第3話

 お父さまはとても優しい人だ。

 友人に騙されて借金の連帯責任になっちゃって、その借金を押し付けられちゃうくらいには、本当に愚かなくらいに優しい人。

 そんなお父さまが、お父さまをどこまでも愛し慈しむお母さまが、毎日『ねーたま』って呼びながらわたしの後ろをちょこちょこ歩いてくる歳の離れた弟が、本当に大好きだ。


 この場でわたしが取るべき手段はちゃんと分かっている。


 ———わたしが良いところにお嫁さんに行って、旦那さまの実家に借金を払ってもらうこと。


 ちゃんと分かってる。

 分かっているの。


 でも、分かっていることと納得できることは違うの。


 わたしは、宝石商として働いている。

 貴族の令嬢が働くなんてみっともないってたくさんの人に後ろ指を指される。


 でも、わたしは誰よりもこの仕事に誇りを持っている。

 辞めたくない。

 続けたい。


 分かってる。

 この仕事が、宝石が、わたしの結婚を邪魔していることぐらい。


 だから、わたしは結婚しないと言い続けた。

 独身貴族を謳歌してやるんだって宣言し続けた。


 それで行き着いた先がこれだなんて、本当に笑えてくる。

 情けなくて、苦しくて、しんどくて涙が溢れてくる。


「っもう、どうにもならないのねっ、」


 『宝石』というキラキラしたわたしの夢は、わたしには分不相応だった。


 わたしは『宝石』をこれでもかと言うほどに愛していた。

 けれど、『宝石』はわたしを愛してくれなかった。


 それが事実だ。


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