割と真面目に分析する異世界転移モノが流行っているワケ

霞ヶ浦巡

異世界転生/転移が流行っている理由は、親ガチャに破れたから!

割と真面目に分析する異世界転移モノが流行っているワケ


 創作の流行には、世相が強く影響する。

 満たしきれない現実世界の願望を創作物を読むことで昇華しようとする精神作用があるからだ。


・異世界

 ここではない場所

・転生

 自分ではない誰か


 異世界転生の流行は、ここではない場所で、ここではない誰かに成りたいという願望の裏返しなのだ。


 社畜からの転生なんてのは、これを最も明確に描いていることになる。

 現世では”俺ツエー”も”ハーレム”も”億万長者”も望むべくもない。だから、創作世界で生まれ変わることを疑似体験する物語が流行る。


 これはつまり、現実世界が、逆転困難な閉塞感に包まれていることを意味する。


 昭和の時代、スポーツを中心とした根性モノが流行ったのは、その時代は、頑張ればのし上がれる可能性があったからだ。


 もちろん、今も可能性はゼロではない。

 だが、「親ガチャ」という言葉が存在するということは、生まれた環境が不利であれば、そこから逆転することが困難な社会であるが故だ。


 アメリカンドリームが困難な社会であるが故、そこから脱出する夢を見たい。

 それが異世界転生物だということになる。


 一方、他の理由もある。


 趣味の多様化と言われ、サブジャンル的には、様々な創作物が求められる。みんながウルトラマンを見る時代ではないのだ。

 ”俺ツエー”、”ハーレム”、”億万長者”はたまた”まったり”


 様々なものが求められるということは、様々なものが書かれなければならない。

 ところが、異世界を描く、単に描写するだけなら容易だが、想像を絶する世界を読者に理解させることは大変だ。

 なーろっぱとも呼ばれるテンプレ世界観が多用されるのも、なーろっぱを描いておけば、読者がお約束として「あ、なーろっぱだな」と理解してくれるからだ。


 情景や姿形の描写は、これだけでも何とかなる。

 だが、多少歴史を学べば理解できることだが、なーろっぱ異世界であっても、現代とは常識がかけ離れている。身分制など、その最たるものだろう。


 主人公が、なーろっぱ世界人なら、奴隷を奴隷として扱い、病気になったら血を抜けば治ると思っていなければならない。(あくまで一例です)

 ところが、そんな人物を描けば、読者は主人公に感情移入ができない。


 主人公を転生者にすれば、現代の常識に則って考え、現代の常識に則って行動する人物になる。

 異世界であっても、主人公に対する感情移入がスムーズなのだ。


 これは書く側の事情だが、読む側でも同じだ。


 物語は、静かな図書館で読まれるものから、電車での通勤途上に、つり革に掴まりながらスマホで読むものになった。(あくまで一例です)


 読む側にとっても、トールキンのような重すぎる異世界は、読むことが大変なのだ。


 書く側にとっても、読む側にとっても、現代常識で気軽に読むことができ、それでありながら、この閉塞感に閉ざされた世界から飛び出すことのできる物語が求められている。

 その結果として、異世界転生/転移が流行っているのだ。(暴論)

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割と真面目に分析する異世界転移モノが流行っているワケ 霞ヶ浦巡 @meguru-kasumigaura

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