第4話 挑発

ピエロ男

「俺様の名前は『テン・バイヤア』」


ゴリラ

「て、転売ヤーだとっ!?」


コウ

「な、何ぃっ!? 転売ヤーだったのかっ!! やめろっ!! 欲しい物が買えなくなるだろうっ!! 転売するなっ!!」


鉄也

「2人共っ!! 相手を刺激しないでっ!!」


テン・バイヤア

「違うっ!! 『転売ヤー』じゃあねぇっ!! 『テン・バイヤア』だっ!!」


コウ

「か、変わった名前だなぁ……」


ゴリラ

「世界って広いなぁ……」


鉄也

「コウっ!! ゴリラっ!! 何ふざけているんだよっ!! 相手は殺人鬼だぞっ!!」


コウ

「さ、殺人鬼っ!?」


ゴリラ

「ど、どういう事だよっ!? 鉄也っ!!」


鉄也

「僕は人より鼻がいい。そこら辺の犬よりはいい自信がある。あのピエロ男。奴からは血の匂いがする……。あんな血の匂いを染み込ませるなんて普通は無理だ……。何人も人を殺しているっ!!」


コウ

「っ!? ま、まさかっ!? 最近起きている行方不明事件ってっ!? アイツがっ!?」


テン・バイヤア

「お? 俺様もそれなりに有名になったのかなぁ? 夏に入ってから5人くらいしか殺してないんだけどなぁ」


 ピエロ男はその唇を分厚く見せるメイクをしているが、それが歪むくらいに気持ち悪い笑みを浮かべる。そして赤黒いコートの内ポケットからナイフを1本取り出す。


 あのナイフの形、見覚えがある。


 あれはコウのやってるゲームで出てきたヤツだ。確か名称は『コンバットナイフ』だったっけ?


テン・バイヤア

「さて愛しの『エリアーデ』で刻んでやろう。今日の『エリアーデ』は血を求めているからなぁ」


鉄也

「……ナイフに『エリアーデ』って名前つけてるんだ……」


テン・バイヤア

「『エリアーデ』は俺様の初恋の女の名前でなぁ。あの女を切り刻んだ時も良い声で泣き喚いてくれたんだぜ。またその良い声が聴きたくてなぁ。『エリアーデ』って名付けたんだ。あの時は最高だったなぁ……」


鉄也

「……」


テン・バイヤア

「あぁ……今思い出しても……興奮してしまうっ!! 『エリアーデ』を殺した時はっ!! 絶頂してしまったよっ!!」 


鉄也

「……」


テン・バイヤア

「彼女の体を殴り、切り刻む度に恐怖と痛みで歪むあの顔と泣き叫ぶ声っ!! 彼女の細い首を絞めながら犯し続けた時はっ!! 徐々に希望を失い、絶望に染まっていくっ!! あの目っ!! あぁっ!! 素晴らしかったっ!! あの夜は最高だったっ!!」


 僕がコウとゴリラを逃すタイミングを見計らっている最中もピエロ男は話を続ける。


 聞いているだけで胸糞が悪過ぎて、気分が悪くなりそうだ。


テン・バイヤア

「両親を殺した時よりも興奮したよっ!! もう最高だったっ!!」


 でも今はその胸糞悪い感情は押し殺す。


 とにかく奴の注意を僕に引き付けなくては……。そしてコウとゴリラの逃げるタイミングをなんとしても作らなくては……。


鉄也

「いきなり出てきて、人を殺した事について語り出して……何がしたいんですか?」


 僕はわざとピエロ男の方へ進み、話し掛ける。それは奴の注意を僕に引き付ける為だ。


鉄也

「僕は別に貴方に危害を加えるつもりはありません。誰かに貴方の事を話すつもりもありません。なので僕等は帰ってもいいですよね?」


テン・バイヤア

「いいや、ダメだね。俺様はお前達を殺す」


 やっぱり、そう返事をするよね。まぁ、『いいよ。帰してやるよ』とか言って後ろから切り掛かって来ないだけマシなのだろうか……。


鉄也

「何故ですか? 僕等は貴方の事を話すつもりはありません」


テン・バイヤア

「俺様はただ痛め付けながら殺すだけだよ。俺様の快楽の為になぁ」


鉄也

「……」


 あのピエロ男がまとっているオーラというのだろうか……。


 どことなくミナモさんやその知人達がまとっているオーラに近い気がする……。


テン・バイヤア

「ここは有名な心霊スポットなんだってな。夜になるとバカな奴等がのこのこやって来る。そのバカな奴等を待ち伏せて、とっ捕まえて、痛め付けながら殺す。心霊スポットってのはいいよなぁ。馬鹿な奴らがホイホイ来てくれるんだからなぁ」


鉄也

「……」


テン・バイヤア

「馬鹿な奴らはなかなか面白いぞぉ……。誰か1人の手足を吹っ飛ばしただけで全員揃って『ギャーギャー』泣き喚いてよぉ……。ぷっ!! くっくっくっ!! 思い出しただけでっ!! その時の奴等が滑稽でっ!! 笑いが止まらなくなりそうだぞっ!!」


鉄也

「ゲスが……。なんで分からないのかな……。人の苦しみとか痛みとか……」


テン・バイヤア

「人の苦しみ? 痛み? そんなの知ったところで糞の役にも立ちはしねぇよっ!!」


鉄也

「そんな事が分からないくらい幼稚な脳しか持ってないのか? それとも学校で道徳の授業を受けた事ないの?」


 僕はあえて奴を挑発するような事を言う。


鉄也

「体は僕より大人なのに、子供の僕よりも脳が小さくて残念なんだね。可哀想に。そんな奴がなんで生まれてきたの?」


 僕は出来る限り奴が怒りそうな事を言う。それは奴の気を少しでも僕に向ける為の幼いながらの僕の策だ。


 ミナモさんは幼い僕に『怒りは判断を鈍らせる』と言っていた。だから奴の判断を少しでも鈍らせる。そして少しずつでもなんとか僕に注目を集める。


テン・バイヤア

「ほぉ……。この俺様が殺人鬼と知りながらよくもそんな幼稚な挑発をしてくるなぁ……。これでも世界のあちこちで人を殺し回っているのだがなぁ。大体80人くらいは殺しているんだぜ? 気に入った奴を殺した時にはそいつの左右どちらかの手を切り取り、その手を剥製にして飾るとその時の快楽を思い出してゾクゾクするよ」


鉄也

「殺した人の数を自慢するとか意味わからないよ。なんの自慢なわけ? まさかそれが自分の強さと比例するとか考えている頭が残念な方なのかな? やめといた方がいいと思うよ。そんなの強さの基準にはならないし、カッコ悪いだけだよダサピエロ。その大太鼓みたいなお腹で腹太鼓していた方がいいんじゃないの? てか、飾らせている手が可哀想じゃん。趣味悪いピエロに見られるとか、僕なら耐えられないね。オッエェ」


 ピエロ男はキッと僕の方を睨み付ける。


テン・バイヤア

「ほぉう。ガキ、よほど死にたいようだな……。このピエロ衣装を貶すとは……」


 ピエロ男が僕の方へとズンズン寄ってくる。僕もゆっくり近付く。さぁ、ここからが僕の戦いだ。



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