26.しろうとしつもんできょうしゅくなのですが

エカーテさんに無事協力の約束を取り付けられたところで一安心だ。

後はモノを売るにあたっての、諸々の問題を考えていかなきゃだな……。


弁当を売るにしたって、容器やら屋台などが必要になってくる。

俺のクラフトスキルでは土や鉄系の素材しか弄れないから作れないし。

そこら辺の仕入れについては要相談だな。


「売るものにしても……コストと売れ筋を意識した方がいいですぜ」

「なるべく安く仕入れられて、ここの住人にウケがよさそうなものってことだよね?」

「それに、ここらじゃ見かけない料理がいいな。特別感は大事だ」


そうだな……弁当路線でいくと米が必須だが、米食の習慣は王国の住人にはあんまり根付いてないんだよな。

米の流通があるのでそれなりには食されているが、王国ではパンや燕麦が主食だ。

なんせリージョンのモデルが西洋だからな。

そんな事情もあり、米はパンよりもコストお高めなのである。


「お兄ちゃんが作る料理のレパートリー、多い上にどれも美味しいからなぁ……」

「前に作ってたハンバーガーという料理はどうだ?」

「あれも美味しいですし、ウケも良さそうですね」


うむ、それもいいな。ISEKAIハンバーガー屋さんに俺はなる!


「ってなると、必要なのはパンに野菜に肉か。スラムの住人に手が出せる値段で売り出せるかどうか微妙なトコだなぁ」

「それに、旦那も毎日迷宮に潜れるわけじゃァねえでしょう? 迷宮以外での商品の仕入れについても考えておいた方がいいですぜ」


……うーむ。

こう考えてみると、何を売り出すか中々難しいな。


「あの……すこししつもんなのですが」


ん? なんだジーナ?


「さっきてっぱんでやいていたホルモンをうるのはダメなんですか?」

「「「「「「……」」」」」」


俺も含めて、皆が一斉にシーンと静まってしまった。


「あれならざいりょうはひとつだけであまりコストもかかりませんし、なによりにおいがとってもこいので、ヒトをひきつけるとおもいますよ?」


……いや、言われてみればその通りであった。


「たし、かに……”ほるもん焼き”は調理する際にとても良い匂いを放つし、店頭で売るのに適していると私も思う」

「仕込みが少し面倒ですが、調理は簡単ですぜ。なんせタレを掛けて焼くだけだ」

「ですね。あれなら誰だって調理できると思います」

「あれなら絶対売れると思うよお兄ちゃん!」


おお……おおぉ……!

き、気付いてみればとても当たり前のことなのに、なぜ今まで気付かなかったんだ俺は……!

そうだよな、スラムのファストフードって言えばホルモン焼きだよな。

なんなら自分でもそう言ってた。俺は馬鹿なのかもしれん。


「旦那ァ、なんなら飯屋で廃棄してるモツを買い取ればいい。奴さんたち、未だモツを食うもんとして認識してねえし、安く買い取れると思いますぜ」

「おいおい、一気に商売の匂いがしてきたなぁ」


な、なんてこった……!

こんなにも身近に商売の種が転がっていたとは……!

おいジーナ天才かお前はっ!


「それほどでもありませんよ?」


これで勝つる! 優勝間違いなしだっ!

胴上げするぞ皆! ジーナは黒猫亭の勝利の女神だ!


「わああっ!?」




***




さて、これで短期的な集客と金策の目処がついた。

これを足掛かりとして宿を繁盛させていけるよう、その後の事も考えていかないとな。


「タナカの兄貴ぃ、酒場宿にするってことは、一階の食堂を広げるように改装したりするんですかい?」


将来的にはそうなるかもな。

今はまだそこまで考えちゃあいないが。


「おいらは一応元大工で、建築も齧ってるんでさぁ。もしも改装するんなら手伝いやすぜ」


なんと。M字ハゲのあらくれ1は、前職はまともな仕事に就いてたのか。

それが今はスラム生活かよ。すげえ転落人生だなオイ。


「土建屋は裏との関わりが盛んでね。荒事にばっかり関わってるうちに、自然とこんなところに居付くことになっちまったんだ」


あー……向こうの世界でも確かによく聞くな。

ヤクザのフロント企業とかね。


しかし、個人で改装というかリノベーションができるのなら、先にやっちまうってのも手だな……?


「やどをかいそうするなら、なーちゃんもちからになれますよ。ざいりょうさえあればちょちょいのちょいなのです!」


おっと、ジーナがとんでもないことを言い出したぞ。


「おいおい、嬢ちゃん。流石に大工仕事を舐めちゃいけねぇよ。図面も引けねぇだろうに、一体どうやって宿屋の改築をするつもりだい?」

「ずめん? ひけますよ?」


おいまさか……建築系のクラフトスキルを持ってるとか言うんじゃないだろうな……?

いくらなんでもそんなこと……。



「いまのやどのまどりがこんなかんじですかね」


白紙の紙とペンを持たせたところ、実にさらっと宿の図面を書き上げてしまった。

子供の落書きのような図面ではなく、定規で線を引いたかのようにきちっとした、寸分の狂いもない完璧なものだった。


「おいおい嬢ちゃん……マジかよ……!」

「かいそうごはさかばやどといってましたので、いっかいのスペースをつぶして……こんなかんじでしょうか」


おお……おおお……! す、すげぇ……!

酒場宿としてのレイアウトがスラスラと書き出された図面に、思わず感嘆の声を上げてしまった。


一階のスペースはほぼ酒場として生まれ変わり、カウンターと厨房スペースが拡大している。

受付は二階へと上がる階段下のスペースを有効活用しており、オーナー部屋と直結する形だ。

ほぼ理想のレイアウトに近いと言ってもいいんじゃないか、これ……?


「す、すごい……! ジーナ、何でそんな早くて綺麗な線が書けるのっ!?」

「まさか、そういうスキルでも持ち合わせてんのかい?」

「そーです。なーちゃんはだんなさまによろこんでもらえるように、いろんなスキルをとりそろえているのですよ」


ジーナがドヤ顔で胸を張った。

お前本当になんでもありだな……。


「料理の腕もスキルってことなの?」

「ですね。おりょうりはだんなさまにいちばんよろこんでもらえるので、なーちゃんのもっているスキルのなかでも、とってもこうレベルなスキルなのです」

「花嫁修業にしちゃ建築は重すぎやしねえか?」


いかん、一応記憶喪失って設定なんだから、何でもかんでもペラペラと喋らせない方がいいだろうな。

話を逸らさなくては……そうだ。


この図面だが、一階の客室が減ってるのが気になるな。

宿としての機能をあんまり重視しないにしろ、俺たち全員がそのまま住むって考えると、泊まれる部屋が少なすぎると思うんだ。


現在は一階で五部屋、二階で十部屋の間取りとなっている。

一階を丸ごと酒場にして、二階にいつものメンバー用の五部屋分が埋まることになると、新規客も五名しか泊まれないことになる。

仕方ないことだとは思うが、何とかならないものか。


「でしたら、かいをぞうちくしましょう」

「増築!? 随分簡単に言うなぁ……!」


建築の事なんざ全く素人だが、流石に階の増築は簡単に出来るもんじゃないことは分かる。

だが……この世界ではスキルが全てだ。

スキルのレベルが高ければ、なんだってできてしまう。


……よし、一旦本当にジーナが建築工事が可能という前提で話を進めよう。

客室の問題はこれで解決だ。

皆意見があるならどんどん出してくれ。


「一階を全部酒場にするなら、お風呂のスペースが気になりますね……」

「従業員用の部屋とか出入口があったら嬉しいかな?」

「酒樽とか置く場所も増築しようぜ。冷暗所とか」

「調理場は……もっと広くした方が便利ですぜ」

「──」

「──」


皆が思い思いに意見を出しては、ジーナがそれに応えていく。

これは……僕の考えた最強の宿屋が出来上がってしまうかもしれないな……!

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