第27話 嘘つき配信
フウガは高校から帰ると、すぐに自室にあるPCを開いた。次回のダンジョン挑戦やコラボ配信をどうするのかを考えつつ、自らのUtubeアカウントにログインする。
「うわぁ……」
思わず呆気に取られてしまう登録者の数。百一万人を超えており、現在貯まっている金額を見て彼は失神しかけた。
百万くらい稼いだかも……などと適当に考えていたのだが、その何十倍も軽く儲けてしまっている。このままいけば、もう人生でお金に困ることはないかもしれない。
ただ、このお金は自分の今後のことを考え、ほとんどは貯金に回すことに決めていた。そのため、フウガは生活水準を上げるつもりはない。
それと、やはり税金関係がどうなるのかが不安だったのだ。こうなったからには、換金前に詳しい人に聞いてみたほうが良さそうだと、一人そわそわしながら考えていた。
配信のコメント欄にも驚かされるばかりだ。前回六本木ダンジョンに挑んだ配信のコメント数は軽く千を超えている。イイネ! はなんと七万超えで、大人気と言って差し支えないだろう。
(えええ!? 俺、ランキング三位になってる)
しかも急上昇ランキングでは三位にランクインし、ずっとキープしていた。止まるところを知らない上がり方をしている。
(次はどうしようかな。ヒナリーとは相談中だけど)
彼女達もなかなかに多忙な身である。配信をやりつつ部活もこなし、勉強もしっかりやっているという。
ただ、忙しくてもヒナタとのやり取りは不思議と続いていた。最近ではお互いのことを話すことも増えてきたのだが、知るほどに別世界のお嬢様だという気がしてきた。
しかも、なんだか少しずつ彼女のテンションが上がってきているような気がする。でも、それは都合良く考えすぎだろうと、かつて痛い目を見まくった少年は考えてしまう。
ただ、コラボをしてくれることはもう決まりだった。フウガはとりあえずカレンダーを見つつ、予定を埋めようと頭を回転させる。
そんな時、ふと視線を六本木ダンジョン配信のコメント欄に泳がせたところ、やけに気になる書き込みを見つけた。
:キョウジさんが動き出しましたよ。あの方が言っていることが本当なら、この人は終わりですね
他にもいくつか、大体意味が同じようなコメントが散見されている。そういえばユウノスケも何か言っていたような。
フウガは気になってしまい、とりあえずキョウチャンネルを視聴することにした。検索するとすぐにヒットした動画のタイトルに、彼は目を白黒させる。
(フウガによりダンジョン探索が行えなくなった件について……?)
一体どういうことだろう。疑念を持ちつつ動画を開いてみると、そこには広々としたリビングと、ソファに座るキョウジの姿だけが映されていた。
彼はいつになく静かで、前屈みの姿勢で座っている。苦悩の色が身体中から噴き出しているかのようだ。数秒ほどしてチャットが溢れてくる頃になり、男はようやく顔を上げた。
『みんな、今日は配信を観にきてくれてありがとう。実はね、タイトルを見てもらえば分かると思うんだけど。とある探索者に到底看過できない妨害行為を受けました』
「え……」
フウガはモニターを見つめたまま目が点になった。自分が何かしたのかと記憶を辿るが、特に何も浮かんではこない。
『あの時、俺の配信にもあいつの配信にも映ってなかったことがある。あいつ、見えないところで俺に蹴りを入れてきたり、好き放題やってたんだ! そのせいで、あの黒い影みたいな魔物と上手く戦えなかった。その後、さも自分が助けたみたいにしてた。あれ……全部捏造です』
続いて出た説明を聞き、彼はキョウジという男に不快な気持ちを抱いた。
こんなに堂々と作り話をするなんて、と言いようのない憤りを覚える。
『ここで真実を話したのは、みんなにアイツが悪いことをしてるっていうことを伝えたかったからです。ダンジョンの中では、どんなに悪いことをしても証拠が残らない場合がある。今回みたいなのが一番いい例で、だからこそ許せません。
だから俺は、今度アイツと真っ向から勝負すると決めました。フウガ、この配信を観ているなら、俺と勝負をしろ。二度とふざけた真似ができないよう、そして新たな被害者が生まれないように……この俺がー! きっちりと裁いてやる!」
(勝負って何をするんだろ)
フウガには、いまいちキョウジの意図が伝わらない。
『アンサー待ってるからな。逃げるなよ!』
動画はここまでだった。どうやら答えを欲しているらしいが、彼にはどうしていいかよく分からなかった。
ただ、不愉快な気持ちだけは膨らんでくる。被害者を装ったあの姿に、掴みかかりたい衝動に駆られた。
そういえば、配信者同士が争っている動画を何度か目にした記憶があった。もしかしたらキョウジは、こうして自分の配信数を稼ぐ目的なのだろうか。
だが、フウガは人と口論するのが好きではなかったし、キョウジという男にも関わりたくなかった。こういった挑発を受けた時は、一体どうするのが正しいか分からず悩んだ。
しばらく思案した末、ユウノスケにチャットを送ってみた。クラスのカースト上位にいる男なら、そういった揉め事についても経験があるのかもしれない。数分ほど経って返ってきた返信は、予想外の内容だった。
『お! みたかー! そうそう、喧嘩売ってるね。アンサー動画をやってほしいというなら、やってみたら?』
『なんか、無視が一番……みたいな返事がくると思ってた。面倒なことにならないかな?』
『そりゃ、特に何の影響力もない奴なら無視が一番いい。でも、そいつは利用できるぞ』
利用? 少しフウガがチャット文に悩んでいると、ユウノスケのほうから続きが飛んできた。
『もう君が追い抜いたとはいえ、奴の登録者数とファンは馬鹿にならない。ある意味コラボみたいなものさ。事実無根だって言って、後は適当に流していればいいよ。そうすれば登録者数と再生数がもっと伸びる。そして俺の切り抜き動画も捗る』
『なんだよ。自分が儲けようとしてるだけじゃん! まいっか。ありがとう。やってみる』
友人のアドバイスは、確かに彼としても悪いものではなかった。向こうが自分を利用するなら、こちらも利用してやればいいのだ。
『あ、そうだ。アンサー動画なんだけど、俺にいい考えがある』
どうやら名案があるらしい。フウガには、ユウノスケの企んだ顔が浮かんでくるようだった。
こういう時の友人はとにかく心強い。話を聞くにつれて驚きが膨らんでいったが、フウガはその案を採用することにした。
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