第18話

 もちろん左の薬指には指輪なんてついていない。

 あのお馬鹿は形ばかりの結婚だからという理由だけで、指輪すら用意しなかったのだから仕方がない。本当の屑人間というのをわたしはあの瞬間に見た気がする。


 思い出すだけでもムカムカとする旦那さまを嫌悪しながら、わたしはお出迎え殴り込みのために玄関へと歩みを進める。侍女の中でも最も機転が良いアクアマリンさんを指示の担当に置いたことが功を奏したようで、屋敷の準備は全て終わっていた。


 埃1つない廊下を低いヒールの靴で歩きながら、わたしは屋敷の変わり果てた姿に清々しい思いを抱いた。


 このお屋敷、わたしがきた当初本当に酷い有様だったのだ。


 貴族令嬢の憧れである麗しの旦那さまのご趣味はなんと厨二病。

 わたし、このお屋敷に足を踏み入れた時あまりの惨状に目を白黒させて卒倒してしまいかけたもの。ゴシックロリータが可愛く見えてしまうぐらいの白黒統一の髑髏祭り。


 えぇえぇ、そういうのは個人の趣味であるとわたし、ちゃんと理解しているわ。

 けれどねぇ、たまにしか帰ってこない主人のために自分の趣味からかけ離れたお屋敷に住み続けられるほど、胆力も我慢力もないの。


 だから、自分に割り当てられたお金をフルに利用して、旦那さまのお部屋以外お屋敷の内装全てをリフォームしてやったわ。


 壁紙を優しい蔦柄凹凸のクリーム色にして、調度品は全て花梨の木でできた艶やかな焦茶色のものに変更。飾る絵も髑髏や血みどろの戦場ではなく、風景画や写実的な可愛らしい絵に、置物は兜や毛皮、無骨な甲冑や武器ではなく、宝石の原石や焼きの美しい磁器、季節の花々にした。

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