第13話 復活

翌朝、大人の階段を昇った私と彼は一糸纏わぬ姿で抱き合いながら目を覚ました。


隣にある彼の顔を覗くと、そこには出会ったばかりの頃の幼い顔立ちはなく、一人の男がいた。

そんな彼を見つめながら昨夜の出来事を思い出す。


「まったく、獣のようだったな」


愛の言葉を囁き続けたと思えば、またすぐに私を求めてきた。

正直言って、彼は若いだけあって精力があり過ぎるのではないだろうか?


「困った旦那様だな」


彼の黒髪を優しく撫でる。

すると彼は気持ちよさそうに、私の胸に顔をうずめた。


「寝ぼけているのか」

「んん、おはよう……」


眠そうな声を漏らす彼。

そして、甘い口付けを交わす。


「今日も仕事なのだろう?」


私はベッドから抜け出すと、身なりを整える。

その間に彼も起き上がると服を着始めていた。


「ええ、その事なんだけど」

「なんだ?勿体ぶる言い方は好きではないな」


私が睨みつけると、彼は観念したのか続きを話し出す。


「魔力回路の欠損を治すポーションの研究をしているんだ」

「なん…だと…」


その言葉に驚きを禁じ得ない。


——これだけは絶対に開発しないといけないんですよ。


彼の決意の言葉が蘇る。


「冗談では済まされないぞ?」

「僕がポーションを開発したのは知っているよね?あの応用なんだ」


確かにあの泥水をすするような味を除けば、私の折れた肋骨は信じられない速度で回復していた。


「いつ完成するのだ?」

「試作は出来ているよ。あとは何人か被験者に試して、データを集めないと……」


そこでレヴィンは難しい顔をすると、再び私を見つめてくる。


「ただポーションと違って、対象者が圧倒的に少ないから、時間がかかるんだ」


申し訳無さそうに言う彼だったが、私にとっては嬉しい報告だった。

相棒を口に咥えると、魔道具で火をつける。


煙を吸い込み肺に入れるとゆっくりと吐き出す。

朝の冷たい空気に晒されたそれは、まるで氷のように白い蒸気を上げていた。


「私が被験者になろう」

「え?データも取れていない試作品だよ?」

「なんだ、欠陥品をどこかの誰かに飲ませるつもりだったのか?」


私が睨むと彼は冷や汗を流しながらも首を横に振る。


「そんなわけないさ!理論は完璧なんだ!」

「王国史に稀に見る天才なのだろう?信じるさ」

「だけど……」

「私の部下にも魔力回路がやられたやつらがいる。良いか?私は団長だ。戦場では常に背中を見せてきたのだ」


私はレヴィンの肩を叩くと微笑む。


「まあ、旦那様に本音を言えば、飲みたいのだ。ただそれだけだ」


そして、紫煙を天井に向かって吐き出した。


「わかりました」


私の真剣な眼差しに観念したように、彼は戸棚を開けると、青色の液体が入った小瓶を持ってくる。

それを受け取り、蓋を開けた。


短くなった煙草を小皿に押し付けると火を消した。


「理論は完璧なんだ……理論は……」


彼は祈るように同じ言葉を呟き続けている。


「新兵君に一つ教えよう。戦場では常に生きるか死ぬかの二択であるとな」


そんな姿を見て苦笑いを浮かべつつも瓶に口をつける。

口の中に何とも言えない酸味が広がり、それを無理やり喉へと流し込むと一気に飲み干す。


「あとは自分が信じた道を選ぶだけ。結果は神のみぞ知るというやつだ」

 

身体が熱い。

全身が燃えているようだ。


「……ふぅ」

「ど、どうだい?」

「暑いな」


額に手を当てて答える。

だが、しばらくすると全身を駆け巡っていた熱が冷めてきた。


懐かしい何かが手のひらに宿る。


そして、私は愛用の煙草を咥えると、人差し指を立てる。


懐かしい感覚に身を任せ、紫煙を吸い込む。


「さすが、私の旦那様だな」


煙が目に染みたのだろう。

頬を伝う感覚は本当に久しく忘れてたものだった。

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