第16話

 室内用のドレスで1番良いものに着替えさせてもらうわたしの頭の中を支配するのは、旦那さまにどうやって1発を喰らわせるか。


 回し蹴り?

 いいえ、ドレスで回し蹴りなんてしたらはしたないわ。


 鳩尾を殴る?

 う〜ん、うまく入るかしら。


 関節を捻って外す?

 ………これはもっと難しそうね。


 首を絞める?

 腕、………届くかしら。

 女性としては高身長なわたしでも、あの無駄に背高のっぽな彼の首には腕が届かないかもしれない。


 あのお綺麗な黒髪の毛を引っ張る?

 いいえ、短いから厳しいわね。というか、これも多分届かないわ。


 物を投げつける?

 それもダメ、今お部屋に飾ってあるのはほとんどわたしの趣味の宝石。投げるなんて論外だわ。


 刃物で脅す?

 無理ね。旦那さまのお隣にいるのは王太子殿下。下手をしなくても反逆罪だわ。

 ほんっと面倒臭いものを持って帰ってきたわね。


 王太子殿下を連れて帰ってくるなら最後まで責任を持ってほしいわ。

 他人に頼るなんて論外。


「はぁー、子供でも拾ってきた犬・猫・鳥の責任を持つのに、うちの旦那さまはなんでこんなにも無責任なのかしら」


 あまりにも酷い出来事にわたしが溢すと、マーサさんが一瞬目を見開いたあと、ペリドットの瞳をぱちぱちと瞼で隠した。


「うふふっ、そうですわねぇ。おぼっちゃまの無責任、ちゃんと締め上げませんとねぇ」


 毒気を抜かれたのであろうマーサさんは、そう言って雷雲を背負っておほほっと微笑んだ。

 うん、控えめに言って怖い。

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