第09話 放課後の体育館裏2
夜になると、
「
「いや、
憧れの存在に近づきたい。けれど、そのためには、大切な人から貰ったものを捨てなければならない。それを理解しているからこそ、
「いますぐにって話じゃないでしょ? むしろ、急に手放すと力を暴走させかねないから、危ないって言ってたと思うけど?」
「で、でも! あんな言い方しなくたって……」
「私には、かなり真摯に向き合ってもらってるように思えたよ? 手放すのが嫌なら、作り直すとも言ってたし」
「そういうところが、腹立つんじゃん! なんで、アイツに作り直されなきゃいけないわけ? それに、私がいつまでもヌイグルミを手放せないお子さまだって言いたいみたいじゃん!」
「いやいや、そんなことは……」
それは、流石に被害者妄想すぎる。と、
いまの
「ごめん……。やっぱおかしいよね私。分かっちゃいるんだ。
ボロボロになったお守りは、綺麗になって返ってきた。〈
「自分でも分かんないの。なんで、こんなにイラついてるのか」
「……」
「やっぱり、
「? なる……ほど?」
根本的に
「決めた! 私、確かめる!」
「な、何を?」
「どうして、
そして、ついに
深い溜息を吐く
*****
「――って、昨日の私の馬鹿ーっ!」
「黙れ。いいから集中しろ」
翌日、放課後の体育館裏で
まるで、水晶で占いをする時のようなポーズで、自らの〈
とにかく、精神力と体力の消耗が激しい。
「おい。〈
「な、なんでですかっ! 別に、ちゃんとした形にするんなら――」
「あと十分。我慢しろ」
「お、鬼っ! 悪魔っ!」
こんなトレーニングは、まず通常はやらない。こんなことを、普通の〈
だから、毛玉としての形を保てている時点で異常だった。
「……すごいな。お前」
思わず
封印をほんの少しだけ緩めたから、毛玉に足が生えるのは分かっていた。それでも、今日は足を形成させることができたら御の字。それくらいの気持ちで、特訓を始めた。だが、「こうですか?」と一発でやられてしまったものだから驚いた。
当然褒めたが、そこで問題が発生した。発現させた足の形を、いまいち思い出せないというのである。やはり、〈
だから、いまやっているのは、一週間後にやる予定だった内容を先取りしている状態。だから、
そうこうしていると、
「もう……無理……」
「よくやったな。ちゃんと、発現させている間のことは覚えてるか?」
「こんなつらい目にあったのに……、忘れるわけないでしょーがぁ……!」
その言葉に、
「まさかとは……思いますけど……これを……毎日? いつまでさせるつもりですか?」
「いや、上出来だ。この調子なら……」
一週間。と言いかけて
たが、それ以上に、目に涙を浮かべては表情を歪ませている
同時に、焦りもあった。封印は、ほとんど解けかけている。本来なら、時間をかけておこなうトレーニングでも、駆け足でやる理由は、お守りが壊れてしまうタイムリミットがいつか分からないからだ。もしかしたら、明日にでも力が暴発して、
それも全ては、過去の自分が蒔いた種だ。そんなふうに、
いつも自分が苦しめてばかりだ。
「
顔を伏せて座り、肩で息をしている
と、
「……ハァ……ハァ……そういうの、いいです」
「?」
「いままでの恨みは、全部、強くなった時に、晴らさせてもらいますからっ! 言ったでしょ、倒すって!」
「――!」
お守りを捨てる覚悟が、決まってるわけでもない。〈
気付けば、
「な、何笑ってるんですかっ! い、いまに見ててください! 絶対に
「
「です! ……ん? ……ふぇ?」
「
「……」
「今日のトレーニングでは、もう言うことないよ。おつかれさま」
「お……おつかれさま……です」
立ち上がって、校舎の方へ向かっていく
ふと、
「いいよ。好きなの選んで」
「?」
「頑張ったからさ。ささやかながら、どうぞ」
「そ、そんな。いいです!」
断る
ゴトンと落ちる缶。
拾い上げて、手渡す
「す、すいません……」
「?」
他方で、
それが、
今度は、ややひったくるように缶を受け取り、勢いのままに栓を開けて、喉に流し込んで――
「大丈夫か? 急にどうした?」
「な、なんでも……ケホッ、ケホッ……ないです!」
「疲れてんだから、ゆっくりな。……まぁ、疲れるようなことさせたのは俺なんだけど。今日は、しっかり休めよ」
それから、ポンと頭に置かれる手。「好きな人に、ちゃんと近づけてるよ」と言い残すと、
*****
夜になると、
「
「なに?」
「『好きな人に、ちゃんと近づけてるよ』だってさ!」
「? 褒められたんじゃないの?」
「全っ然、分かってない! 別に
今度こそ
しかし、
「ねぇ、
「ん?」
「好きって、なんなのかなぁ?」
「………………はぁ?」
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