第15話

 宝石商で働いていた時に突如隣国の皇女さまがお忍びで訪ねてきたことがあった。

 その際、従業員たちは皆焦りすぎて逆に幾つもの問題行動を起こしてしまった。裏方ばかりが問題を起こしたために、表向きの従業員たちが丁寧な対応をすることでどうにか乗り越えたが、その時ばかりは流石のわたしも悲鳴をあげたくなった。

 だからこそ、わたしは今この場でわたしがすべきことをちゃんと知っている。


(こういう時、その場にいる最も地位の高い人間が堂々としていることこそが、すべての人間の安心に繋がる)


 だから、わたしは堂々と微笑んでいなければならない。

 今起こっていることは些事であると示さなければならない。


(そう。耐えるのよ。旦那さまの非常識な行動に驚くことも、旦那さまの非常識な行動にイライラすることも、旦那さまが憎いことも、旦那さまを殺したいことも、全部全部………、あれ?耐えられないわ。そうねぇ?………出会ってすぐに1発ぶち込んどこうかしら。あらあら楽しみねぇ)


 恐ろしいほどににこにこと微笑んだわたしは、自分から出ている黒い空気に周囲が怯えていることに気付かず、すたすたとお部屋に歩みを進めた。

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