第3話

   ❤


 勢いよくベッドに倒れこんでスプリングで腰が跳ね、枕で髪がクシャってなって、急いで起き上がった。ドライヤーが足りなかったようだった。さっき言い合いをしてしまったので、英太のいるリビングには戻りたくない。かといって枕がびしょびしょになるのも嫌だったので、スポーツタオルでぐちゃぐちゃに拭いて手櫛で軽く直した。明日は土曜日だし、出かける予定もない。会社で使う資料を探しに図書館へでも行こうとも思ったが、家に帰って一息ついたらどうでもよくなってしまった。

「なんであんなこと言っちゃったんだろう」と天井を眺める。

 来週の会議資料を作って帰宅すると、英太は「明日どうする? 行ける?」って聞いてきた。その言葉になぜかイライラしてしまった。

 えなちゃんがいた頃は当たり前の光景だった。ライブの前の日は、過去のライブの映像を見ながら翌日のセットリストを予想したり、写真を見て「このライブは最高だった」とか「この時は英太だけ行ってズルい」とか言ってはしゃいだ。それがえなちゃんから他のアイドルに替わっただけ。英太もえなちゃんがいた頃のように、また一緒にライブを楽しみたいって気持ちで誘ってくれているのはわかっている。でも、それに気乗りできない自分がいた。2カ月で私は変わってしまったのだろうか。えなちゃんが帰ってくれば、元通りに戻れるのだろうか。

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