第3話 殺気

 『A神社』、それは僕らの住む町の外れにある。元々参拝客も少なく、この神社の神主が亡くなった後、後を継ぐ者が現れず、次第に廃れていった廃神社だ。林の中にある神社だけあり、昼でも薄暗く、今では誰も手入れをしていない為、とても不気味な雰囲気を出している。その所為なのか、この廃神社は心霊スポットになっているらしい。


 僕らはその神社の前の林に到着していた。僕はその場に立ち止まり周囲を見渡す。


鉄也

「……幽霊の姿は見えないな……」


 僕は幽霊を見る事ができる。


 いつ、どこで、どうして幽霊が見えるようになったのかは分からない……。


 気が付いた時には何故か幽霊を見る事、声を聞く事、匂いを感じる事、触れる事ができるようになっていた……。


コウ

「ん? 鉄也? どうしたんだ?」


鉄也

「いや、心霊スポットと聞いていたけど……幽霊の姿が見えないなって……」


コウ

「そういえば、お前はいわゆる見えるタイプだったな。まぁ、とりあえず神社までさっさと行こうぜ」


 僕らは林の中に入り、神社を目指して歩きながら話をする。その間も周囲を見るが幽霊らしい姿は見えない。


 僕が周囲を気にしているとコウが話しかけてくる。


コウ

「そういや、いつから幽霊、見えるようになってたんだ?」


鉄也

「さぁ? 気が付いた時には見えるようになってたよ」


 僕は気が付いた時には幽霊が見えていた。


 最初の頃はそれが幽霊だとは思わなかった。僕以外の他の人達にはそれが見えてないようだった事と直感でそれが『人』ではないと気付いていただけだった。


 僕はそれが幽霊だと気が付いた時は、ちょうど心霊系の番組を観て、それが幽霊なんだってなんとなく気付いた感じだった。


ゴリラ

「別に鉄也を疑ってるわけじゃねぇけど……なぁんか嘘っぽいなぁ……。俺はそもそも幽霊とかあまり信じてねぇし」


コウ

「まぁ、鉄也の霊感のおかげでなんとかなった奴が何人かいるわけだから信じるしかねぇけどなぁ……」


鉄也

「……別に助けたわけじゃないけどね……。邪魔だったからその幽霊を殴って、どっか行かせただけ……」


コウ

「除霊したわけじゃねぇのか?」


鉄也

「僕はテレビ番組とかで出る霊能力者みたいに成仏させる事はできないよ」


 僕には幽霊を見たり、声を聞いたり、触れたりする力がある。けれども除霊をする力は無い。


鉄也

「僕にできるのは精々幽霊をぶん殴って追い払う事くらいだよ」


ゴリラ

「幽霊をぶん殴って追い払うねぇ……。実体の無い存在をどうやって殴るんだよ。ますます嘘くさいぞ」


 そう言われても……できるのだから仕方ない……。


鉄也

「まぁ、信じてくれとは言わないよ」


ゴリラ

「なら呪いの人形とかそういうのも分かる感じか?」


鉄也

「さぁ? そういうモノを実際にこの目で見た事ないからなんとも言えない」


 そんな話をしている内に古びてボロボロの鳥居が見えてきた。その鳥居を潜った先に賽銭箱と小さなやしろがあった。


ゴリラ

「おおっ!! 雰囲気あるなぁっ!!」


コウ

「おい、鉄也。幽霊見えるか?」


鉄也

「……いや、幽霊の姿は見えないし、気配も匂いもない……」


コウ

「匂いって……お前は犬か」


鉄也

「そこら辺の犬よりかは鼻はいいよ」


コウ

「マジか……。それより、それならなんで眉間に皺寄せてんだよ?」


鉄也

「いや、幽霊の姿と気配、匂いはないけど……」


コウ

「ん? なんだよ?」


鉄也

「……人の気配と匂いはするんだよね……。あと血生臭い……」


コウ

「え?」


鉄也

「ほら、あの小さい社の中から……」


 その瞬間、社の戸がバーンと勢いよく開けられるっ!! そして誰かが出てきたっ!!


 大太鼓のように大きな腹。今にも破けそうなピエロ衣装に赤黒いコートを羽織っている。大きなお腹が邪魔なのかボタンは止められていない。ピエロのメイクがされ年齢はハッキリとは分からないが30代手前くらいの男性だろうか……。


 どう見たって神社の管理人や関係者、ましてや参拝者や心霊スポット巡りをしている人には見えない。


 こんな場所でそんな男と出会ったら誰だって驚きはするだろう。


 だが、僕は驚くよりも先に身の危険を感じていた。


 何故ならピエロ衣装の男から血の匂いがしているからだ。どんな事をやったってあんなに血の匂いが染み付くなんてありえない。


 そして奴の目。人を人とも思わないあの目付き。あの目付きはヤバい。間違いなく何人も人を殺している目だ。そしてこの血の匂い、被害者のモノだ。


 コイツはヤバい。関わってはいけない。僕の直感がそう告げる……。


 今すぐにでもここから逃げ出したい。僕は人より足が速い。自動車くらいなら走って追い越せる自信がある。僕1人なら逃げれるかもしれない。


 けど、コウとゴリラは違う。おそらく逃げ切れない。


 僕がなんとかしなくては……。


 僕は咄嗟に膝を軽く曲げ、拳を前に構えて臨戦態勢をとる。


コウ

「っ!? な、なんだっ!? なんでこんな所にピエロがっ!?」


ゴリラ

「どう見ても……管理人とかじゃあねぇよな……」


鉄也

「コウ。ゴリラ……。僕が合図したら全力で逃げて」


コウ

「えっ!?」


ゴリラ

「て、鉄也っ!?」


コウ

「な、何をする気だよっ!?」


鉄也

「……出来るだけ足止めをするから……」


コウ

「何言ってんだよっ!? 鉄也っ!!」


鉄也

「さすがに……全員は逃げ切れない……。時間を稼ぐから遠くに逃げて……」


 正直、怖い。鳥肌が立つ。足がガタガタ震えてきそうだ。今にも涙が溢れ出そうだ。これが殺意というモノなのだろうか。


 けど、ここで僕が逃げるわけにはいかない。コウとゴリラを護らなくては……。


ピエロ男

「フェッフェッフェッフェ……。子供か……。1、2、3……。3匹か……。久々に子供を嬲って殺すのは……おもしろそうだ……」



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