ハーメイル;最強の吹聴師ら

歯小

第一話 始まり

一話 始まり


「ねぇこっちきて、」

見知らぬ少女が僕に手招きをする。

手招きをする少女は青藍色の髪色で綺麗な顔立ちをしていて僕はそんな少女に釣られ、ホイホイと近づいてゆく。

「ヴィタ...貴方にこれをあげる。」

僕が少女に手渡されたのは青黒い石を精巧に加工された不気味なブレスレットだった。

「なにこれ、」

「ふふ、これは私とヴィタが婚姻する証よ。」

そう言い放つ少女は口を緩めた。

「ん?」

頭に?が浮かぶ僕だったが少女を前に立つとそんなことを忘れてしまう。少女は子供ながらに恥じらいながらもどこか大人びた色気を漂わせている。僕はそんな彼女を目にし、頬を赤らめる。

「えへへ」

「ふふふ」

少女は僕に顔を近づける。少女は長いまつ毛に切れ長の目で僕を見つめ、その瞳には金色の光が宿っている。

僕はそんな目に惑わされるように少女を見れば見るほどに優艶な気持ちへと誘われてゆく。

目の前の少女へのピンク色な気持ちを抑えるのに必死な僕だったが、そんな事は梅雨知らず、畳み掛けるように少女は僕の肩に手をおき、少女の体と僕の体は重ね合う。

少女はビクリと体を強張らせる僕の反応を見てか、クスリと笑い、切れ長の目をより一層細めた。


少女は目を閉じ、唇を濡らす。

少女への優艶な気持ちを耐えきれぬ僕は少女の唇に応えるように顔を近づける。


バン!!

何か音が聞こえた気がする。

いやそんな事はどうでもいい、


僕は目前の少女に集中する。


「ちっ」

ん?舌打ち?


切れ長の目の少女は舌打ちを鳴らす。

そんな少女の顔は苛立ちを見せいた。

「どうしたの?」

「邪魔が入ったみたい」

「どういうこと?」

「今に分かるわ」

「え?キスは?」


ベシッ!!!

次の瞬間、何かが僕の頬をひっぱたたいた。

その一撃によって夢の世界から現実に叩き戻された僕は体を起こし、目前に広がる現実に目を向ける。


なんだ...夢だったのか...


「あんたいつまで寝てんのよ!!」

「アルセの話をちゃんと聞きなさいよ!!」


起きて早々耳元で部屋中に鳴り響く声の方へと目を向ける。するとそこには赤毛の少女と白髪の少年が立っている。

「あんた最近たるんでるんじゃないの?!」

僕はキャンキャンと騒ぐ赤毛の少女を見つめ、痺れる頬を摩る。


赤毛の少女の目覚めの一撃が効いたのか、すぐに頭が冴えてゆく。


すると次第に僕の中には沸々とした怒りの感情が湧き立ってくる。

そして完全に意識の覚醒した僕は赤毛の悪鬼を殴りつけた。


ガツンッ

「ふざけんな!これから先の僕の人生でもう拝めることの無い幸せな夢を見てたのに!」

「いったぁー!ヴィタっ!!あんた今殴ったわね!?」

「当たり前だ!馬鹿野郎!!」

赤毛の少女は顔を真っ赤に染め上げる。

「じゃああんた私とやるってわけね?」

そんな少女の目には次第に涙を溜めてゆく。

「いいわ、やってやろうじゃない!!」

赤毛はプルプルと体を振るわせながら僕に躙り寄る。

「あんたっ覚悟しなさいっっっ!」

赤毛の女の子はグルグルと右腕を回し、僕にめがけて走りだした。

僕はそんな泣きべそをかきながら立ち向かってくる赤毛の少女に対し、硬く拳を握りしめる。


「男の怒りを知れいっ!エンナぁ!!!」

そうして僕は赤毛の少女エンナに僕は本気の拳を振り下ろた。しかし僕の怒りの鉄槌はエンナに当たることは無かった。

僕は強い衝撃を受け、赤毛の少女もろとも吹き飛ばされたのだ。

ひっくり返る僕らはパチクリとお互いに目を合わせ、目前に立つ少年らへと目を向ける。

「ちょっと待ったァァァァァ」

「な、なな、何やってるの!!もも、も、もう、とまってるよ!エルくん!!」

そこに大柄な少年とたじろう吃音の少女立っていた。

「はっっ!しまった!!!」

大柄の少年は意図せず吹き飛ばしたのか頭を抱える。

「エル落ち着け、これぐらいが頭を冷やすにはちょうどいい。」

「ヴィタもエンナも落ち着け、」

大柄の少年を横に白髪の少年は冷静にそう言い伏せる。

「うぅぅぅ」

エンナは白髪の少年、アルセに怒られたからか早くも反省の色を見せた。しかしそんなエンナを隣に僕はエルナードに怒りを露わにする。

「いてぇぞ!全くもってちょうど良くねぇぞエル!止めるならもっと優しく止めろ!」

「うぅ...ごめんヴィタ」

「なっ、なっなっヴィタくんも女の子には優しくしてください!!」

「うぐぅ、それはエンナが、」

「も~そうですよぉ~けんかは~やめて下さ~い」

何処からかのほほんとした声が聞こえる。

「テネ...お前もいたのかよ。」

はたまた何処から現れたのか大柄の少年の肩には小紫色の髪色をした少女が座っている。

「皆んなは大袈裟なんだよ。」

「な、なな、何をいっているんですかぁ!」

「そ、そそ、外まで二人の声が響いてたので急いで来たんですよ!!」

大粒の涙をぼたぼたと落とす少女を見て、流石の僕もたじろぐ。

「ごめんリエナ」

「そうだぞ!俺は悪くない!ヴィタっ!喧嘩をするな!!」

大柄な少年が僕の耳元で大声を上げる。

「つッ... ウルセェな!いちいち近いんだよお前は!」

ヴィダはエルナードを押し除け、耳鳴りのする耳を押さえる。

「毎度毎度、腹から声をださねぇと気がすまねぇのか!音量考えろ音量を!うっせぇわ!」

「ヴィタお前はエルナードに八つ当たりするな、」

アルセは僕をみてそう言い放った。

「ヴィタ、今回のは頂けないぞ。腹が立ったとはいえ、女性に手をあげるもんじゃ無い。それにこれが一番大事な事だ。」

「仲間に手を上げるな。」

「それは!その..男の夢が...」

「どんな理由があってもだ。」

アルセに怒られる僕をみて隣ではエンナがくすくすと笑っている。

「エンナも同じだ。」

「エンナもエンナでヴィタにくってかかるな。今月で何度目だ。」

「最近のお前らの喧嘩は目に余る。」

「それはヴィタが私を叩いたからで、、」

エンナは泣きながら僕を指を刺す。

「何だよ!お前が先に殴ってきたからだろうが!!」

「なによ!小さいわね!からあんたは背が伸びないのよ。」

「なっ!」

エンナは僕が最近気にしている痛いところを突いてきた。

確かに今はこの中で僕が一番身長が低く、最近まで横並びだったアルセが伸び始めることで何よりも言われたくない事だった。

「ヴィダ、エルナードを見てみなさいよ。心が広くて優しいから同い年でもこんなに差が生まれるのよ!」

た、確かに、エルナードはここにいる誰よりも身長が高く、誰よりも優しく、心の広い人間だ。

「なっ!まだまだこれからだわ!」

「だってまだ8歳だし、、」

「だっさ、何その言い訳w」

僕の発言にエンナは見下すように笑みを浮かべる。

「ああ?!」

「そこまでだ!」

普段声の荒げることのないアルセが声を荒げ割って入る。

「お前らは初心に帰るべきだ。」

「お互いが初めて会った時のことを思い返せ。」

「は...はい。」

エンナもアルセに怒られて気を落としている。

「...」

「所で話は変わるが、しばらく「俺」は家業が忙しい。当分ここには来れそうにない。」

「え~そんな~寂し~よ~」

「皆んなはヴィタとエンナをよく見ておけ、」

「もし喧嘩でもしたら、」

「エルナード...頼んだぞ。」

そう言うとアルセは手で耳を塞ぐ。

「任せろアルセ!!」

エルナードは勢いあまって声を荒げてしまった。

「や~ん!もう~うるさ~い」

するとエルナードの肩に座っていたテネだったが肩からスルスルと落ち、地面にペタリと寝転ぶ。

「ご、ごめんテネ!!」

エルナードは地面に転がるテネを拾い上げ肩に乗せ、周囲を見回す。そこには耳を塞いだアルセを除き、部屋にいる皆んなは泡を吹いていた。

「エルナード、お前はいい加減声のボリュームを考えてくれ、」

「ごめん、、」

「頼んだ...あとはそうだな」

「リエナ、お前はその泣きグセを何とかしろ」

「えっ!そ、そそ、そんなぁ」

「テネ」

「お前は...」

「なぁ~に~?」

「お前は...特に無いな。いつものように寝てろ。」

「あはは~任せておいて~私~寝るの得意だから~」

「よし今日の「尋人の永結ハーメイル」はこれで終わりだ。」

アルセはそう言い残し、部屋を去っていった。

「じゃ、じゃじゃ、じゃあ私達も帰ろっか、エルくん、テネちゃん」

「そうだな!!」

「う~ん」

リエナはアルセに続いて僕らを置いてここを後にした。

そうして部屋にとり残されたエンナと僕だったがエンナは僕と目を合わせるとプイッと目を逸らし、足早にリエナ達の後を追っていった。

「リエナ待ってよ!私も帰る!!置いてかないでー!」


ポツリと一人で部屋に取り残された僕はさっき見た夢の記憶を辿る。

「あ~やっぱり思い出せないな。何の夢を見てたんだっけ?」

思えばこんなくだらないことでエンナに手を挙げてしまった、

「良くないな、僕。」

僕は大きくため息をついた。

「明日、いや今度謝ろう。」

「全く、この調子じゃアルセと二人っきりだった時の方が幾分か楽だったな、、」

「部屋にも物ガラクタが増えてきたし、」

辺りを見回すとここはみんなの私物で溢れていた。初めはただの汚いと廃墟だったが今ではただ生活感満載の汚部屋と化している。

「アルセの奴、片付けサボってるな、」

手についたホコリを振り払い僕は基地を見回す。


ここはこの村の外れにある寂れた廃墟、秘密基地にはぴったりなこの場所は当時のアルセと僕らには必要な場所だった、


2年前 アルセとヴィタが6歳の頃に設立した僕らの居場所「尋人の永結(ハーメイル)」


それはアルセの一言から始まった。

2年前ここがもっと廃墟らしく散らかし放題だった頃、二人でここを見つけた。

「なぁヴィタ!ここに「僕」らの居場所を作ろうぜ!」

「何でまた、、」

「良いじゃん!!作ろうよ!」

「う~んじゃあ」

「お前がこの廃墟を綺麗に片付けてくれんなら考える。」

「あはは!そんなことか!」

「じゃあ分かった!ここは僕が片付けるから...」

「?」

「何だよ。」

「ヴィタはここに仲間を集めてきてくれよ!」

「げっ!何でそんなめんどくさそうなことを僕にやらせるんだ!」

「あはは!!頑張れよヴィタ!!」

「おいーーー!!」


今思い返してもあの頃は大変だった。


エルナードをウルセェわ


リエナはずっと泣いてるわ


テネは一生寝てるわ


エンリはクソウゼェわ


で、僕が何処からか集めた変わり者な少年少女らはいつの間にか「尋人の永結」の一員、仲間となっていた。


こんな日常がずっと続いてくれたらいいな、、、、


ハクション!!!

「やっぱここ全然掃除されてねぇな、」


「早く退散しよっと、、」


そうして僕もまたエンリの後を追うように秘密基地を後にした。



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