38.あしながおじさん
さて、色々話してたらもうお昼でござった。
朝食の出番は奪われてしまったし、今度こそ某が料理の腕を見せてやるでござるよ。
いざ見せてしんぜよう。これこそが某の真の実力!
はいドンッ!
「オニギリってやつだね」
「だんなさま、あまりにもてをぬきすぎじゃないですか……?」
残り物を有効活用したと言ってほしいでござるよ。
まぁ冗談はさておいて、中身はがんばったおにぎりだぞ。
オーソドックスな梅おかか昆布、何時ぞやの残り物の詰め合わせ、味噌と醤油を塗った焼きおにぎり。
御御御付けもあるとくればこりゃもう上等な昼飯だろう。きっとそう。
え? 魚系はどうしたって?
内陸だからね、ここ。インベントリには幾らか残ってるが、貴重品故に平時にはそう簡単に出さないのさ。
また隣国に行った時に仕入れなきゃな。
「わたし焼いたオニギリ好きー!」
「まぁ、だんなさまのあいがこもったてりょうりならいただきますけどね」
フフ、ガキどもよ、存分に喰らって餓えた腹を満たすがいいぞ。
そこでいじけてるバレッタちゃんもはよきんしゃい。うめえでな。
「なんでこいつのスキルがあんな高精度なのよぉぉぉ……」
意外に早く戻ってきたバレッタちゃんは、ジーナのスキルが再現不可という現実に打ちのめされていたのであった。
仕方ない、そういうこともあるさ。なんせ相手はチート種族だしな。
おおよしよし泣くんじゃない、さあ僕の顔をお食べ。
「何よ顔って──んん、むぐっもぐっ…………おいひい」
有無を言わさずおにぎりを突っ込むと、魔女っ娘はむぐむぐとハムスターのように頬張った。
全体的に小動物なんだよな、この子。ついつい餌付けしたくなってしまう。
金欠で飢えてるからかいつも痩せ細ってるし、自分のようなおっさんからすると放っておけないのである。
「んぐ……もぐ…………魔晶珠の、性能が圧倒的に足りないのよ」
ゆっ……くりと時間を掛け、ようやく一つのおにぎりを飲み込んでから、バレッタがぼそりと呟いた。
「クラフトスキルによる
「その
「魔力は貯めればいいからともかく……手持ちの魔晶珠じゃ、あの子のスキルの再現には全く性能が足りなかったわ……」
「……あれだけ小さい物体の
なるほど……つまり性能の良い魔晶珠が足りないと。
魔晶珠はあっちの世界でいうモバイルバッテリー兼マイコンみたいなもんだし、性能がいいものはそりゃもうお高い。
昨日買ったコンロ用魔晶珠なんか目にならないくらい高額なものもある。
して、具体的にはどの程度のが必要でござるか?
「……そうね、最低でもランクⅤ──ここの分不相応な防衛障壁に使われてるランクのものが必要になるわ」
そうか、なら……このくらいのでどうだ?
インベントリから未加工の魔晶石の塊を引っ張り出してゴトリとテーブルに落とした。
アイテム名は『高純度魔晶石』。いつぞやにどこかの迷宮で採掘したものだ。
ランクは……なんだったかな。一々リンカーを起動して調べるのも面倒臭い。
「──? …………!? ……!?」
バレッタは迫真の三度見をした。これは……どっちのリアクションだ?
「こっ!? こっ、こっ、こっ、こっ……!?」
「にわとりのマネですか?」
「口挟まない方がいいよジーナ」
俺も思ったけどとりあえず全部言わせてあげよう。
「これをどこで手に入れたの!?」
バレッタちゃんが興奮気味に縋り付いてきた。
どこ……どこと言われてもどっかの迷宮だとしか……。もはや覚えていない。
もしかしてこれじゃ品質は足りないか?
「これで足りないわけないでしょ!? どこからどうみてもランクⅤ以上はあるわよっ! 国に直接納めなきゃいけないレベルのものなのよ……!?」
ってことは十分だな、うん。
「こ、こんなの相当な高ランクの迷宮に潜らなきゃ手に入らないわよ……!? やたら高価な魔導具の数々といい、一体何なのよここは……!」
ブツブツと何やら納得いかなそうなバレッタは無視するに限る。
先手を取って自分の要件を押し通すのが交渉の基本だぜ。
──こいつは全部バレッタにあげるから、スキル再現を頑張ってみてくれないか。
「あげる!? これっ、これ全部貰って……!???」
良いよ、貰ってくれ。
スキル再現に必要な分以外は売って金に換えてもいいし、好きに使ってくれていい。
「こっ、これ一つで……数十年は遊んで暮らせるお金が手に入るんだけど……!?」
まぁ金には困ってないからな。
その程度の魔晶石ならまた取りに行けばいいし。
「その程度って……。ほ、本当にいいのね……!? 返してっていっても返さないからね……!?」
いいよ。
その代わり今回のスキル再現しかり、また宿のことで色々と頼むかもしれないが……その時はよろしくな。
「任せなさい……! その程度の働きでこれを貰えるのなら、すぐにでも実現してみせるわ……!」
キスされるんじゃないかとばかりに詰め寄られた。
目が血走っていて怖いでござる。
「まーたお兄ちゃんが女の子に餌あげてるよー」
「だんなさま……おんなのこをくどくのがとてもおじょーずですね……」
女児二人には白い目で見られてしまっているぜ。
くっ……興奮するじゃねえか……!
「フヒヒ……! これさえあれば、スキル再現どころか……ありとあらゆることが……! フヒュッ、フヒュヒヒッ……!」
でもこれで口説いた扱いされるのはなんかヤだな……。
*
ふと、ギシギシと床が軋む音がした。
この音の位置からすると……階段の木板だろう。
あそこは特に劣化が酷い。そろそろ修理しないと床が抜けてしまうかもしれないな。
次いで食堂の扉を開く音がして……やはりお嬢様であった。今二階に居るのはお嬢様だけだしな。
今起きてきたのだろう、俺手ずから着替えさせてやった白いネグリジェ姿のままだ。
いつもの張り詰めた雰囲気と違って非常に可愛らしい。舐め回したくなってくるぜ。
「……亭主。何やら騒がしいが、また何かやらかしたのか?」
心外な。人がいつも騒ぎを起こしてるみたいな言い方はよしこさんだぞ。
それよりもお嬢様、もう怪我の具合はよろしいので?
「怪我は、亭主が使ってくれたポーションで全快している。疲労も寝て回復した」
つまり健康ってことだな。良かった良かった。
さぁお嬢様も座って座って。ちょうど皆で昼食中だったからね。
「あ、あぁ……む、バレッタか。もうここには泊らないと言っていなかったか?」
お嬢様が隣に座るバレッタに気付いて話しかけたが……残念ながらバレッタは俺があげた魔晶石に夢中だ。
返事は返ってこない。
「アタシの……アタシだけの高ランク魔晶石……フヒ、フヒヒッ……!」
「……バレッタは一体どうしたのだ?」
「お兄ちゃんが餌をあげちゃったの」
「だんなさまがまたあたらしいおんなをたらしこんだのです」
白い目が一つ追加された。
んほおっ、おじさんのことそんな目で見ちゃらめぇ!
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