第24話 ダンジョンからの帰還と再会
「ありがとう。良かったらまたお願い」
数分後、首無し馬車が階段の直ぐそばまでやってきたので、フウガは礼を言いながら飛び降りた。
デュラハンはなんとも言えない不思議な気分に困惑を隠せず、しばらく階段の近くで馬車を止め呆然としている。
「おかげでかなりショートカットできました。ここを降りたら十八階です」
:良かったらってww
:いやいや、絶対嫌がってるでしょw
:フウ君はおかしい
:完全にハイジャックしてた
:デュラハン「もうこのダンジョン来るのやめよ……」
:多分世界中でフウガだけがやってる移動手段w
:俺も乗ってみたいわ
:デュラハン君も怖かったろうな
フウガはチャット欄がツッコミだらけになっていることに気づき、思わず首をかしげる。
「あれ? いやでも、そんなに嫌そうじゃなかったですよ。途中からは剣を離しても動いてくれましたし。この下は危険なのに本当にいくのか? とか言ってくれて、最後には会話してくれました」
:え?
:まるで言葉が分かるみたいだな
:冗談だよね?
:デュラハンすら恐れる十八階って一体……
:魔物って言葉喋れたっけ?
「たまに喋る奴いますよ」
答えつつ、フウガはそういえば自分以外に魔物と会話している人って見たことなかったな、ということに気づいたが、それよりも驚くべき光景に意識が持っていかれた。
「こ、これは……!」
階段を降りきった先には細い一本道の通路があり、奥のほうに巨大な扉が待ち構えている。通路の外にはなんとマグマがぐつぐつと泡を立てていた。
「奥のほうに一つだけ大きな扉がありますが、なんか凄いことが起こりそうな予感が、ちょっと入って、」
『電池残量がほぼなくなるため、配信の継続困難。十秒後に配信を終了します』
AIアイラの連絡により、予想よりも早く終わりが来ていることを知ったフウガは慌てた。
「あ!? じゃ、じゃあ俺もそろそろ上がります。皆さん、さような、」
いい終える前に映像が途切れ、完全に無音の空間が訪れてしまった。失敗したなと思いつつも、彼はまだまだ余裕があった。目的自体は達したものの、もう少し先に行きたいという気持ちもある。
少しの間だけ悩んだが、明確な答えは元々出ていた。フウガには一つのこだわりがある。
まだ世に知られていない神秘、未知なるダンジョンの姿を見るときは、一人より多くの人達と共有したい。だから今回の探索もまた、ここで終了にするべきだと考えた。
そうなれば後は帰るだけである。フウガは別世界のような十七階の景色を眺めていたところ、まだ馬車が飛んでいることに気づいた。
「あ、タクシー」
直ぐに常人離れした跳躍をし、またもや馬車の中に飛び乗った。
「ごめん。やっぱり帰る。上り階段のところまでお願い」
「!?!?!?」
◇
フウガにとって、ダンジョンは行きよりも帰りのほうがぐっと時間が短く感じる。
一度魔物の数を減らしておくと、しばらくは危険度も大きく下がることがほとんどだ。魔物がほぼいなくなった帰り道は、なんとなく遠足の帰り道のような気分になる。
「はあ。やっぱり外の空気はいいな」
ダンジョンから出て一階に辿り着くと、新鮮な空気とともに安心感に包まれる。これがダンジョンに潜った後の密かな幸福であり、彼はこの瞬間もまた好きだった。
だが、どうも地上の様子がおかしい。違和感に引きずられつつ外に出てみると、猛烈な人集りができていた。
人の群れはほとんどが野次馬のようだったが、中には本格的なカメラをぶら下げた記者のような男女もいて、紅蓮メンバーに必死のインタビューを試みている。
「だから、俺達も分からねえんだよ。命からがら上層まで上がってきたと思ったら、ゾンビ犬とかハイグールとか、そういう悪趣味な奴らが他の連中を襲っていたんだ」
褐色の肌をした大男が、血に塗れた盾を苦い顔で見つめながら説明している。
「今日はマジヤバい日だったんだけど。帰り道に異常出現とか、もう最悪」
魔法攻撃を任せられていた女が嫌気たっぷりに吠えた。相当辛かったのだろうという前に、異常出現というワードがフウガの脳裏に電撃的なショックを与える。
(俺の知らないところで異常出現があったのか。最近多いけど、なんでだろう)
探索者にとって突然のトラブルは最も避けたいことの一つだ。ふと現れた不安要素に悩んでいると、「あ、あいつ」とインタビューに答えていたロックがこちらを見て呟いた。
フウガはこの時全く予期していなかった。インタビューをしていた記者や野次馬達が、自分の姿を見つけた途端、あの紅蓮達を置いてでも駆け寄ってくることに。
「ん? ん……んぉおおおお!?」
まるで闘牛のように駆けてくる人、人、人。好奇心に目をぎらつかせた人々にあっという間に囲まれ、少年は驚きで固まってしまう。
「あなた! あのフウガさんですよね?」
「新記録の十八階に到達したの見ました! サイン下さい!」
「あの後どこまで潜ったんですか!?」
「きゃー! フウガくーん! 本物」
「初めまして僕は今Bランクのチームでリーダーをしている佐藤、」
「ダン活新聞の加藤といいます! よろしければ是非お話を!」
生まれて初めてマイクを向けられ、サインを突き出され、よく分からない自己紹介もされながら、彼はただ愕然とした。
半分もみくちゃにされているような感じで、もう収拾がつかない。コミュ障を拗らせてきた彼にとって、不特定多数の人々に話しかけられるのはまるでホラー体験だった。
(こ、これはヤバい。なんでロックさん達じゃなくて俺に!?)
混乱と困惑の極みに達したフウガは、もう廃人同然の固まりっぷりだったが、左手を強く引いてくる何かに気づいた。
「こっちや。こっち」
聞き覚えのある声がして、彼は言われるがままに引っ張られた方向に動く。
そのまま駆け出すと、人混みもまた同時に彼を探そうとしたが、公園の茂みからするすると逃げる彼らには追いつけなかった。
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