第61話 コンスケ

鉄也

「……」


 僕は銀行強盗の体に流動力を流し込む。


 流動力操作には治癒力を高める技法が存在する。その技術を極めた者は、他者に自身の流動力を流し込み、流し込んだ流動力を操作して治癒力を高める事が出来るらしい。


 僕は他人の体に流動力を流し込み、流し込んだ僕の流動力を操作して他者の傷を治癒力を高める技法は、あまり得意ではない。


 けど、まったく出来ないワケじゃない。傷の治りをほんの少しだけ早める事くらいはできる。


 だが、いくら流動力を送り込んでもまったく傷が癒える様子はない。


 彼の傷。そこから黒いモヤのようなモノが見える。このモヤようなモノが流し込んだ流動力を外へ放出させ、治癒の妨害をしている。これが呪いってヤツか。


 僕が『真名』を使えば、呪いを消し去り、一瞬で治せるけど……『真名』は流動力をかなり消費してしまう……。何かあった際に温存しておきたい。


 流動力は能力者にとっての生命線だ。流動力を使い切ってしまうと能力が発動できなくなる。流動力を回復させるのも時間がかかる。


鉄也

「まぁ、呪いだろうがなんだろうが……僕の敵じゃない」


チビの銀行強盗

「お、お前っ!? この状況をなんとかできるんだよなぁっ!?」


鉄也

「ちょっと静かにして。集中するから」


 今のこの黒いモヤがある状況じゃ、傷を治す技を使ったところで意味はない……。ならば、その黒いモヤを消し去るだけだ。


鉄也

「『銀月』頼むぞ」


 『銀月』は、僕にとって敵となる存在を斬り払い、身を護る為の力。その敵となる存在は生物や兵器だけではない。呪いや能力効果なども含まれる。


鉄也

「『銀月・月蝕ぎんげつ・つきはみ』」


 『銀月・月蝕』とは、ありとあらゆる能力や呪いの効果を切り裂き、無効化させる技だ。『銀月』の銀色の月のような刀身が漆黒に染まり、まるで月蝕げっしょくで月が暗闇に隠されるようなその姿からその名を名付けた。


 我ながらネーミングセンスがない技だと思うけど……コウの考えた『ブラックムーン・レクイエム』という名前よりかはマシだと思いたい……。


チビの銀行強盗

「っ!? お、おいっ!? な、なんだっ!? その黒い刀はっ!? はっ!? ま、まさかっ!? その刀で兄貴を殺す気かっ!? さ、させねぇぞっ!!」


鉄也

「黙って見ていて」


 ナイフを突きつけてきた小柄な銀行強盗に言い放つ。


鉄也

「この人を死なせたくないんでしょ」


チビの銀行強盗

「し、信じていいんだな? 本当に兄貴を助けてくれるんだな?」


鉄也

「助けるよ。この人は……銀行強盗をやっちゃうくらいの悪人だけど……死んでしまってもいいような悪人だとは思っていないよ……」


チビの銀行強盗

「お、お前……」


 こうやって慕われる人がいるって事は、それだけこの人に人徳があるって事だろうから死なせるのはダメだと思った。


鉄也

「だから黙って見ていて……」


 僕は漆黒の刃で黒いモヤを切り払う。黒いモヤは一瞬でチリのようになり、消えてなくなった。


 その後、僕は再び銀行強盗の傷口に流動力を流し込む。うん、少しだけど傷が治ってきた。もう大丈夫かな……。


鉄也

「ここまでやれば大丈夫だと思う。あとはコンスケに頼もう」


チビの銀行強盗

「こ、こんすけ? な、なんだそれ?」


鉄也

「僕の使い魔だよ」


 僕は使役しているコンスケを呼び出す。


コンスケ

「鉄也様。何か御用でしょうか?」


チビの銀行強盗

「なっ!? なんかまた出たぁっ!? き、狐っ!?」


鉄也

「コンスケ。この人の傷を治してあげて」


コンスケ

「承知しました」


 コンスケは傷を負った銀行強盗の体に前足の爪を突き立てる。


コンスケ

「能力発動。『天狐回爪てんこかいそう』」


 コンスケの前足の爪が白い光を放つ。そして銀行強盗の傷を治していく。


チビの銀行強盗

「あ、兄貴の体の傷がみるみる治っていくっ!?」


 コンスケの能力『天狐回爪』は治療の力だ。


 コンスケ自身が持つ流動力を傷付いた者の細胞に変えて傷を治すという能力だ。この力は様々な病いや事故などで使い物にならなくなった臓器を分解し、再構築して治すなんて事もできるらしい。


鉄也

「久々に見たけど、やっぱりコンスケの能力ってすごく便利だね」


コンスケ

「死んでいなければどんな病いだろうが、傷だろうが治してみせますよ」


チビの銀行強盗

「こ、こんな能力があるなんて……。こんな優しい能力があるなんて……」


 優しい能力か……。確かに優しい能力ではあると思う。自分の傷を治す能力はそこそこあるらしいけど、他者の傷を治療する能力は珍しいらしいからね……。コンスケの能力をそう思っても仕方ないと思う。


 けど、コンスケの能力は使い方を少し変えるだけで結構怖い能力なんだよね。相手の体を分解した状態で能力解除するとどうなるか……。答えはとんでもなくグロテスクな事になるらしい……。


 他にも怖い使い方はあるけど……。言わない方がいいか。


 コンスケは熊丸の話によると『癒しと死を司る狐の神』として祀られていた神様らしい。


 コンスケが祀られていた土地で病気や怪我で苦しむ者達には能力で癒しを与え、荒らす者には死をもたらす。コンスケはそのような神様としてとある土地で崇められ、神となったらしい。


鉄也

「じゃあ、僕は戦いに戻るよ」


コンスケ

「おや? あのまま熊丸に任せておけばよろしいのでは?」


鉄也

「まぁ、僕の喧嘩だからね。この人の傷を治したいから足止めを熊丸に頼んだだけだから」


コンスケ

「そうですか。かしこまりました。いってらっしゃいませ」


 僕は熊丸の所に向かった。


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