第14話

 マーサが男の召使いに指示を出してアメジストを運んでいる傍ら、旦那さまの従者さんが、メイドたちに何やら忙しなく指示を出しはじめているのを見かけ、わたしは首を傾げた。


「サファイアさん、本日、何か予定はありましたか?」

「いいえ、今日も何もないはずなのですが………、」


 姉妹の中で最も情報通なサファイアさんが首を傾げている状況に、ひくひくと口の端を引き攣らせながら、わたしは久々に帰ってきた旦那さまの従者さんの元に向かう。


「何かあったのですか?」

「………だ、だだだだっ、」

「だ?」


 見るからに泣きそうな顔をしている従者さんは、泣きつくようにわたしに向かって呪文のようなことを叫び始める。

 うん。わたしに叫んでも何にも対処できないよ。


「旦那さまがいきなりご帰宅なさるんですっ!!しかも!王太子殿下をお連れになってっ!!」

「………———はい?」


 うん?

 今なんつった?


「だからっ!!旦那さまが王太子殿下をお連れになってご帰宅なさるんですぅ!!」

「死ね。あの顔面偏差値高得点糞野郎」

「お、奥さま?」

「あら失礼、お口が滑ってしまったみたいです」


 にっこり笑ったわたしは殺意を引っ込めながら、即刻指示を出し始める。


「マーサさん、ルビーさん、エメラルドさんはわたしの支度を、サファイアさんは情報収集、アクアマリンさんは侍従さんのお手伝いをお願いします。これは時間との勝負です。ですが、2度手間が1番の敵です。なので、できるだけ丁寧に物事を進めるよう、メイドたちに言い聞かせてください。では、動きましょう」

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