第9話 三人で渋谷ごはん
(渋谷駅のワンちゃんの前……っていったらここしかない、はず)
まさか自分が女子と待ち合わせをすることになるとは。
他者との交流が苦手になってしまった少年にとっては、まるで事件が起きてしまった感覚だった。
見た目こそ堂々としているように映るが、彼は内心では気が気ではなかった。一体何が始まってしまうのか、と極めて近い未来に不安を抱いていると、長い横断歩道の人並みから非常に目立つ二人組を見つけた。
向こうもこちらに気がついたらしく、青色まじりの黒髪をした少女が微笑を浮かべ、隣を歩く金髪少女が手をブンブン振った。
「こんにちは! すみません、突然待ち合わせなんてお願いして」
「あ、いや。そんな。はじめまして……じゃないか」
最初に話しかけてきたのはヒナタだった。フウガは歯切れの悪い返事をするだけで精一杯だ。ダンジョンでは気づかなかったが、彼女を改めて目にしたことで、予想を超える衝撃を受けている。
まるでアイドルの写真集から飛び出したかのような明るさと可憐さに包まれ、彼はテレビドラマの世界に入ってしまったかのような錯覚すら覚えた。
続いてリィが少し低い背を伸ばすようにして、ニコニコしながらフウガに話しかけた。
「ごめーん! ウチが強引すぎたよね。でも、こうでもせんとお話できんかなって思ったんよ。何しろ命の恩人やし、たっぷりお礼せなあかんし」
「いや。別にそんな」
「本当に、ありがとうございました。私達、フウガさんに助けてもらえなかったら……きっと」
「ありがとう! ホンマ助かったわ!」
「どういたしまして」
ここまで感謝の気持ちを伝えられた経験がないフウガは、内心戸惑いつつも返事をしたが、なぜかリィのほうは笑った。
「なんか緊張してない? っていうか、実際会うとオーラ凄いやん」
「あ、わかる! なんか普段から強そうな感じ」
「まあ立ち話もなんやし、いこか!」
三人はとりあえず渋谷の街中を歩き始めた。
美少女二人と一緒に歩いているだけで、彼のスタミナは徐々に減少していく。行き交う人々の視線が、自分達に何度も向けられているのだが、ヒナタとリィはあまり気づいていない。
五分ほど歩いて辿り着いたカフェは、とあるタワーの最上階にあった。コーヒーや紅茶、スイーツ関連が特に人気で、窓からは渋谷全体が見渡せるのではと思えるほど、広々とした眺めを堪能できるようだ。
窓際の四角いテーブル席で二人と対面するように座ったフウガは、この後どうすれば良いのか分からず緊張していた。だが、元々無表情なところがあり、外見上はじっとしているだけに見える。
簡単な食事のオーダーをした後、二人は好奇心のこもった瞳を少年に向けた。
「フウガさんって、ダンジョン歴長いですよね! 私達、まだ全然なので。良かったら色々お話してみたいです」
「ウチらよりずっと下に潜っとるよね?」
しかし、配信者としては彼女達のほうが上である。苦笑しそうになる彼だったが、今までの経歴について語るのにさほど時間は要しなかった。二年間ひたすら潜っていただけなのだ。
最初の一年は死にそうになってばかりだったが、そこから先はあまり苦労はしていない。理由としては、自分の力というよりも、とある店で手に入れた魔剣によるものが大きいことまで語った時、二人は驚いて少しの間固まった。
「ま、魔剣ですか!? そういえばカッコいいの使ってましたよね。あの……ひょっとして今包んでるそれでしょうか?」
「あ、うん。これだけど」
「ちょっとだけ見せてもらってもいい? ウチ、メチャメチャ興味湧いてきたわ」
店内で武器を大っぴらに見せるわけにはいかないので、フウガは巻かれた布を解くと、テーブルの下から渡すようにした。向かい合っているヒナタの手がそれを掴もうとしたが、間違えてフウガの指を握ってしまう。
「う!」
「あ、ご、ごめんなさい! 私ってばいつもドジしちゃうんです」
「ん? 二人ともどしたん?」
きょとんとしているリィをよそに、二人は慌てていた。とにかく剣を渡すことに成功すると、目立たないところからヒナタとリィが好奇心いっぱいの瞳でメタルカラー一色の剣を観察し始めた。
「綺麗……! 魔剣って怖そうなイメージでしたけど、とっても美しいんですね」
「そうやなー。あれ? でもウチらを助けた時は、黒とか赤じゃなかった?」
「あ、魔剣は状況に応じて色を変えられるんだ。黒は闇属性で、切りつけた時のダメージが一番大きくなるようになってる」
「え!? フォームチェンジするん!? カッコええやん!」
「ふぉーむ?」
「ロボットモノとかであるやん!」
「ロボット……?」
不思議そうに首を傾げたヒナタは、頭の中で何かを想像して考えを巡らせている。漫画の吹き出しでも頭上に浮かんできそうだ。リィは目を輝かせていたが、剣を調べているうちに真顔になる。
「あれ? でも待って。これ、普通の模造剣やない?」
「え? 普通なの。ロボットじゃないの?」
「ロボットちゃうわ! これどこで買ったん?」
フウガは予想外の疑問に戸惑いつつも、都内にある武器屋で貰ったことを伝えた。一部始終を伝えると、今度はヒナタが好奇心の野獣になる。
「凄い! 魔剣を引き抜いたから貰ったんですね。そんな出会いあるのですね。私も剣を引き抜くとかしてみたいです」
「待った待った! なんかそのお店、ちょっと変やない? なんでこの剣だけ普通に売られてなかったん?」
「なんか、引き抜けない人間には使えないから、とかなんとか言われたんだ」
「素敵……! 聖剣を引き抜くような感じですね」
「素敵か!? 変やなー。これとほぼ同じような武器、普通に売っとるで」
「え」
リィの一言に、フウガは驚いて固まった。ヒナタはまだ夢の世界にいるようで、目を輝かせて剣に視線を送っている。
「ま、まあとりあえずええか。食事来たし、ご飯にしよ!」
フウガは剣を返してもらうと、心の中に疑問が浮かんできた。そういえば配信中も、同じようなコメントをチラッと見かけた気がする。
これはあの店長に聞いてみたほうがいいかもしれない。深まる謎に頭を悩ませつつハンバーガーを食べていると、今度はひたすら女子会的な雑談が始まった。ヒナタとリィは会話しつつも、フウガに時折話題を振ってくるので、彼は魔剣のことが頭から吹っ飛んでいた。
(や、やばい。どう反応して良いのか分からん話ばかりだ)
しかし、どう返答してもヒナタとリィは悪い反応をせず、逆に喜んでくれるので、不思議と居心地は悪くならなかった。あっという間に一時間が過ぎた頃、ヒナタが急にもじもじし始める。
「ん? どうしたん? トイレ?」
「ううん! あのこと、相談しようと思ったの」
「あ、そうやったな!」
相談? いつの間にか会話に夢中になっていたフウガは、とりあえず黙って聞いてみることにした。
「あの、良かったらなんですけど、コラボ配信とか興味……ありませんか?」
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