第三話 雲隠れ

三話 雲隠れ


地響きが鳴った村では緊張と混乱が走る。

村中で悲鳴が上がる中、普段大人しい近所のおじさんをも声を荒げ、悲鳴を上げている。

その面影からは普段の何気ない日常を感じさせなかった。

「ヴィタ!早く逃げようよ!」

村で混乱が渦巻く中、エンナは僕の手を地響きの鳴る反対側へと引く。

「うん」

エンナに手を引かれ、流れる体をテネが静止させる

「待って、」

「テネ!早く逃げよう!」

「ねぇエルとリエナはどうなったの?」

テネは顔を歪め、地響きの鳴る方角へと指を刺した。そのテネの指差す先は僕たちの秘密基地のある方角だった。

「エル、リエナ、」


その後3人は自分らの置かれている状況を顧みず秘密基地の方角、地響きの鳴る方へと走り出した。

そこでは村の裏口へと逃げる人、地響きから離れようとする人に押され、そしてぶつかりながらも僕らは村の門へと辿り着いた。

「エンナ、テネ、覚悟はいい?」

「うん...だって助けに行かなくちゃエルもリエナも死んじゃうし...」

「あーアルセがここ居たら怒るだろうな...」

「そ~だねぇ~」

「でも行かないとな...」

ヴィタは大きく息を吸った。

「尋人の永結(ハーメイル)鉄の掟!」

「その一」

「「「仲間の助けを顧みない!!」」」

3人は声を合わせ、掟を唱え、村の門に手をかける。

門番の不在の扉は重く、そして硬く僕らの力では、ゆっくりと開いていく。

「いくぞ!!」

3人は意気揚々とその村の門を潜った。


そんな3人の目の前には大きな化け物が現れる。

「「「あ、」」」

門を潜ったその瞬間、僕たちは地響きの主へと目を合わせる。


これが地龍かよ...


僕らは目先にいる地響きの主を見て唾を飲んだ。


そんな時僕の口からはみっともない言葉が溢れでた。

「僕...鉄の掟のその一変えるべきだと思うんだよ。仲間の助けは時と場合によっては顧みるべきだと思うんだ。」

「皆んなはどう思う?」

涙目の僕はエンナとテネに問いかける。

「ぐぉぉぉぉおおおおお!!!!」

地龍は大きく怒りの雄叫びを上げる。


僕たち前へと立ちはだかるのは「地龍ベルモルト」洞窟に生息する地龍だが、その風貌は太陽の様に赤い鱗を身に纏い、口元に傷はあれど、鋭利な牙を剥き出しにし、それは豪気な姿をだった。


かつて、この地を這う竜を見て、名を馳せた冒険者はこう呼んだ。


「炎の化身」と...


次の瞬間、地龍ベルモルトは口から沸き上がる炎を口から吹き出した。その炎は粘り着く粘度を持ち、ボタボタと僕らの頭上から降りかかる。


「テネ!!」

僕はテネに合図をかける。

「は~い」

「なっ、何するの?!」

テネはヴィタと何も知らず慌てるエンナの手を握りしめる。

「私と入れは怖いものなんてな~い!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

発動 テネ・ウィザード「均衡名[寝ン無]」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


テネは僕らの手を取り、瞳を閉じた。


それからしばらく経ったのち、テネは僕の手を離した。

「よ~し!おっけい!!」

「皆んなも目を開けて~」

テネの合図を聞き、僕らは目を開ける。

「とりあえず逃げ切れたな...ここはどこだ?」

目を開けたその場には目前にいた筈の龍の姿はなく、少し離れた所で地響きが聞こえる。

「うんとりあえず地龍からは離れたよ~」

「秘密基地は~ここからすぐの所だよ~」

「えっ?え!!何がどうなってるのよ!!」

エンナは状況が読み込めず、気が動転しているのかテネと僕の手を離そうとしない。

「あっそっか~エンナは私の能力知らないんだったっけ~?」

「う、うん。」

エンナはコクリと首で頷く。

「そうだったのか..言うのに忘れてた。」

「ねぇ!そう言う大事なことは言っておくべきなんじゃない?!」

「ごめんって、、」

「ん?待ってくれよ。」

「なによ...」

「じゃあお前...どうやって地龍から逃げるつもりだったんだよ」

「えっ?どうやってってそれは...」

「その...走るのよ。」

「お前バカだろ?」

僕は飽きた顔でエンナを貶す。

「なっ!!」

「バカだね~」

「えっ!テネまで~!!」

「まぁそんなことより秘密基地へ急ごう。あーアホらし、」

「そ~だねぇ~」

ヴィタはテネを背負い秘密基地へと走り出す。

「えっちょっと待ちなさいよ!!」

エンナも遅れない様にヴィタの隣を並走する。

「で、さっきのは何だったのよ、、」

「アレはテネの均衡[寝ン無]の能力だよ。」

「それはどう言う能力なの?」

「あれは目を閉じることで発動する一時的な記憶抹消能力だよ...多分...」

「多分?」

「うん未だよく変わってないんだよ。」

「何なのよ...その力、」

「それに発動条件が余りにも簡単で常時無意識下でも発動しちゃう欠陥能力ってアルセは言ってたよ。だからこの均衡扱うのは凄く難しいんだよね。」

「つまり目を閉じるだけで均衡が発動しちゃうって事?」

「そうゆう事。それはもう瞬きにも発動しちゃうぐらいにね。」

「だからテネって急に現れたり消えたりしてたの?!」

「そ~ゆ~事~」

「何か不思議な能力ね。」

エンナには少し難しかったのかいまいち分かっていない様だ。

そうしている間も走る一行だったが僕らの目に焦土となった焦げついた道が目についた。

「これって地龍が通った後よね?」

あの地龍は太陽の様な赤い鱗で這いずった地面までもを焼いていたんだろう。


焼かれた後がまるで道の様になっている。

「うんそう見たいだね。」

「心配だ...早く秘密基地に急ごう。」

焦げついた道の上を走る僕だったが、その道をしばらく歩くと秘密基地への道からは逸れる様だった。


僕らにとっては幸運な事だが一体どうしてだろう?


「エル!リエナ!大丈夫か?!」

秘密基地についた僕らは中にいるであろう二人に声をかける。

それはギィッと音を鳴らし、ゆっくりと開いた。中からはエルナードとそれにしがみつくリエナが現れる。

「ヴィタ何があったんだ!ヴィタ達がここを出た後、あの地響きがなってここに...近づいてきて...」

エルナードはもちろんリエナの顔には恐怖を浮かべている。

「地響きの正体が地龍だったんだ。」

エルは鳩に豆鉄砲を撃たれた様に驚いた顔をする。

「本当にあの地龍だったの?!」

「早く村に帰って大人達と合流しよう。」

「き、きき、危険は無いんでしょうね?!」

半狂乱のリエナが僕に向かって声を荒げる。

「そんなの分からないわよ」

僕に向かって声を荒げたリエナにエンナが割って入った。

「地龍の考えなんて分からないわ!」

「今奴がここに来たっておかしくないもの!!」


エンナもいい加減..リエナが冷静では無いとしてもヴィタに対してだけ声を荒げるのがそんなリエナの悪態に耐えられなくなったようだ。

「おい落ち着けよ。」

ヴィタは怒るエンナを止めに入る。

「ヴィタ、あんたも何とか言いなさいよ!!」

「さっきから言われたい放題だし、」

「それは元からもう、、昔からだ、し、、??」


妙な感覚が体を走る。


なんだこれ?


僕の体はビリビリと痺れが走り、立ち上がるのもままならず地に膝をついた。


その現象は僕だけでなく、エルナード、リエナ、エンナ、テネまでもが体を地面に伏せていた。

そんな動けずにいる僕らの耳から血が流れ出ている。


どうなってるんだ、、


混乱のあまりに思考が停止する僕だったが、その時微かに地龍の鳴き声が鳴った気がした。


そんな中、エルナードはすぐさま体を起こし、僕の体を揺さぶり、何かを訴える。


エル...何を言ってるんだ...何も聞こえない...

「にg」

エルは決死の表情で僕に何かを訴える。

「逃げろ!!!!」

次の瞬間、地面が大きく割れ、目の前に赤色の爪が地面に食い込む。


思考の停止していたとしてもこれだけはハッキリとわかる。


地龍だ!


僕は体を無理矢理にでも叩き起こし、テネとエンナの手を取る。

地龍は何処から来たのか僕らを追ってここ、秘密基地まで迷い込んだ様だ。


逃げないと皆んな死んじゃう!!!


「ヴィタ!私の手を掴んでて!!」

テネは僕とエンナの手を握り、均衡を発動する。

「均衡[寝ン、、]」

「やめろ!」

僕は握っていたテネの手を離す。

「どうして!逃げるんでしょ?!」

テネはヴィタが手を離した理由が理解できずに再び僕に触れようとする。

「テネの均衡の能力を共有出来るのはテネの手に触れている対象だけだ。」


それじゃあ目の前を走るエルナードとリエナが逃げきれない...


「だったら、どうするのよ!!」

流石のテネでさえも声を荒げた。

「奴を相手に時間稼ぎをするしかない、」

「そんなの無理だよヴィタ!走ってでも逃げうよ!」

「いやそろそろ王都の騎士団や冒険者が到着する頃だ。時間を稼げさえすれば応援が来るはずだ。」


早馬を走らせてもう一刻は経つ、時間さえ稼げれば助かる。


「エル!」

「リエナ!」

「と言うことだ!やるぞ!!」


「分かった!」

先頭を走っていたエルナードは振り返り、リエナを僕の方へと放り投げる。

「キャッ!!」

ヴィタはリエナを受け止め、指示を下す。

「エル!お前は地龍の注意を引け!」

「テネはエルと一緒に動いて援護しろ。」

「リエナは均衡で情報を共有してくれ。」

「エンナは僕と奴の動きを制限させる!」


「分かった!」

指示を下されたエルナードは前に立ち能力を発動する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

発動 エルナード・グランド「均衡名[光盾]」

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能力は特殊な盾を生成し、緑色の眩い光で敵を誘い込む。


その眩い光は地龍の目を引き、エルナードに狙いを定める。エルを狙った地龍「ベルモルト」はエルナードに目がけて口から煮え滾る炎を吐き出した。

「ヴィタ!死んじゃダメよ!」

テネはエルナードへと飛びつき、僕を指差す。

「当たり前!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

発動 テネ・ウィザード 「均衡名[寝ン無]」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

テネは狙われているエルナードに触れ、エルナードの存在を隠した。

「リエナ!」

「ヴィ、ヴィヴィ、ヴィタ!もし私が死んだらアンタを呪い殺すからね!」

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発動 リエナ・バック 「均衡名[八岐大蛇]

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

能力は任意生き物への意識の共有。

そして二つ目の能力は一定の条件を満たすとリエナは[八つの頭の蛇]と変貌する。


そうしてリエナはヴィタに不満を抱きながらも任意生き物間で意識の共有をすふ。


すると僕の頭の中にはエルナード、リエナ、テネ、エンナの意識が共有される。

これによって皆の考えが言葉を交わさずとも瞬時に共有されると言うものだ。

「ヴィタ!来るよ!」

エンナは僕にそう呼びかける。


エルナードを見失った地龍は目先の僕らへと手を伸ばしたのだ。

(今だ!!!)

「解除」

するとテネを抱えたエルナードが再び姿を現した。

「緑光収(グリーンバック)」

すると僕らに伸ばされた地龍の攻撃の手は止まり、再度エルナードへと攻撃をしかける。

(エンナ!仕掛けろ。)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

発動 エンナ・イーファ 「均衡名[点呼]」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

能力は一定の範囲の生き物に炎を灯す。


「炎点」

エンナは地龍の体に複数の炎の柱を落とした。

(いけたか?)

そこには煙の上がる地龍の体が見え隠れさせている

(こ、殺せたの?)


バキッ

煙の上がる地龍の体から何か硬い物が擦れ合う音がする。

バキバキバキバキ

次の瞬間、煙の中では赤い炎が見えた。

地龍は体に纏う煙を吹き飛ばし、炎の球体を打ち上げる。煙から現れた出た地龍「ベルモルト」は先ほどと大きく変わっていた。全身の鱗が割れんばかりに逆立ち、その鱗は血の様に赤黒く変色している。


(何だよあれ、、)

(私の攻撃で傷ひとつない、、)


空高く上がったその球体は僕らの頭上で爆発する。

流星の如く降りかかる焔に皆は唖然と立ち尽くすしかなかった。


それの光景はまるで星の礫が僕らに降りかかっている様だった。


そして共有している皆の意識が僕へと流れ込んでいく。

(私...これ死んじゃうの?)

(ヴィタ逃げろ!!)

(ああああああ私死んじゃう!許さないんだからねヴィタ!!)

(逃げて!ヴィタ!!)

皆が生死を恐れる中、僕は冷静に次の行動に入る。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

発動 ヴィタ・エネディクト 「均衡名[結晶化]」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

能力 触れた物に結晶化を付与、又は水晶を生成をする。


ヴィタは地面に触れ、地面に能力を付与する。


姿を消したテネ、エルナードを除き、ヴィタ、リエナ、エンナを取り囲む様に地表へ向けて、結晶を生成した。

「地晶生成」

夥しいほどの焔の雨が降り注ぐ。

そんな攻撃は何とか防御することが出来たのだがこの攻撃によって皆に生成した水晶の表面は粉々に砕け、内側には大きくヒビが入ってしまっている。

(た...助かったの?)

(まだだ...エルさっきと同じ様に奴の注意を引いてくれ..)

(策を考える時間を僕にくれ)

(任せろ!)

「解除」

テネは均衡を解除し、エルナードが姿を現す。

「緑光収(グリーンバック)」

光の盾から緑色の光を放ち、地龍を自身へと誘う。

地龍はそれを見てか、大きく息を吸い始め、口内に炎を溜めていく。

(よし、注意は弾けたぞ!)

(分かった。)

(エンナはリエナを頼む!)

エルナードの言葉を聞き、僕は生成した結晶を解除し、地龍の懐を目指し、走り出す。


とにかく足と地面を水晶で結合させて行動を縛る!


「ヴィタ!離れろ!!」


「なっどうして...!!!」


地龍の瞳に映し出されているのはエルナードではなく僕の姿だった。地龍に向かって走り込む僕にはもうアレを回避するすべはなど無い。


そんな地龍は口に溜めていた焔のブレスを僕にへと無情にも吹き放った。


(最悪だ...ごめん皆んな逃げて...)

その言葉を皮切りにヴィタの体は焔に包まれていった。

「まってヴィタ!!!」

「そんな...」


エンナ達の目に映るその光景は地面をも焼き尽くし、姿形のなくなったヴィタだった。



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