第二話 魔物
二話 魔物
日が落ち、辺りが暗がりを帯始める夕暮れに家路についた僕は家の戸を叩いた。
すると家の中からはバタバタと忙しなく駆け寄る足音が聞こえ、次の瞬間にバタンッと勢いよく家の戸が開いた。
そこには鬼の形相の母さんが立っていた。
「た、ただいま母さん、、」
「ヴィタぁ~!!あんたまたエンリちゃんと喧嘩したらしいわね!!」
「なっ!何処でそれを!!」
その事実を知ると母さんは僕の頬をつねりあげる。
「アンタに女の子には優しくしなさいって何度も教えたでしょう!!」
「痛いって!母さん!!」
「ねぇ!父さんからも言って下さいよ!!」
すると家の奥からは気弱な父さんが顔を出す。
「そ、そうだぞ!ヴィタ!女の子には優しくするもんだ!」
「明日ちゃんとエンナちゃんに謝るのよ?!」
鬼の形相をした母さんは僕にそう念を押す。
「ま、まあ母さんも落ち着きなよ。ヴィタも反省しているようだし、、」
「あんた本当に言ってるの?」
父さんは何とか二人の間を取り持とうとしたがそんな父さんに母さんはギロリと睨みつけた。
「で、でもヴィタはきちんと明日エンナちゃんに謝らないとダメだぞ?」
あ、諦めたな父さん。
子供ながら分かる家の中のカースト、父さんは母さんには絶対勝てないのだ。
「まぁ父さんがそう言うなら仕方ないわね。お説教はここまでにするわ」
「でもあんた!明日必ず謝るのよ?」
「はい、」
「返事が小さい!」
「はい!!!」
そう勢いよく返事をすると母さんは僕の頬をつねるのを辞めた。
「やっぱり母さんが一番怖い、、」
僕はポツリと本音をこぼした。すると父さんは何も言わずに首を縦に振り続けた。僕はそんな父さんを抱きしめ、父さんも僕を抱きしめた。
「あんた達何してるのよ」
「愛だよ、母さん、ヴィタを俺は愛してるんだ。」
「僕もだよ父さん!」
「じゃああんた達二人で風呂入れば?」
「「うん!!」」
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「って事があったんだ。」
「やっぱりヴィタのお母様怖いね。」
僕の話を聞き、エルナードは共感の姿勢を見せる。
「あれはきっと魔物か何かだよ」
「そんなまさか、、」
どうやら、エルナードは昨日アルセに言われた通りに声のボリュームを気にして静かに話してくれている。
「で、ヴィタはちゃんとエンナに謝るの?」
「ん~まぁ後でね?」
「今謝りなよ、すぐ前にいるんだし、、」
僕たちの前には3人で歩くリエナ、テネ、エンナの姿がある。
「まぁ、それはなぁ、獲物を取った後にでも言うよ。」
「まあそうだね。」
今を遡る事一時間前、僕の家に訪問者が現れた。
「何だよ。」
眠い目を擦りながら玄関に出るとそこにはエルナード、リエナ、テネ、そして後ろに隠れるようにエンナの姿があった。
「何のようだよ。」
「ヴィタ!今日は魔物狩りだ!」
「魔物狩り?」
「そ、そそ、そうだよ!魔物狩り!」
「アルセが戻ってきた時、やっつけた魔物で驚かせたいんだよ。」
エルナードはグイグイと僕に顔を寄せ、翡翠色の目を輝かせる。
「ね、ねね、ねぇ!ヴィタくんも行こうよ!!」
「私は~どっちでも~良いけど~皆んなで行った方が~たのしぃ~し~ヴィタも~おいでよ~」
テネは僕は顔を両手で掴み外へと引っ張り出そうとする。
「私もどっちでも、、良いけど、、きてくれたら、、昨日のことは許してあげなくも、、ない、けど、、」
エンナもモジモジとしながら僕に来るように促す。
「分かったよ、行くよ。」
まぁ昨日エンナには悪いことしちゃったしな、、
「でも村の大人が魔物を狩り尽くした後なんじゃないか?」
「小物も小物、ちょうもないのしか獲れないぞ?」
「良いの!まだ残ってるかもしれないでしょ?」
「私、昨日アルセを困らしちゃったし、見返したいの!!ヴィタも来てよ!!」
「じゃあ行くか...」
エンリのそんな一言に僕らは今、村から少しばれた(エルドナ森林)へと足を踏み入れていた。
「やっぱり魔物の気配が無いみたいだね。」
「エンナどう?近くにいる?」
「ちょっと待ちなさいよ!今探してるんだけど、いつもいる小型の魔物も居ないのよ。」
エンナは目を閉じ、目頭にシワを寄せている。
「便利だよねエンナの力、」
「エルもそう思うか?」
今エンナがしてるのは「均衡」と呼ばれる力の一つで辺りの探索している。
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その「均衡」とは生まれながらに与えられるその人固有の力だ。
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エンナの「均衡」の固有名 [点呼]
その効果は一定の範囲の生き物に炎を灯す能力。
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「[点呼]か、こう言うだだっ広い森の中じゃ便利だよな。」
するとすぐ前を歩くテネが振り返った。
「そ~だね~便利~便利~♡」
「なんか珍しいなテネ、」
「寝ずに歩くなんて...魔物を狩るって言われた時はテネはエルナードの肩にでも寝るもんだと思ってたよ。」
「う~ん~なんか~この森~静かすぎるんだよ~ね~」
「気持ち悪くて~寝れな~い」
「そうか?」
首を傾げる僕だったが確かにこの森に入ってからは異様な静けさを感じる。
この森からは鳥の囀り一つ聞こえないからだ。
「エ、エエ、エルくん...この森ってこんな怖かったっけ?」
皆んなの不安を察知したリエナの顔は恐怖が現れていた。
「皆んな止まって!!」
僕の前を歩くエンナの足が止まる。
「何かやばそうなのがこの先にいる。」
エンナが指差す方向は「ロエナ洞窟」という古い洞窟だった。
「何か見えたの?!」
「うん、なんか大きい黒い影が見えた、、」
「多分村の大人が狩りの残した魔物だな。」
「どうする?諦めて帰るか?」
「どうしよう、でもあれは私達じゃ無理だと思う。」
すると洞窟の方から大きな地響きがなった。
「何だよこれ、、」
その地響きは心の臓を握りつぶすように僕らの方へと近づいてくる。
その地響きは近からずも遠からず、僕たちと遭遇するのは時間の問題だった。
「これって逃げるべき?」
僕は呆然と地響きの鳴る方へと体を向ける。
「当たり前だ!!」
エルナードはリエナとテネを担ぎあげ、元来た道を走り出す。
「あ、待ってよー!!」
それを見てエンナは僕の手を掴み走り出す。
「ヴィタ!エンナ!もっと早く走れ!追いつかれるぞ!この森林であの地響きから逃げ切るぞ!!」
エルナードは怯えながらも僕らを扇動する。
「待てエルナード!!村に真っ直ぐ帰ったら危ない!」
「なら、どうする!!」
「ここからなら秘密基地の方が近い!」
「一度、秘密基地に逃げるぞ!!」
「分かった!!」
その後僕らは死ぬ気で足を動かし続けた。
あの地響きの主から逃げるために。
秘密基地についた僕らはお互いを見合わせ、安否を確認する。走っていた皆が肩で息をするほど体力を消耗していた。
あの現場からリエナは放心状態になり、蹲って泣いていた。テネはそんなリエナを優しく頭を撫でていたが何処か落ち着いていない様子だった。
いや、残りの僕らも冷静ではいなかったかもしれない。
「撒いたよな?」
「多分...」
「あれは洞窟の中にいたのか?」
「うん、洞窟の中に大きな影が見えた、、」
「そうか...撒いたなら村に帰ろう、村の大人に早く伝えないと」
「ああそうだな、僕はあいつに心当たりがあるしな...」
ヴィタは顎に手を当て、悩ましい顔をする。
「え?」
みんながヴィタを見合わせる。
「お父さんが言ってたんだけどロエナ洞窟は昔、地龍が住んでいたと言い伝えのある洞窟なんだよ。」
「エンナがみた影が本当なら地龍かもしれないだろ?」
「だから~ヴィタはここに寄ったんでしょ~?」
テネは僕を真意を見抜いていたのかそれを言い当てる。
「うんだから村にすぐ帰らなかったんだ。」
「僕らがあのまま地龍に襲われてたとしたら村に引き連れるのは危険だからな、」
「エル、まだ走れるか?村まで急ぐぞ。」
僕は疲労による重い足腰を上げ、ゆっくりと立ち上がる。
「うん行けるよ。」
エルナードは顔の汗を腕で拭き取り、立ち上がる。
「助かる、子供一人の話じゃ大人は聞き耳を持たないからな、」
それに地龍の話なんて大人達が親身になって聞いてくれんわけがない、ましてや8歳がガキンチョだからな。
「ま、まま、待ってよ!!」
部屋の中でリエナの声が響き渡る。
「大丈夫か?リエナ?」
エルナードは急に声を荒げたリエナの側による。
「む、むむ、村へはヴィタくんだけで行って...」
「リエナお前聞いてなかったのか?子供一人の話じゃ大人が聞き耳を立ててくれないだろ?」
「う、うう、うるさいなぁ!だからヴィタくんだけで行ってって言ってるでしょ?」
リエナは泣きじゃくった顔で僕を睨みつける。
「はぁ?何だよその目!僕が悪いってのか?!」
「ヴィタ落ち着け!リエナも気が動転しているんだ。」
エルナードはヴィタを制止させる。
「エル早く来い、村まで走るぞ。」
「ヴィタくんは黙っててよ!!」
リエナはエルナードの手を握り、引き止める。
「リエナ...村に行かないといけないから離してくれ、」
「な、なな、何でヴィタくんについていくのよ!エルくんは私の側にいてよ!!」
「何でって村に危険を伝えないと、、」
「じゃ、じゃじゃ、じゃあ私はどうなるのよ!あの魔物がここにきたら私きっと死んじゃうじゃない!リエナはエルくんが居てくれないと不安だからここを離れないで!!」
そうリエナは自分本位な言葉を並べた。
「リエナ...を言って、、」
エルナードもそんなリエナの言葉に驚きを隠せないようだった。
「もういい!私が行く!」
その時エンナが話に割って入る。
「私も~行こうかなぁ~」
それに遅れてテネも続いて手を上げた。
「行こうヴィタ!テネ!」
エンナはヴィタとテネの手を引いた。
「エル、リエナをお願いね?」
エルナードが頷くとエンナは秘密基地を飛び出した。
そんなこんなで秘密基地を飛び出し、走りだす一行だったが、まもなくしてテネはヴィタの背中に飛び乗った。
「うあっ!」
「も~も~むり~はしれな~い」
テネは垂れ下がった小紫の髪を汗で濡らし、汗だくの体でヴィタの背中に飛び乗る。
「もう無理なのかよ!」
「エンナはまだしも何でテネまで村に行くんだよ」
「残ってくれてて良かったのに!」
「い~や~気持ち~悪くて~さ~自分~勝手な人~」
「テネ、それはきっとリエナも気が動転してて、」
エンナはリエナの心情を思ってか庇う素振りを見せる。
「う~ん、そうかなぁ~」
「わたしは~前から~そんな~気はしてたけどねぇ~」
「そ、それは、、」
エンナもそれ以上何も言わなかった。
「いいよもう僕は、誰かついてきてくれる人が居るなら何でも良いし...」
「そっか」
「うん」
「じゃあ~何で~私を~誘わなかったんだ~!」
テネは汗だくベタベタの顔を僕の頬へと擦り付ける。
「何でいじけてんだよ!だってテネは全然走れないでしょうが!」
「ちょっとは~走れるよ~」
「多分、ヴィタは私たちに気を使ったんだよ。外に出るってことは魔物に遭遇する可能性だってあるし...」
「そ~なの~ヴィタ~?」
「だッだから何だよ。」
「え~ヴィタやっさし~」
テネは再びビタビタな汗を僕に擦り付ける。
「おい!くっつくな!ベタベタすんな!」
「ヴィタ!テネ!もうすぐだよ!」
秘密基地から走ってしばらくして村の門へと辿り着いた。僕らは急いで村の門を叩き、大人を呼びかける。しかし村の門を叩いたのに門兵の一人も出てこない、硬く閉ざされた村の門を前に僕らは秘密の裏口へと周り、村の中へと入った。
すると村の中は異様な空気が立ち込めていた。
村中の大人が何人かの青年を取り囲み、怒鳴り声をあげている。
そして一つの言葉が僕らの耳に入った。
彼らがロエナ洞窟の地龍の封印を解いてしまったと、、、
どうやら魔物狩りをしていたさい、獲物が洞窟内へと逃げてしまい、洞窟で追い詰めたところ、地龍が封印されていた祠の一部を破壊してしまったらしい、そのことを知り村の大人は顔を真っ青にしていた。
それを聞いた僕らは急いで大人に僕たちが体験した事を伝えた。
エンナの均衡で見た大きな影とその地響きを、、
それを聞いた大人はすぐさま早馬を走らせ、王都へ騎士団、冒険者への緊急通知を流した。
しかしそれは遅かった
村の外では心の臓を突く地響きが鳴った。
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