第62話 熊丸

ー熊丸目線ー


レガナ・オクトパス

「死んじまえよっ!! ゴラァッ!!」


 小僧は妖刀を振り回す。僕は先代の主人様が亡くなってから長い年月戦いをしてこなかった。それなりに腕は鈍っているかもしれない。


 だが、そんな雑な攻撃に当たるほど僕は衰えちゃいない。あえてギリギリのところでかわしてみせる。


熊丸

「どうした? 小僧。先程からまったく刃が当たっていないぞ」


レガナ・オクトパス

「クソッ!! プカプカ空中を浮きやがってっ!! 小さいから全然当たらねぇっ!!」


熊丸

「小僧の力はそんなモノか? 『相手が小さいから当たらない』なんて小童こわっぱのような言い訳するとは情けないな。この程度の力では我が主人様の足元にも及ばないぞ」


 まったく、先程から馬鹿の一つ覚えのように刀を振り回してばかり。この程度の実力で鉄也様に挑むとは、命知らずにも程がある。


レガナ・オクトパス

「クソッ!! 当たりやがれよっ!! 『アーム・オクトパス』ッ!!」


 小僧の左腕が8つに裂け、その1つ1つがタコの腕のような形になる。そのタコの腕の先端部分は太い針の形状となっていた。


熊丸

「ほう。肉体変化をする系統の能力者だったか」


レガナ・オクトパス

「調子に乗るのもそのくらいにしとけやっ!!」


 小僧のタコのような8つの腕が一斉に僕に目掛け伸ばされる。


熊丸

「愚か者が。『斬刀熊丸ざんとうくままる』」


 僕は愚かな小僧の8つの腕を切り落として見せた。


レガナ・オクトパス

「いっ!? な、なんだとぉっ!? 鋼よりも硬い俺の腕を切っただとっ!?」


熊丸

「このまま敗北するには哀れ過ぎるな。良かろう。僕の能力を教えてやろうか」


 このまま何も出来ず、理解できずに敗北するのは小僧にとって少々可哀想に感じた僕は僕の能力を説明してやる事にした。


熊丸

「僕の能力の名は、先代の主人様から名を頂いたモノで『斬刀熊丸』という。僕の手で触れた箇所を切断するという能力だ」


レガナ・オクトパス

「そんな能力で俺の腕がっ!!」


熊丸

「ふむ。理解していないようだね……。理解力の無い低脳な小僧の頭でも理解できるように説明しよう……」


レガナ・オクトパス

「言い方に悪意があるなっ!!」


熊丸

「僕は能力が発動している時、ありとあらゆる防御、様々な効果を無視して、触れたところに『切断した』という結果を残す」


レガナ・オクトパス

「切断した結果だと?」


熊丸

「そうだ。どのような厚みのある盾や城壁であろうが、いかなる名刀や呪具であろうが、切り裂く事が出来る」


レガナ・オクトパス

「なっ!?」


熊丸

「この能力を防げるのは先代の主人様とその奥方様、そして現在の主人様の3人のみ」


レガナ・オクトパス

「な、なんだとっ!? なんてやべえ能力をっ!? だ、だがなぁっ!! 俺の腕はすぐに再生するんだぜぇっ!!」


 小僧の腕が切り落とされた肩から再びタコの腕のような8つの腕が生えてきた。


熊丸

「ほう。その腕、切り落とされてもまた生えてくるのか」


レガナ・オクトパス

「くたばれっ!! 『アーム・オクトパス』ッ!! 『オクトパス・スパイラル』ッ!!」


 小僧の8本のタコのような腕が回転しながらこちらに飛んでくる。


熊丸

「馬鹿の1つ覚えか。愚か者が」


 僕はその8本の腕を避けながら1本ずつ触れて切断する。


レガナ・オクトパス

「甘いんだよっ!! クソぬいぐるみがっ!!」


 切断した腕は宙をくるくると舞うと再び回転しながらこちらに飛んで来る。


レガナ・オクトパス

「『オクトパス・スパイラル』はたとえ切られたとしても止まらねぇっ!! そのままお前を追尾するぞっ!!」


熊丸

「だからどうした『斬刀熊丸』。1の太刀『飛熊ひぐま』」


 僕自身の流動力に『切断』の効果を付与し、両手から放ち、飛んで来た小僧の腕を全て細切れにする。


レガナ・オクトパス

「な、何ぃっ!? お、俺の技をっ!?」


熊丸

「小僧。お前の飛ばした腕は細切れになると操作できないようだな」


 まったく、この程度の攻撃で『戦いと守護を司る熊神』と呼ばれた僕に勝てると思っているのだろうか。


レガナ・オクトパス

「くっ!? こんなぬいぐるみ風情にっ!! この技を使う事になるとはなぁっ!!」


 小僧は不気味な刀を自らの腹部に突き刺す。


レガナ・オクトパス

「強制真名『深海破滅真蛸しんかいはめつまだこ』ッ!!」


 その瞬間、背後から黒い炎が出現する。その炎は小僧の全身を包み込む。


熊丸

「まだ奥の手を残していたか……。まぁ、あの程度の力しかない雑魚ではないと思っていたが……」


 黒い炎から現れた小僧の姿は変化していた。


 赤黒い真珠にヤギの角が生えたような頭部。猫科の肉食獣のようなギロっとした2つの目。大きな口には鋭い歯がずらりと並んでいる。イカやタコのような吸盤がついている赤黒い腕が8本。足はかろうじて人に近い形ではあるが、腕同様に赤黒く吸盤がついている。


熊丸

「肉体変化の能力の真名か」


 人狼のような獣と人の中間の姿は何度か見た事はあったが、随分と珍しい姿になったモノだ。


レガナ・オクトパス

「妖刀『怨恨醜落えんこんしゅうらく』の最も恐ろしい能力は持ち主が自身の腹部にその刀を刺した時、持ち主の力を強制的に引き出す事っ!! その結果っ!! 俺は能力者の極地である『真名』を強制的に発動させられるっ!!」


 愚かな。無理矢理引き出した力の代償は大きい……。過去に無理矢理『真名』を引き出す者は何人もいたが……体が耐えきれず、最後は自滅の道を辿った……。


 それに無理矢理引き出した『真名』は脆く、弱い。


 『真名』とは本来、自身の能力を向き合い、能力を理解し、能力に認められた果てに得られる力。


 それをせず、無理矢理引き出したところでそんな力は本来の『真名』の力には程遠い。


熊丸

「そんな無理矢理出した力で僕に勝てると思っているとは……。まぁ、いい。僕の『真名』で潰してやろう」


鉄也

「熊丸。遅くなった」


熊丸

「鉄也様……」


鉄也

「足止めありがとう。あとは僕がはっ倒す」


熊丸

「……分かりましたよ……。なんか僕としては不完全燃焼です……。もっと強い奴と戦いたかったですよ」


 やれやれ、ここから先は鉄也様が戦われるのか……。もう少し暴れたかったが……仕方ないか……。


熊丸

「少々物足りないなぁ……」


ー熊丸目線終了ー





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