第16話 花に風
全部、壊してしまおう。
全部、焼き尽くしてしまおう。
全部、黒く染め上げてしまおう。
「
*****
一条の紅蓮が空を刺す。
「なッ!」
声にならない声を上げる
直近にいて稼働できるのは。
「……行くか」
おもむろに立ち上がる
「そうやってまた仮面をかぶるんですか?」
背後から投げかけられる
「仮面だと思う?」
「……」
「悪いね。アイツとの時間が長いのは、俺の方なんだ。打倒宣言されたのも。――
フッと微笑む
この世界に
こんなくだらないところで潰させない!
始まったばかりなのに、終わらせてたまるか!
まだ春学期が半分終わっただけだ。
帰れと言われてもへこたれず、毛玉と呼ばれてもめげず、朝は一番早く来て、夜は一番遅くまで残っている。そんな子が、こんなところで終わっていいはずがない。一生懸命な奴が、絶望するような世界であっていいはずがない。一人で戦わせていいはずがない。これから先、楽しいことがたくさんあるのに、ハラハラドキドキだけでエンドロールなんてあんまりだ。
明るい未来を掴まえよう。
きっとこの夜の向こう側にある。
「失礼しました。――ご武運を」
「うん。行ってくるよ」
*****
「は、ハァ? 先輩、マジで何考えて……って、ギャアアアアアアァァァァァァァァァァァッ! 火が飛び移ってるううぅぅぅぅぅッ!」
塀を飛び越えていった二人を追いかけようとした時、
「ヤバい、ヤバい、ヤバい!」
「逃げよう、
「――っ!
一方で、
その中心にいるのは、紫煙をくゆらせている男――スカーレットだ。
「なんで? くそっ、なんでこんな時に!」
「悪く思うな。
それじゃあ、お昼の続きだ、と。
スカーレットは、周遊していた火鼠を捕まえると、炎の刃へと変形させる。この場所は、
逃げようと家から飛び出して来た
「なッ!」
「さて、どちらを先に
「テメェッ!」
突っ込む
「ガッ……!」
「寝てろ。女が先だ」
スカーレットの声が遠くで響くような感覚がして、意識が遠のいていく。わずかに動かせる腕を、
やめて、はなして、と抵抗する声が聞こえる。
「何が目的なんですかっ?」
「悪いな。このガキ以外は、殺すよう指示されてる」
「――ッ!」
「やれ」
直後、何かが切り裂かれる音がし、続いてドサリと崩れ落ちる音がした。それが、
「ごめん……
そして、
*****
一体何が起きた?
スカーレットは目の前で起きた光景に、呆気にとられた。
崩れ落ちたのは、味方の一人。倒したのは、ベーカリーでずっと膝を抱えていたはずの少女だ。怯えて震えていただけの少女が、まるで別人になったかのような雰囲気を放っている。気だるげに肩に手を添えては、凝りをほぐす動作をする
「どさくさで、どこ触ってんの? 殺されたいの?」
「お前――」
黒ローブの一人が突っ込む。が、瞬時に弾き飛ばされた。さながら、見えない何かが
いいや。
黒ローブたちの目を引き付けたのは、
「まさかとは思うけど――」
発せられる透き通る声。
それでいて芯のある声。
「
なぜ、
「〈
一瞬だった。
黒ローブたちが、瞬きのうちに切り裂かれて、地に伏せる。何をされたのかは全く理解できていない。辛うじて攻撃を回避したのはスカーレットただ一人。だが、その彼でさえも、死神の大鎌が振るわれた気がする程度の認識だった。
スカーレットは恐怖した。目の前に居るのは一般人ではない――そんなことは分かっている! 問題は、ただの〈
底なしの深淵を覗いている気分だ。
昼間に本物の
千年前の神秘。
悠久の時を越えて、牙を剥く。
「〈
「〈幻影模写――
もう見飽きたよ、それ。
声がしたかと思えば、すでに
膝をつくスカーレット。
勝敗は決した。
背後で
「お店を返せ、
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