20.パパ活おじさん(中)

女の子の服を買うと言っても、俺はそこら辺に詳しいわけではない。

ぱっと見でよさげな少女向けの衣服を取り扱っている服飾店を探していく。


「亭主、先に言っておくが、ここらのような高級店は客側の品格が求められることが多い。今の私たちの装いでは門前払いされる可能性が高いぞ」


だーいじょうぶ、大丈夫。

そういうのはすぐに黙らせられるから。


「……暴力で解決をするなよ? 絶対にだぞ?」


酷ぇ。お嬢様の中で俺はどれだけ非常識な人間なんだ。


「非常識な行動ばかり取っておいてよく言えるな……」


えへっ。



良さげな店を見つけた。

ファンシーなドレスから普段使いの服まで幅広く取り扱っており、小綺麗な内装も相まって非常に良い雰囲気だ。

ここにするか。


俺たちは店の中へと入っていった。


「いらっしゃ……」


笑顔で出迎えてくれた店員のお姉さんの顔が一瞬で曇った。

まぁね、どう見てもこんな高級店に来るような連中じゃないよね。

人は第一印象が大切だってよく言うけど当たり前だよね。それくらいしか一目で分かる要素がないんだもの。


「お、お客様、当店はご覧の通り、貴族の方々もお越しになるような高級店でございます。ですので、」


俺はインベントリを開いて金貨が大量に詰まった袋を取り出した。

それをポンと店員さんに渡す。

その中身を見て店員は目を向いた。


うちの子たちに可愛い服を着せてやりたいんだ。

見て回っても構わないね?


「は、はいっ! どうぞごゆっくり!」


途端に態度が一変した。

まさに現金なやつ、である。


目で見て格が足りないというのなら、一目で分かる金を積んでやればいい。

この店の商品全て購入してもまだお釣りが返って来るほどの金額であれば、文句を言われる筋合いもないだろう。


さあ皆、入店だっ。


「……亭主、どこにあんな大量の金貨を隠してた?」


へっへっへ、さてどこでしょう。



「わぁーっ!! これすっごく可愛いっ!」


エウリィに尻尾が付いてたら、千切れんばかりに振っているに違いない。

それくらいのはしゃぎようであった。

なんなら今もポニーテールがブンブン揺れている。


「だんなさまはどんなふくがすきですか?」


俺か?

うーん、着る人によって変わるなぁ。

例えばだが、エウリィは活発なイメージに似合う、暖色で動きやすそうな服が似合うだろう。

お、あのマネキンのキュロットパンツとブラウスの組み合わせとかドンピシャだな。


言った瞬間にエウリィが俺の言ったのと同じ服を取り、駆け出して試着室に入っていった。


逆にジーナは寒色でおとなしめの服だな。

こっちのワンピースなんかいいかもしれない。清楚系だ。


「わ、わかりました」


ジーナはなぜか少し恥ずかしそうにしながら服を受け取り、試着室に消えていった。


そしてお嬢様は絶対甘ロリが似合う。断言する。


「なぜ私まで頭数に入っている……。私は着ないぞ」


そんなこと言わずに。これなんかどうです?

ふりっふりのフリルがたくさんついたゴシックドレスとか。


「……言っておくが、私は冒険者だ。こんなものを着ていくような場所はない」


俺に着たところを見せてくれると喜ぶよ。

お嬢様の可愛い姿、見たいなぁ。


「…………」


頬を赤らめながら渋々と服を受け取って試着室へ入っていった。

へへっ、チョロいぜ。


その後大いに美少女ファッションショーを堪能し、目の保養を存分に楽しんだ。

そして本日のメインイベントのはずだった下着選びは、お嬢様に怒られたことでご破算になってしまった。

今日一番楽しみにしてたのに……。


結局少女同士で下着選びをする運びとなり、俺はお役御免となった。

というわけで下着を選んでいる間に俺は一旦店から離れ、先にギルドで先日の依頼の報告を行うことにした。

店員さんに金は渡してあるし、お嬢様も腕が立つから、少女三人だけ残しても問題ないだろう。




***




ギルドに入るとやけに閑散としていた。

いつもならもう少し人がいてもいい時間帯なのだが、今日に限ってはほとんどいない。

というか何か雰囲気が暗い。お通夜みたいな感じだ。


取り合えずいつも受付してくれている赤毛のチャンネーのところに行って、話を聞いてみる。


「……!? タ、タナカさん!?」


俺の姿を見た瞬間、受付嬢はガタッと音を立てて立ち上がった。

何事?


「生きてたんですか!?」


ん? ああ、はい。この通りピンピンしてるよ。

昨日一昨日はちょっとドタバタしててね。依頼の報告が遅れちゃったんよ。


「ちょ、ちょっと待っててください!!」


受付嬢がどこかへすっ飛んで行ってしまった。

え、なになに。

何があったんすか。



俺はなぜかギルドの応接室に通されていた。

そして目の前にはギルドマスターらしい老人が座っていた。


「なるほど……そのようなことが……」


なんかとんでもないことになっていたらしい。

一昨日、メリュジーナと遭遇した際に俺を置いていった冒険者二人組は、ギルドに戻ってすぐに状況を報告したそうだ。

前々より噂されていたアルゼット湖の未確認巨大モンスターとの遭遇報告及び、俺をおいて逃げてきたという失態を。


ただ、彼らは必死で逃げただけであり、荷台に居た俺の事までは気が回らず、わざと置いて逃げたわけじゃないという弁明はなされた。

その証拠に、彼らは俺の救出兼巨大モンスター討伐という大がかりな作戦へ自ら志願したらしい。

冒険者の姿が妙に少なかったのはそのせいだったようだ。

なんか悪いね本当。真相知ったらずっこけると思う。


だが真相を言うわけにもいかないので、俺はメリュジーナの事はぼかして適当に事情を説明した。

湖には野生の水竜が住み着いており、なんとかそいつから逃げきって帰ってきたというでっち上げを押し通すことにする。


「湖に水竜が居付いていたというのも驚きですが、単独でドラゴンから逃げ切るとは……。やはり貴方は只者ではないようだ」


ちょ、なんすかそれ。

俺は普通の冒険者で、ただの宿屋の主人っすよ。

逃げ切れたのは運が良かっただけですし。


「ははは、ご謙遜を。それはさておき、貴方が無事で本当に良かったです、タナカ殿。このリシアにいる在野の冒険者の中でも、貴方はトップの実力を持つのですから」


いやいや、さっきから過言が過ぎるでしょう。

他に有力な人材は山ほどいるはずですよ。

大体俺は近場の迷宮にしか入ってないんですし、何も特別なことはありませんて。


「敢えて見せないようにしていても、色々と分かることはあるのですよ。……安心してください。実力を盾に、こちらから何かを依頼するようなことは滅多にありませんよ。もしあったとしても、それ相応の報酬はお支払いいたします」


ギルドマスターの眼鏡の奥の瞳から、油断ならない眼差しが寄せられている。


──低レベルな解析スキルでは、俺の偽装した情報しか得られない。

……が、偽装している・・・・・・という情報は、読み取っているのかもしれない。


……うーむ。

あんまり目立つのも嫌だったので、なるべく細々と活動してきたつもりだったのだが、どうやら無駄だったようだ。

まあ、別にいいんだけどさ。

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