第5話
☆
「おつかれさまです」
えなちゃんのファンだった時から面識のあった方たちに挨拶すると、「おつかれ」って感じで挨拶が返ってきた。えなちゃんの現場ではもっとたくさん返ってきたが、新しい現場では認知されていないからこんなもんか、と少し物寂しくなる。
上り列車のホームに着くと、ちょうど急行列車が流れてくる。それに乗り込み、扉の近くに立って手すりを掴む。
それにしても、今日の現場も楽しかった。今日のアイドルの子はショートカットでボーイッシュな感じでかわいくて、身長はえなちゃんより大きく手足が長いのでダンス映えするし、曲もおとなしめのアイドルソングとバラードが中心で聴きやすいし、声はえなちゃんより低くハスキーな感じで感情を込める感じの歌い方が良かった。えなちゃんのライブほど楽しくはなかったが、これから曲やノリを覚えればもっと楽しくなるかもしれない。SNSを開いて、フォローするボタンに指を近付けるが、指を戻し、画面を黒くした。
えなちゃんと比べなきゃ楽しくないライブなんて、何で行こうとしているんだろう。そもそも、何でこんなにたくさんの回数、えなちゃんのライブに足を運んでいたんだろう。もう、その理由すらはっきり言えない。
視線を外に向けると、ビルの隙間から沈みかけの夕日が差し込んでいた。
ライブの後、こんなに早く家に帰るようになっていたことに気づき驚いた。えなちゃんの現場に行っていたとき、明るい時間に帰ることも、家で夕食をとることもなかった。早い時間にライブ・特典会が終わることもあったはずなのに。その時はどうしていただろうか。確か――。
考えて、答えがわかったとき、えなちゃんの5周年記念ライブと同じくらい、いや、あの時以上にうれしい気持ちになった。答えは決まった。
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