよね……。この命に換えても……」


ミナモ

「その通りよ、地色……。志木は……私達の手で止めなきゃならない……。たとえ、私達が死ぬ事になっても……志木を殺す事になっても……」


裸鬼

「はい、ミナモさん……」



 その後、私は『奈落牢』から出て、帰路を歩く。雨がポツポツと降り始めた。


 私は雨が降り始めた曇天を見上げる。


ミナモ

「志木……。もう……あの頃には戻れないの?」


 空から降り注いだ雫は私の頬を伝い、流れ落ちた……。


ーミナモ目線終了ー

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