25.食後のデザート

ホルモン焼きそば、とん平焼き、ネギ塩豚トロ、極厚タンステーキ、締めのガーリックピラフ。

鉄板で次々と作っていった料理は、瞬く間に皆の胃袋へと収まっていく。

これだけ喜んでもらえると、作る方としても嬉しい限りだ。


レディたちに提供するメニューとして肉ばっかりなのはどうなの? と思われるだろうが、この世界では皆お肉大好きなので問題はない。

というかお肉自体がまだお高い希少品なので、皆目を輝かせて食らいつくのだ。

普段から肉にありつけるようなのは、高給取りかお貴族様か、モンスターを狩って自給自足できる冒険者ぐらいなもんである。


……喜んでもらえるのはいいんだが、俺はそれを口にする暇もなくただひたすらに焼いて焼いて焼きまくっていた。

ふふっ、お腹が空いたんだぜ。


「いやぁ、今日も美味かったぜ旦那ァ! こんなうめえもんが毎日食べられるなんて、王都の一流宿屋だってこうはいかねぇさ!」

「だなぁ。タナカの兄貴のおかげでここの生活は天国だよ」

「今日の食事も……絶品でしたぜ」


男衆が満足げに語り合ってるぜ。無銭飲食の癖にな。


「うぅん、おなかいっぱいです……けぷっ」

「ちょっと、はしたないわよジーナ」


ジーナも満足げにげっぷなどしている。

女の子としてどうかとは思うが、可愛い寄りだったのでよしとする。


「私も少し食べ過ぎてしまったな……」

「レーヴェちゃんはタナカさんの作った料理だと、いつもよりたくさん食べますよね」

「べ、別にそういうわけではないぞ!?」


嬉しいことを言ってくれるじゃねーか。

お嬢様はすぐ俺を喜ばせてくるんだよなぁ。

全く困っちゃうぜっ。


「亭主もニヤニヤするんじゃないっ! これはその……亭主の作る料理は珍しいし、味付けも私の口に合うからであってだな」

「じゃあやっぱりだんなさまのりょうりがすきってことじゃないですか」

「レーヴェちゃんのその素直じゃないところがお兄ちゃんのツボなんだよねぇ。流石にこれはわたしも真似できないからなぁ」

「もう! 違うって言ってるだろっ!」


ぷんすかと顔真っ赤にして怒るお嬢様も可愛いが、あんまり弄ると後に響いてしまう。

ここはご機嫌を取っておくとしよう。


鉄板焼き用のとは別の鉄板を用意し、その下に剣で生成した氷の台を置いて接着する。

そしてインベントリから取り出したるは、色とりどりのフルーツと調味済のミルクだ。


「あっ、デザートですね!」


目ざとく俺の手元を見てジーナが声を上げた。

瞬間女性陣の目つきがギラリと光った。やはり女の子は甘いものに目がないようである。


ようし、作るか。

まずは冷えた鉄板の上に苺を数粒並べ、ヘラで潰す。

続いてミルクを投入し、鉄板から零れないようにひたすらまぜまぜする。

すると段々シャーベット状になってくるので、更に根気よくチャカチャカとかき回し続ける。

やがてクリーム状になってきたら、それを四角形になるように薄く引き延ばし、形を整える。

そうしたら、端の方からヘラでこそぎ落とすように掬い取っていくと……。


「わぁーっ! くるくる巻かれてるー!」


ロールアイスの完成だ。

さぁさぁお嬢さんたち、口直しにどうぞご賞味を。


「いただきまーす!……んーっ! 冷たくて甘くておいしいーっ!」

「なーちゃんこれだいすきですっ! つめたくてあまいのはさいこうなのですっ!!」


エウリィとジーナが頬に手を当て、とろけそうに幸せそうな表情を浮かべている。

お嬢様もお気に召したようで、感無量といった表情をされておられた。

クックック、胃袋を掴むのは何と気持ちの良い事か。


「はぁ……おいしいです。甘いものは貴重なのに、こんな贅沢しちゃったらバチが当たりそうですねぇ」


エカーテさんにバチなんて当たりませんよ。

俺の目が黒いうちはもっと美味しいものを食べさせてあげますからね。


「へっへっへ、旦那ァ……! あっしらの分はあるんでしょうねェ?」


男にやるデザートなど無い。




***




腹を満たして一息ついたところで、皆に話をすることにした。

最近のスラムの状況と、宿のこれからの経営についてである。


今のスラムの治安は、王都事変によってかなり悪化している。

王都のスラムから流入してきた裏の人間たちによる抗争がいずれ始まり、この宿にも被害が出るかもしれない。

これについてはブラックリスト三人衆による定期的な見回りを徹底させたり、俺もできる限りの備えをするつもりだ。

それに伴って、宿の外へ出る必要があるレーヴェとエカーテさんには対策が必要となる。


「私は大丈夫だ。自分の身ぐらい自分で守れる」


レーヴェに戦闘能力があると言っても、数の暴力を相手にするのは難しいだろう?

最初の一件を忘れたとは言わせないぞ。


「それはっ……!」


なので、しばらくスラムへの出入りの際は俺と一緒に行動してほしい。


「……わかった」

「ちょっとうれしそうなかおしてません?」


顔真っ赤になったレーヴェは置いておいて、次はエカーテさんだ。

エカーテさんには今日のように、しばらくは男衆が護衛に就くこととなるだろう。

が、それでも危険な状況のスラムを出歩かせたくはない。

なので、俺はこの宿でエカーテさんを雇いたいということを申し出ることにした。


「それは……私としても願ったり叶ったりな事なのですが……その、色々と大丈夫なんでしょうか?」


賃金の事なら心配ありませんよ。当面の活動資金ならあります。

なので問題は、如何にしてこの宿を繁盛させていくかですね。


「それが昨日言っていた、酒場宿として売っていく……ということですね?」


そういうことです。

料理をウリにして、夜はついでに泊まれる程度。

この宿はそれが丁度いい塩梅なんじゃないかと思うんですよ。


「あっしもそれが良いと思うぜ。旦那の料理はどれもここらじゃ滅多に食えないもんだからなァ」

「私も同意見だ。亭主の料理は珍しいだけじゃなく、とても美味しい。王都であっても店を出せるレベルだと私は思っている」


なんと……お嬢様からお褒めの言葉を頂いてしまった。

これは是非とも応えなければなるまいな。うむ。


ということで、酒場宿としてやっていくために、まずは宿への導線を確保することから始めようと思う。

このままじゃせっかく宿の食堂を開いても客が来ないのは分かり切ってるからな。

宿の宣伝がてら、店頭で弁当なんかを販売していくのが良いと思うんだが、どうだろうか。


「それでしたら、私も手伝えそうですね」

「わたしも手伝うよお兄ちゃん!」


もちろん、エカーテさん母子は店頭販売で看板娘としての起用を考えてます。

売れ行きも爆上げ間違いないでしょう。


「間違いねェですな。エカーテさんはあのパン屋の看板娘としても結構な人気ですからなァ」

「あそこの売り上げはほぼエカーテさんの人気で成り立ってるようなもんだよなぁ」

「引き抜くときには……多少のいざこざが発生すると思いますぜ」


何ぃ? 許さんぞ、エカーテさんは俺んところの従業員にするって決めてんだ。


「あちらのお店にも働かせていただいている恩はあるのですが……タナカさんには返せないほどの御恩がありますので、是非ここで働かせていただきたいですね」


エカーテさん……!

好きっ……!

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