21.パパ活おじさん(後)

結局その後、特に何かを詳しく聞かれることもなく解放された。

赤毛の受付嬢に前回の依頼達成手続きをして報酬を貰い、再度食材調達用の迷宮での素材回収依頼を受けた。


そして何事もなくジーナたちと合流し、選んだ服と下着類を購入して服飾店を出る。

こういう時チップを多めに出しておくと余計な詮索もされずに済むし、店からの印象も良くなるのだ。

平たくいうと賄賂でございます。


「だんなさま、どうですか?」

「お兄ちゃん、どうどう!? 可愛い!?」


ジーナとエウリィは服を購入後、早速店内で着替えてお披露目してくれた。

俺が勧めた衣装だ。二人とも可愛く着こなしてくれていて、やはりとても似合っている。


おうおう、二人とも立派なシティガールだよ。

パパ感動しちゃうっ。


「勝手に他人の子の父を名乗るな……。それより亭主、なぜ私の分の衣服まで購入したんだ。不要だと言ったはずだぞ」


お嬢様はいつも通りの冒険者装備のままであった。残念。


彼女の装備は、華美なドレスアーマーの上からフード付きの襤褸切れの外套を纏った格好だ。

なぜ襤褸切れの外套を纏っているのかというと、目立つ彼女の容姿をスラムに適合させるためのカモフラージュ用である。

まあ、スラムではなくても彼女は些か美少女が過ぎるので、容姿は隠した方が良いだろうという配慮だ。

ちなみにこの外套は、俺のお古をそのまま押し付けたものであった。


で。

お嬢様の衣服ですが、二人には買ってお嬢様の分がないのもおかしいでしょう?

要らなかったら捨てても構わないですよ。


「卑怯な言い方を……。私は子供ではないと言っているだろう。そのような気遣いは不要だ。……貴方の好意は、少し度を越しているように思うのだが」


何、将来への投資ですよ。

皆美人だし、これからもっと綺麗になる。

だから今のうちに恩を売っておこうと思ってね。


というのは方便で、本当は俺の趣味です。

パパ活最高!


「お兄ちゃん……♡ わたし、お兄ちゃんのために稼げる女になるからね!」

「なーちゃんはいわれずともだんなさまのためにがんばりますよ!」

「二人はなぜそうも覚悟を決めてしまっているんだ……!」


何でだろうね……。俺にもわからん。


「レーヴェもほんとうはうれしいんでしょう? さっきのふくほめられてよろこんでたじゃないですか」

「よっ、喜んでなどいない! 何を勘違いしているっ!?」

「やめなよジーナ。レーヴェちゃんはそういうスタンスなんだから、そっとしといてあげないと」

「そういうスタンスとは何だ!? 私は本当に――」


ほらほら、あまり公衆の面前で騒がない騒がない。


「~~~っ!!」


ポスンポスンと俺のお腹に声にならない感情をぶつけられた。へへっ。

照れ隠しに攻撃してくるとか、なんてツンデレ屋さんなんだ。

愛おしさが爆発しそうだぜ。


「……なーちゃんのときとたいどがちがいすぎません?」


オメーのはただの嫉妬による暴力だ。

もうちょっとレーヴェを見習って可愛げとか覚えなさい。


「レーヴェ! どうやったらだんなさまにそんなにかわいくおもってもらえるのか、おしえてください!」

「知るかっ!? 私は可愛く思ってもらおうとしてこんなことをしているわけではないっ!!」

「じゃあなんでそんなにだんなさまにすかれてるんですかっ! ずるいですっ! なーちゃんももっとだんなさまにすかれたいのに!」

「好かれてなどいないッ! 亭主もなんとか言え!」


はいはい、分かったから静かにね。




***




その後、優雅に昼食を取ることにした。

勿論、麗しい美少女たちに合うようなお高めの店だ。


最近のこっちの世界の料理はどんどんと進化を遂げており、大変美味になってきている。

系統はあっちの世界で言うとフレンチに近いだろうか。

チーズや生クリームをふんだんに使ったり、ソースが凝っていたりとよく似通っている。

最近ようやく乳製品を安定供給できるようになってきたからだろうな。


エウリィは美味しそうに舌鼓を打っていたが、レーヴェとジーナの反応はイマイチのようだった。

お嬢様は舌も肥えてるし、元々小食でそんなに食べないのは知っている。


だが、ジーナはそもそも食に興味が無いように見えた。

……思えば一昨日からそうだ。興味なさげに周りに合わせて食事を取っていた。

もしや、ジーナは人として食事をする必要がなかったりするのだろうか?

後で聞く必要があるな。



昼食後、再び宿へと戻ってきた。

ちなみに今度はスラムで絡まれることはなかった。

スラムから出る際に散々暴れたのが効いたようだ。


今度はジーナと共に紹介屋へと出向く。

レーヴェとエウリィは申し訳ないが宿へ居残りだ。

紹介屋がある場所はスラムの奥地だし、あんまり子供をぞろぞろ引き連れて訪れるような場所じゃない。


じゃあレーヴェ、申し訳ないけどエウリィを頼んだよ。

物騒だから気を付けてな。


「承知した。任せてくれ」


お嬢様の武技はそんじょそこらのチンピラよりも遥かに上だ。

スキルも使えるので、その辺の奴に負けることはまずないだろう。

それにいざとなったら宿の防衛機能もある。


二人を残し、ジーナと共に宿から出た。


「~~~♪」


ジーナがご機嫌だ。

俺の腕にべっとりと引っ付いて、鼻歌など歌っている。

エウリィにでも教わったのだろうか。


「いまのなーちゃんたち、ふうふにみえますかね?」


おっさんが娼婦を連れ歩いてるようにしか見えないだろうな。

などと言ったら噛まれそうなので、適当にああと頷いておいた。


「ふふん! やっぱりせいさいのざはなーちゃんできまりですね。エウリィもレーヴェもゆだんならないですが、なーちゃんにはかなわないのです」


そう言ってジーナは胸を張った。

見下ろしているので、ワンピースと素肌の隙間からチラリと見える、フリルの付いた水玉模様の下着が眩しい。


くっ……いいじゃねえか……!

下着を付けるだけでも随分と印象が変わるもんだ。

今までの惜しげもなく晒されてた裸体には綺麗という感想しか抱かなかったが、この光景は素直にエロいと言っておくぜっ。


「それで、いまからどこへいくのですか?」


ん、ああ。

お前が人間の街で生活するに当たって、必要な身分を用意しに行くんだよ。


「ひつようなみぶん? なんですかそれ。ヒトのまちでせいかつするのに、みぶんがひつようなんですか?」


この世界は割と発展しているからな。

身分を証明するものは、文明的な生活をするに当たって自然と必要になってくる。

国という枠組みの中で暮らす以上、個人の身分を証明するものは、管理する側にとっても必須なのだろう。


「ふぅん。めんどうくさいしくみですね。そもそもこをかんりするひつようなんてあるんですか?」


必要だからどこの世界でも同じことをやってんのさ。

詳しくは知らんがな。こういうのは人の上に立つ王様とか貴族とか、そういう立場の人間が考えるべきことだ。


「スラムでせいかつするばあいでも、みぶんはひつようなんですか?」


おっ、いいところを突くね。

勿論スラムで生活してる奴らは身分証なんざ持ってそうにないし、必要としない生活に順応している。

ずっとここに居続ける限り、必要性は薄いだろうな。


だけどな、ジーナにはスラムの外での活動もやってもらおうと思ってるんだよ。


「スラムのそと、ですか? それはいったいどんな?」


冒険者として迷宮に潜って食材を調達してもらったり、商人と取り引きして商品を仕入れてきてもらったりだな。

冒険者として登録するためには正式な身分が必須だし、商取引にも必須だ。


「おおーっ。やどのはんじょうのためにひつようというわけですね。なるほどです!」


うむ。

後は公的なサービスを受けるためにも必要だが……ジーナには当面必要なさそうだな。


それに、いずれはスラムでのガサ入れが始まるかもしれんからな。

スラムの生活に身分が必要ないとはいえ、それはあくまで見逃されてるだけだ。

本来なら身分がなけりゃ街から追い出されてもおかしくない。あくまでスラムの住人は不法滞在者なのである。


というわけで、今からその身分を偽装証明するための準備をするんだ。


「ぎそう? にせのみぶんということですか?」


そう、偽の身分を作る。

もしかしたら正当な手続きを経て身分を手に入れられるのかもしれんが、俺にはそこら辺がよく分からん。

恐らく難しい手続きだろうしな。


なんで、確実に用意できる偽の身分を作るという策を取る。

それが手っ取り早いし確実だ。なんなら俺もお嬢様も偽の身分で生活してるしな。

それを用意できるのが、今から行く紹介屋・・・という場所だ。


「しょうかいや? なにをしょうかいするのです?」


何でもだよ。表から裏まで、ありとあらゆる情報が集まってる。

いわゆる情報屋みたいな連中さ。



「無理だね」


「あんたも知ってるだろう? 王都事変の影響さ。あれを機に、様々な王国内の行政組織が解体されたんだ」


「戸籍関係の照合は厳しくなるみたいだし、内部で不正工作してたお偉いさんも摘発されたらしい。お陰で書類偽造関連は軒並み壊滅状態さ」



ガーンだな、出鼻を挫かれてしまったぞ……。

まさか断られるとは思ってなかった。

うーむ、これは困った。別の手段を考えるべきか。


「おうとのしゅうげきじへんってなんなのですか?」


あー、うん。

先月くらいだったか、この街のお隣にある王都へ敵国が攻めてきてな。

で、ちょっとした戦争が起こったんだよ。戦争自体には勝ったけど、王都は手痛い被害を受けた。

それで、復興やらなんやらで色々と混乱が起きているんだ。


「てき、ですか……。いまのヒトのよは、あれているのですか?」


積極的に荒らしてた国が一つあっただけだ。

だけど、既にその国は滅びた。なんでこれからは平和になる……はずだ。


少なくとも人の国同士ではそうなるだろう。

モンスターという存在の脅威に常に晒されているこの世界において、人同士でいがみ合う事ほど無駄な事はない。


「ふぅん。ヒトのせかいはたいへんですねぇ」


あっけらかんとジーナが言った。

まあね、お前視点では人の争いなんて些事にしか感じられないかもな。


「このまちはへいわなんですか? だんなさまをがいするものがあるのなら、なーちゃんがぶっとばしますけど」


まあ色々問題はあるけど、概ね平和だよ。

だからなんでもパワープレイで解決しようとするのはお止めなさい。


しかしどうすっかなぁ。

お前の身分が用意できないとなると、色々と面倒だな。


「よういできないならしかたありませんよ。なーちゃんはほかにできることをやります」


うーむ、そうだな。一旦この件は置いておこう。

他にやる事は沢山あるしな。

と、なれば……後の予定はいつもの食材調達だな。


「しょくざいちょうたつというと、めいきゅうへいくんですね? なーちゃんもおともします!」


おいおい、迷宮は許可貰った冒険者しか入れないぞ。

お前はお留守番だ。


「だいじょうぶです! なーちゃんにまかせてください!」


いやいや、何を任せたらいいんだよ。

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