第14話 戦う理由

「騎士団に戻るつもりはない」


私の体調を心配して、屋敷で昼食を共にするレヴィンに告げる。


「本当に?」

「ああ、今更私の居場所などないしな。それにここが気に入っているのだ」


騎士団に戻るという事は、また戦場を駆け巡るという事だ。


私は弱くなったのだ。

この居場所から離れたくないと思ってしまう程に。


そんな感傷に浸りながら、昼食を終えると、人差し指を立てる。

食後の一服というやつだ。


だが、メイドの中には屋敷内で吸う事を好ましく思わない者もいるようで、私達は中庭へ移動する事にした。


「前に話していたな。東に領地があると」

「ええ、落ち着いたら行こうと思ってますよ」

「今なら王国最強の元騎士団長様が護衛だ。悪くないだろう?」

「あはは、それは心強いですね」


二人で笑いながら中庭を散歩する。


「戦地を転戦はしても、旅はした事がなかった」


だから、憧れるのだろう。

未知なる世界に思いを馳せながら紫煙をくゆらせる。


「私の経過観察をするにも丁度良いだろう?どうだ?」

「念の為、護衛を連れて行きたいですね」


それからも何気ない会話を楽しんでいた時だった。


都市全体に鐘の音が鳴り響く。

その鐘は緊急事態を知らせるものだ。


何事かと思っていると伝令兵が貴族街を叫びながら走っている。

その表情には焦りが見て取れた。


——南門より、オークの軍勢襲来!繰り返す!南門よりオーク軍襲来!数は一万!


「馬鹿な!?」


私は身体強化魔法で駆けると、伝令兵を強引に捕まえた。


「騎士団はどうした!?」

「わかりません!数が多すぎて、止めきれなかった可能性があります!」


その情報を聞いて血の気が引いていくのがわかった。

このままでは、市街地戦になる。


「チッ」


王都にはまだいくつかの騎士団が控えているだろう。

城壁を盾に籠城戦の算段かもしれない。


だが、


「エルナ!」


屋敷を飛び出したレヴィンが叫ぶ。


「すまないな。私は行く」

「うん。そう言うと思ったよ。だから、必ず生きて帰って来て……それだけ言いたかったんだ」


まったく……。


「私を誰だと思っているのだ?たかが、オークの群れが一万かそこらだろう?」


あの地獄よりは多少はマシなのではないかと思う程度には、壊れていた。


いや、違うな。


——なんの為に戦っているのだろうな。


あの時の答えを見つけたのだ。


守りたいものがある。


そんな単純な想いを胸に、私は戦場へと駆け出した。



おわり

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