第13話
「あの、このように豪奢なお飾りでしたら、玄関に飾った方が………、」
「いいえ。わたしが言ったところに飾ってください。………アメジストは太陽光に弱いです。ですから、南向きの玄関に設置することには不向きなのです」
「なるほど、知りませんでしたわ。奥さまと一緒にお屋敷を探検していると、お勉強になりますわねぇ」
「いえいえ、わたしもマーサさんから多くのことを学ばせていただいておりますから」
「はて、このおばば、何か奥さまにお教えしたことがあったでしょうか」
分かりやすくとぼけるマーサさんに、わたしは苦笑した。
「それはもうたくさん、あなたから学ばせていただいています」
わたしは彼女から多くの普通を学ばせてもらっている。
わたしの生家、アイリーン男爵家は研究家の家庭。
普通なんてものはあったものではない。皆自分の研究のために、己を、周囲を、自分が届く全てを削って、研究を成し遂げる。
それこそがアイリーン男爵家の人間としての最高の誉であるし、わたしも幼い頃からそうなることを望んでいた。けれど、それはあくまでもアイリーン男爵家での誉れであり、世間一般の誉れではない。
だからこそ、わたしは普通を学ばなくてはならない。
たとえそれがわたしを愛さないと女神さまの前で宣言した男のためであったとしても、わたしは貴族の娘で政略結婚をした身。夫に全てを差し出すのは当たり前のこと。
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