第4話

 宝石店の奥深く、店の奥で泣き伏せていたわたしの元に、借金が生まれて1週間後のある夜に、“彼”はわたしの元にやってきた。


 漆黒に黄金の植物の刺繍が美しいタキシードを身につけて、クラバットに品の良いデマントイドガーネットの飾りのついたクラバットピンをしっかり留めて、長い足に漆黒のスラックスを身につけた男は、わたしの腕を強く引っ張って、椅子に座らせた。


「………これは契約だ」


 そう言った癖っ毛な黒髪が美しい男は、わたしにエメラルドよりも深い緑で、ツァボライトよりも深い輝きを放つデマントイドガーネットの切れ長の瞳をわたしに向けて、神さまが直々に作り上げたかのように美しい顔を苦渋に歪めながら、わたしに1枚の契約書を叩きつけた。


 そこにはわたしが望むものが書かれていた。

 望んでやまなくて、絶対に手に入らないと思っていたものが書かれていた。


「………ほん、とうに、………っくださるのですか?」


 みっともなく涙を流すわたしに、男は面倒臭そうに舌打ちをした。

 この空間にいることすらも嫌悪しているであろう男は、わたしにも嫌悪しているのだろう。


 好きなことを嫌悪されることは傷つくし、自分自身を嫌悪されることはもっと傷つく。


 でも、この悪魔に自分を捧げる以外に、借金を片付ける方法なんて思いつかなかった。

 普通の男を引っ掛けたのでは、我が家のの借金は何年かかっても返せない。

 それに、後ろ指を指され続けたわたしをお嫁さんにしたいなんて言う物好きは、多分この世にはいない。


 わたしにはこの道しか残っていなかった。

 たとえ結婚の先に待ち受けている未来に不幸以外がないのだとしても、大好きな家族が幸せになれるのならば、それで良いと思った。


 だから、わたしはこの悪魔エドワード・アーデルハさまに自らを差し出した———。

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