39.ガールズトークは健康に良い

少女が四人も揃うと目が保養されてしまう。

もうね、この光景だけで白米掻っ込めますわ。

ほほ、眼福眼福。余は満足じゃ。


「──なんと、もう屋台を始めてしまったのか? 昨日話したばかり……いや、もう一昨日か。それで開店してしまうとは」

「ジーナが屋台をあっという間に作っちゃって。屋台用のコンロも壊れてたのを安く買って、バレッタちゃんに直してもらったりしてね。そしたらもうあっという間だったよ」

「だいはんじょうでしたよ。ひっきりなしにおきゃくさまがやってきてました!」


姦しいとは正にこのことだろう。

麗しい少女たちの声は五臓六腑に染み渡り、疲れ切ったおっさんの心を癒してくれるんだ……。


「フヒヒッ……! これさえあれば……フヒュッ……!」


まぁ……一名例外が混ざってるんだが。

ほらバレッタちゃん、あーたも女の子らしく女子同士の会話に花を咲かせるなどしんしゃい。


「フヒッ!?」


魔晶石に抱きついてうっとりとしていたバレッタを持ち上げ、膝の上に乗せてやった。

流石にここまですれば我に返ったようで、わたわたと俺の膝から降りようとしている。


「な、何を勝手に身体に触ってるのよっ……!」


まぁまぁバレッタちゃんよ。膝から降りる前にガールズトークを楽しんでいくのも一興だぞ。

せっかく同じような年頃の女子が四人も揃ってるんだから仲良くしようNE。


「四人……? あ、貴族剣士サマじゃない……。いつの間にいたの……?」

「……ついさっきだ。それと……何度も言うが私は貴族でも何でもない。レーヴェと呼んでくれと何度言わせるつもりだ」

「そうだったかしら……」

「何度も言っている! 大体君は──」


レーヴェとバレッタが些細な言い争いを始めてしまった。ままよくある光景である。

マイペースな子と委員長気質な子のカップリングは鉄板だ。出会えば衝突は必然なのであった。


「大体バレッタ、君はもうこの宿に泊まらないと言っていなかったか?」

「こ、こいつらに拉致されたのよ……! 私は断ったのに……!」

「また見境なく魔導具を買ってお金無くなっちゃったから、仕方なくここに泊まらなきゃいけなかったんだよね。バレッタちゃんは」

「うっ……」


エウリィが追撃を始めてしまった。この子は少しいじめっ子気質というか、からかうのが好きな小悪魔であった。

からかい上手のエウリィちゃんである。


「バレッタ……君はまた無軌道に散財したのか? 前もそれで失敗していただろうに……。己の懐事情も考えられずに魔術士など務まるのか?」

「う、うぅるさいわねぇ……! 金銭には使うべきタイミングってもんがあるのよ……!」


お嬢様の指摘通り、バレッタの金遣いは荒い。

初めて会った時など立ちんぼみたいになってたのをよく覚えている。

ギルドの片隅で『魔導具修理します』の看板を引っ提げてぽつんと立ち尽くしてる姿は、あまりに見てられなさすぎたのだ。

丁度宿を譲渡されたのと同時期だったので、泊まるよう促したのが始まりだった。

……そう思えば、バレッタは何気にこの宿の一番最初のお客様だったか。


「大体、あんたこそ稼いでるくせに、こんなスラムの宿屋にいつまでも泊まってるんじゃないわよ……!」

「私はスラムここでなければダメな理由があるだけだ」

「どうせこの男が好きなだけでしょ……!?」

「なっ──!? ち、違うっ!!」


んもー、すぐ顔真っ赤にしちゃう〜。

お嬢様レスバが弱いんだからおやめなさいな。


「違わないでしょ。レーヴェちゃんはお兄ちゃんのこと大好きだもん」

「エウリィまで何を言ってるっ!?」


いかん、エウリィが両方向に追撃を始めてしまった。

無敵かこの子は。


「だってスラムには他にも宿屋はあるのに、レーヴェちゃんはわざわざここを選んでるんだから」

「ちがーうっ!! 私は亭主に恩があるからっ! 仕方なくここを選んでるだけだっ!」

「半年もお金を落とし続けたんなら、もうその恩も返し終えたんじゃない?」

「そっ、それくらいでは返しきれてないんだっ……!」


必死にお嬢様は弁明を続けていた。

やっこさんもう逮捕してやった方がいっそのこといいんじゃねえかな……。

まぁそれはそれとして、別に返してほしくて世話を焼いてる訳ではないんだがな。

強いて言うなら愛がほしいんだぜ。愛。


「その……亭主には……色々と良くしてもらっていて……。未だ、これっぽっちも返しきれてすらいないんだ……」


ぽしょぽしょと消え入るような声で呟くレーヴェ。

これはこれは、思った以上に好いてもらえているらしいな。

よし、娶るか。ゆりかごから墓場まで幸せにしてやろう。


「傍から見ててこれほど分かりやすいのもないわ……。趣味が悪いったらありゃしない……」


そして魔女っ娘は言いたい放題である。

何ともひでえ言いぐさだ。


バレッタちゃん、そんなに俺って男として魅力ない?


「ないわよ……。でも、さっきタダで魔晶石を貰った分の好意はあるわ」


何とも現金な子である。

貢いだら何でも許しそうで、おじさん的にはちょっと不安であった。


「ぐるるるる……」


そして嫉妬深いドラゴンベビーちゃんは後ろから俺に巻き付いて、耳元で威嚇音を発していた。

バレッタを膝に乗せた辺りで既にこの状態であった。

うん、暴力も暴言もないけどね。態度の方も、もうちょっとだけ頑張ってみないか?



昼食を食べ終えたバレッタはさっさと自分の部屋へと戻ってしまった。作業の続きをするのだろう。

もうちょっとガールズトークに興じてくれてもよかろうに。


「亭主、今日も屋台は開くのか?」


エウリィに弄られ続けていたレーヴェが尋ねてきた。

顔が未だに赤い。そろそろ許してやったらどうや。


さて、屋台を開くかどうかか。

開けれるっちゃ開けれるんだが、少し問題があるんだよな。


「問題?」


ああ、ホルモン焼きの食材を切らしててな。売れるものが酒しか無い。


「ああ、そういう……」


うむ。あれだけあった殺人猪のモツは昨日だけで完売なのである。

身の方は大量に残ってるが、これは俺たちが食べる用だ。

売るメニューをポンポン変更するってのもあんまりしたくないしな。

今から迷宮に潜って調達するにしても中途半端な時間だし……既に雑魚モンスターは狩られ尽くされてる可能性の方が高いだろう。

それに、迷宮主サイズの殺人猪が毎回出現するわけでもない。毎日あれだけの量を用意はできないのだ。


……そう考えて思ったが……モノを売るというのに、仕入れ手段が安定しないってのも大分問題があるな……。


「べつのところからしいれるってはなしもしてましたよね? あれはどうするんですか?」


ああそうか、そんな話もしてたか。

モツはこの世界じゃ捨てられる食材で、交渉次第じゃ捨て値で手に入れられる可能性があるかもしれないのだ。

が、しかし……仕入れ先のツテがないんだよな。


「伝手か……。私も調べておこう」


ああ、ありがとう助かるよ。


お嬢様が一声掛ければ、きっとあっという間に集まるだろうな。

ギルドでのあの人気具合なら間違いない。


「普通にそこらのお店で下さいって言うんじゃダメなの?」

「なーちゃんもそれおもいました」


ヘイガールズたち。それはコミュニケーション強者の思考だぞ?

世の中はな、君たちみたいに明け透けで上手くいくことばかりじゃないんだ。


「お兄ちゃんは評判悪いから上手くいかないだけじゃない?」

「だんなさまはこうしょうごとにふむきだとおもいますよ」


やだもうなにこの子たちめっちゃメンタル刺してくるんだけど。

通り魔かな?


「……何にせよ、今日屋台を開くのなら私も手伝わせてくれ」


おっと、お嬢様はやる気満々のようだ。

病み上がりだしあんまり無理はさせたくないんだが……かといって何もさせてあげないのもBADコミュ確定だろう。

数多のギャルゲーをやり尽くした俺には分かる。


幸い今日は開くとしても酒の販売のみだ。

そんなに忙しくはならないだろうし、少し手伝ってもらおうかな。

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