第60話 不気味な刀

レガナ・オクトパス

「……ほぉ……。黒い鬼の面の男、それに般若の面と銀色のコートの子供……。『黒帝』と『泡沫の鬼神』か? こんな所に……」


ヒョロガリの銀行強盗

「ぼ、ボスっ!! 敵襲ですっ!! ボスの力を見せつけちゃってくださいよぉっ!!」


 銀行強盗の1人がボスらしき男に近付いた。ボスらしき男は短刀を抜く。殺気を感じ、僕もコウもこちらに仕掛けてくるかと身構えた。


 次の瞬間……。


ヒョロガリの銀行強盗

「え?」


 近寄った銀行強盗の腹に短刀が突き刺さっていた。


レガナ・オクトパス

「テメェ、なぁにぃ俺に指図しちゃっているわけ?」


ヒョロガリの銀行強盗

「ぎぃやああああああああぁぁぁぁぁぁっ!?!?」


 銀行強盗は悶絶しながら倒れ込んだ。


レガナ・オクトパス

「それによぉっ!! テメェ分かってんのかっ!? これからデカい取り引きをする前なんだぞっ!? こんなところで気取られやがってっ!! ふざけんじゃねぇぞっ!!」


 ボスらしき男は倒れた銀行強盗の頭と顔を何度も何度も踏みつけ、蹴る。


チビの銀行強盗

「あ、兄貴ぃっ!? ぼ、ボスっ!! や、やめてくださいっ!! あ、兄貴が死んじまうっ!!」


 小柄な銀行強盗は慌ててボスらしき男に駆け寄るっ!!


レガナ・オクトパス

「うるっせぇんだよっ!! 雑魚がっ!! 死ねよっ!!」


 ボスらしき男は脇差を抜き、小柄な銀行強盗を斬り殺そうとする。僕はボスらしき男の脇差の刃を『銀月』で防ぐ。


チビの銀行強盗

「お、お前っ!? な、なんでっ!?」


鉄也

「……いや、なんか子供の前で人が殺されるのはダメかなって……。それに……仲間を殺そうとするのは、いかがなものかと思ってね……」


チビの銀行強盗

「お、お前……。敵である俺を……」


鉄也

「えっと……ボスらしき人。なんで殺そうとした? 仲間でしょ?」


レガナ・オクトパス

「あぁ? 何言ってんだ? お前? 使えねぇ奴はさっさと切り捨てるに限るだろう? テメェはなんの役にも立たないゴミに温情をかけんのか?」


鉄也

「ゴミだと?」


レガナ・オクトパス

「使えねぇ物は処分するだろうがよぉ。それと同じだ。それとも使い物にならない物を後生大事にするタイプなのかぁ? キッショいなぁ。反吐が出るわぁ」


鉄也

「貴方が銀行強盗をやるように言ったんじゃないんですか?」


レガナ・オクトパス

「ああ、言ったなぁ。金稼ぎをする為になぁ」


鉄也

「彼等は貴方の命令に従っただけですよ」


 それにこの町の近くには『国の盾』の本部がある。そんな場所でよく銀行強盗をしろって命令したな……。派手に暴れたら僕等が通り掛からなくても『国の盾』が速攻で動くぞ……。


 ああ、コイツ、嫌いだわ。


鉄也

「貴方の下調べが足りない所為で起きたミスを部下に押し付けるとかキッショいなぁ。僕が現れなくとも『国の盾』がすぐに動くとか想定できなかったの? キッショいなぁ。お馬鹿過ぎて反吐が出そうですよ」


レガナ・オクトパス

「あぁ? テメェ、調子乗ってんじゃあねぇぞ?」


 ボスらしき男は脇差を鞘に収めると刀を抜く。


 奴の刀はまるでアメジストのような濃い紫色の刀身。その刀身を見た時、気持ち悪いと感じた。


 この世の全ての憎悪を刀に閉じ込めたような、この世の醜さが刀の形を成しているような、そんな不気味さを感じた。


 しかも線香と血生臭い匂いが混じったような匂い……。タチが悪い悪霊と同じ匂いまでしている……。


鉄也

「その刀はなんなの? なんかすごく気味悪いんだけど……」


コウ

「っ!? 妖刀『怨恨醜落えんこんしゅうらく』っ!? な、なんであんなチンピラがそんな物をっ!?」


鉄也

「何それ?」


コウ

「……元々『国の盾』の北東のアジトが管理していた妖刀だ……。『由多 志木』って奴がそのアジトを襲撃した際に持ち去った呪物の1つだが……。まさかっ!? 奴は『由多 志木』と関わりがっ!?」


鉄也

「それよりコウ。あの刀……ヤバい感じがするんだけど……」


コウ

「そりゃそうだろーよー。あの刀は過去にやべぇー犯罪を犯した死刑囚の血肉と魂を材料にして作り出されたいう伝承があってよー。完成後、死刑執行人が258人の罪人の首を刎ね、その罪人の血と魂を吸ってきたらしいからなー」


鉄也

「なるほど。それで気持ち悪いって思ったのか……。それだけなの? あの刀にはなんか特殊な能力とか備わっているんじゃない?」


 不気味な感覚はあるが、それとは別にミナモさんが使っている『白刀白蛇』と似たような感じもする。ミナモさんの『白刀白蛇』には特殊な力がある。


 おそらくあの刀にも何かあるだろう。


コウ

「あるらしいけど、さすがにそこまでは知らないな。実際文献にも特殊な力があるってくらいしか書かれてなかったし、使い手も現れなかったしな」


鉄也

「そうなんだ」


レガナ・オクトパス

「この刀は素晴らしい。いくら切っても刃こぼれせず、切れ味が落ちる事のない刀身。俺の心を満たしてくれるような心地良さ」


 あの刀を持って心地良いって感じる感覚がよく分からないよ。ただただ不気味としか思えない。


レガナ・オクトパス

「さぁて、誰から斬り殺そうか?」


鉄也

「コウ。今回は僕が戦ってもいいよね?」


コウ

「構わねぇーよー。俺はそこの女の子を避難させとくわー」


 コウはそう言うと女の子を抱き抱える。


女の子

「びえええええええぇぇぇぇぇんっ!!!! 大っきい鬼のオバケに捕まったあああぁぁぁぁっ!!!! 食べないでえええええぇぇぇぇぇっ!!!!」


コウ

「なんでそうなるんだよー。まー、とりあえず避難するぞー」


 コウは女の子を抱えてそのまま出口に行こうとする。奴は刀を振り上げコウの背中を斬り付けようとするっ!! 僕は奴の前に出て『銀月』で攻撃を防ぐっ!!


レガナ・オクトパス

「なかなか素早いな」


鉄也

「そんな不気味な刃をコウに触れさせるワケないでしょ」


レガナ・オクトパス

「ほぉう。まずはお前から斬り刻まれてみるか? お前はどんな悲鳴を奏でてくれるかなぁ?」


鉄也

「さて、悲鳴をあげるのは、果たしてどちらの方かな?」


 僕は奴と鍔迫り合いをしながら倒れた銀行強盗を横目で見る。


 まだ生きているようだけど、出血が酷いな。早く傷を治さないとマズそうだ。


レガナ・オクトパス

「よそ見している場合かぁっ!! このボケがぁっ!!」


 奴は僕を蹴り飛ばそうとするが、僕はその前に後ろに飛んで避け、そのまま倒れた銀行強盗に駆け寄るっ!!


チビの銀行強盗

「や、野郎っ!!」


鉄也

「やめろ。倒れている奴を死なせたくないならね」


レガナ・オクトパス

「敵に背を向けるとはっ!! この愚か者がっ!!」


鉄也

「うるさい奴だな。汝の主人たる鉄也が命ずる。来い、熊丸」


 僕は使役している熊丸を呼ぶ。


チビの銀行強盗

「っ!? あ、アイツの足下に魔法陣みたいなのが出ただとっ!? そんでなんか熊のぬいぐるが出てきただとっ!?」


熊丸

「鉄也様。いきなり呼ばないでくださいよ。僕がトイレ行っていたらどうするつもりだったんですか?」


チビの銀行強盗

「きいいぃぃやあああああああああぁぁぁぁぁぁっ!?!? 喋ったああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」


鉄也

「熊丸。悪いけど、あのやべぇ刀持っている奴の相手を頼んでもいい? 別に倒さなくてもいいから」


熊丸

「状況は分かりませんが、あの怨念がこもった刀を持っている奴ですね。承知しました」


レガナ・オクトパス

「あぁん? いきなり喋るぬいぐるみを出してよぉっ!! 舐めてんのかぁっ!?」


熊丸

「聞き捨てなりませんね。100年も生きていない小僧が。鉄也様の野暮用が終わるまで相手になってやるからかかって来なさい」


 僕は怪我人に集中するか。刺された銀行強盗の傷を確認する。


レガナ・オクトパス

「そのゴミを助けるつもりかっ!? 無駄な事をっ!! 妖刀『怨恨醜落』の能力はよぉっ!! 『治癒の拒否』っ!! この刀を持った奴に斬り付けられた傷は誰にも癒せはしないっ!! それはこの刀だけじゃねぇっ!! 俺が持つ別の刃物も該当するっ!! そういう呪いが込められてんだよっ!!」


 うるさい人だな。少し静かにしてほしいな。



 



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