第63話 Sランク冒険者
息を切らせて廊下を走る。
額を流れる汗は、動いてるせいだけじゃない。実際、早鐘を打つ心臓とは相反して、私の体は冷え切っている気がした。見えている目的地に、早く着かなければならない。でも辿り着きたくない。
汗のせいでメガネの位置がずれた。
視界が歪む。立ち止まり、中指で戻しつつ、溜め息を吐く。
なんで副ギルド長の私が、あんな化け物どもの相手をしなきゃならないんだ……。
オタム王国の王都にある、冒険者ギルド「東方大森林」統括支部。
その3階。
秘匿情報の管理室があり、ランクアップの査定会議などが行われる、職員の中でもそれなりの地位に居るものしか入れない区域。
この階に招かれる、職員以外の者は限られている。
ギルドの出資者である国家の代表。その家族。国家規模の資金を持つ大商人。
そして……。
「さっきからドアの前で何してんのよ、えーっと……タルキスくぅん? さっさと入ればいいじゃん!」
特別応接室、という札が下げられた部屋の前で呼吸を整えていると、ドアの向こうから野太い声で呼びかけられた。
びくりと体が震える。
部屋の前に来たのは足音なんかで分かるだろう。
でも何で私の名前までわかるんだ。
今からが初対面なんだぞ。
「あっはっは。動揺しなさんな~。読みやすくなるだけだから」
くそ……っ。
そうか。これがユニークスキル『他心伝心』か。
慌てて、事前に渡されていたジャミング・ポーションを飲む。酷い味だ。そして頭がクラクラする。小指の先ほどの小さな瓶に入った少量を飲んだだけで、体内の魔力がめちゃくちゃに掻き乱されているのが分かった。
緊張と寝不足に加えてこれか。
最悪の気分だ。
だが、これでもう、私の思考は読めないはずだ。代わりに魔法やスキルも使えなくなってしまうが、どうせ使えた所で向こうがその気になったら抵抗なんて出来ない。
ドア越しに「あらら、嫌われちった?」と笑う声がする。
良かった。きちんと効いているようだ。
「おいオッサン。余計なことすんなよ? オレはアンタと違って忙しいんだ」
「ひでぇよ~ハルトくぅん。おいちゃんまだ42よ?」
「充分オッサンだろーが!」
「ええ~っ! まだ若いよねぇ? どう思うユーシェン」
「知らんが。なんで儂に聞く」
「ジジイだから若いって言ってくれるかなって」
「儂とお主は同世代だぞ……」
「顔と喋り方がおいちゃんより老けてるし~」
「お主は喧嘩を売らんと死んでしまうのか?」
「つーか、オッサン! いつの間にかオレを無視してんじゃねーよ! 忙しいから余計なことすんなっつってんだ、分かったのか!?」
「え~? だってハルトくぅんの用事ってどうせエロいことでしょ? 別にいいじゃん毎日してるんだからさぁ~」
「あっテメェ、また勝手に人の頭ン中読みやがったな! 止めろっつってんだろ!」
「赤くなっちゃって、可愛いねぇ~」
「さっきから蚊帳の外なんだけど…………エスティーノはどうして僕にだけ話かけないんだと思う? ユーシェンさん」
「お前まで儂に聞くのか、アノン。知らんぞ。本人に聞け」
「僕だけ転生者じゃないからかなぁ。でもそれってハラスメントですよ。そう思いませんか?」
「だから知らんと言っている」
深呼吸をする。
緊張感を保たなくてはならない。
あんな連中だが、この世界でも最強と呼べる人間たちなのだ。……アポ無しで副ギルド長の私を訊ねても許される人物。ありとあらゆる自由を与えられ、大国の王でさえ滅多に敵には回せない。
それだけの実績を持つ。
それだけの回数、世界を救ってきた伝説の英雄たち。
Sランク冒険者。
『龍血のアノン』。
『落星のユーシェン』。
『瞬閃のハルト』。
『
私ごとき、気まぐれで殺しても不問にされるだろう。「怒らせるようなことをしたタルキスが愚かなのだ」と判断されるはずだ。
呑気な会話を聞いたとて、気を抜いてはいけない。
「……失礼します」
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申し訳ありません!
本日は色々と忙しすぎて執筆が進まず、短い上に中途半端ですが、残りは明日になります…!
次できっちり終わらせます!
次回 エピローグ②
明日 6時ごろ更新予定
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