19.パパ活おじさん(前)
今日はやることがたくさんあるぞ。
ジーナの衣類の購入と、ギルドに依頼達成の報告。
後、紹介屋へ行ってジーナの身分証を用意してもらう。
そして昨日のパーティーでだいぶ備蓄食料を使ってしまったので、出来れば補充をしておきたい。
無論、迷宮に潜っての調達になる。
「ちょっときついですね、このふく……」
「わたしの服なんだから当たり前でしょ。文句言わないでよ」
「わかってますよう……」
ジーナが着ている服はエウリィのものだ。
流石に俺のぶかぶかTシャツと短パンではどうかと思ったので、体形がある程度似通っているエウリィの服を貸してもらったのだった。
ほら、ちゃんとお礼をいいなさい。
「……ありがとうです、エウリィ」
「……ふーん。ちょっとは素直になったじゃん」
昨日の俺の言いつけを守り、ジーナはエウリィにきちんと礼をして名前を呼び、頭を下げた。
それに満足したのか、エウリィも機嫌が良さそうに口元を緩め嬉しそうにしている。
うむ、二人とも本当の友人同士になれるといいな。
ジーナは言わずもがなだが、エウリィもここに来て日が浅く、まだ友達と言える存在がいないのだ。
宿の外は危険で外出できないため、ほぼ宿に軟禁状態であり、作る暇が無いと言った方が正しいか。
息抜きに俺が外に連れ出してるものの、その頻度は少ない。
良くないことだと思ってはいるが、どうしようもなく……今に至っていた。
なので、二人が仲良くなってくれれば、エウリィの気晴らしにもなってくれるだろうし、ジーナにも良い影響を与えてくれるに違いない。
一挙両得だ。百合は世界を救う。
「それでは行ってきますね。エウリィ、タナカさんの言う事はよく聞くのよ?」
「わたしがお兄ちゃんの言う事を聞かない訳無いでしょ。絶対服従なんだから」
「なーちゃんもぜったいふくじゅうします! だんなさまのいうことはなんでもきくのです!」
人聞きが悪いからやめようね君たち。
別に俺、奴隷商人とかじゃないから。
「じゃ、旦那ァ。エカーテさんは俺らが責任持って送り届けてくるんで。旦那は子供たちの面倒頼みまさぁ」
「ささ、エカーテさん。俺らが周囲を完全ガードしてますんで、大船に乗ったつもりでいてください!」
「俺たちは……何があってもあなたを守り通しますぜ」
うるせえぞ泥船どもが。
くそっ、俺が送ってあげたかったぜ……!
「うふふ。皆さん、よろしくお願いいたしますね?」
気を付けてーっ!
特に周りのそいつらに一番気を付けてくださーい!
「お兄ちゃん、わたしたちも行くんでしょ? ほら、さっさと行こっ」
「いきましょう!」
両腕に少女が抱き付いてきた。
くっ……これはこれでいいっ……!
「亭主……顔を引き締めろ。だらしない顔をするな」
お嬢様に引かれてしまった。今日はお嬢様も俺たちに同行してくれるらしい。
レーヴェは基本的に単独行動なのに、珍しいこともあるものだ。
「……少し、厄介な事になっていてな」
厄介な事?
「すぐに分かると思う」
フゥン?
まぁいいさ、今日は皆でデートと洒落込もうぜっ!
*
お嬢様の言う厄介事はすぐに判明した。
スラムの雰囲気が普段と全く異なっていたのだ。
いつも見るような奴らとは別種の人間が大勢居て、ピリついた空気が漂っている。
確かにスラムは無法地帯ではあるのだが、こんな明らかに逸脱した奴らはそんなに見かけない。
そういう奴らは、もっと深いところに根を張っているというか、こんな浅瀬に姿を現すことは殆どないはずだ。
……そういや昨日エカーテさんに絡んでたのも、ここらじゃ見ない奴らだったな。
「おい、オッサン。随分可愛い子を連れてるな」
「痛い目見たくなかったらその子ら置いてたわばっ」
近づいてきた見知らぬ男の顔面を鷲掴みにして地面に叩きつける。
そぉい! ピクリとも動かなくなった。
「テメッ!? 何舐めたことしてくれてんだゴラァ!!」
「ぶっ殺すぞオラアアッ!!!」
今度は五人組の男が襲い掛かってきた。
全員武器を持っている。めんどくさっ。
「私も出よう」
「なーちゃんもてつだいますか?」
おいおい、レディたちに戦わせるわけにはいかないだろう。
レーヴェは二人を守っててくれ。
「……了解した」
にしても、何でこんなよく分からんのが増えてるんだろうな。
あれか、王都の混乱の影響が今になってスラムに出てきてんのか?
どいつもこいつも小綺麗な服装だし、裏の人間って感じだ。
力量はそこら辺の冒険者にも負けそうなくらいだが、ぞろぞろと数が増えたらウザいな。
「がっ!?」
「げふっ、おぶろっ!?」
「ぐぎゃあっ!?」
おらおら、舐めた事抜かしてんのはこの口か? ん?
「す、すいませんしたっ! 許してください!」
謝るんなら最初から絡んで来てんじゃねーぞ。ゴミどもが。
俺はお前らみたいな調子乗ったガキが一番嫌いなんだよ。
二度と面見せんじゃねえ。
「おぎゃっ!?」
金玉を蹴り上げてぶっ飛ばした。
お掃除完了っ。皆無事か?
「ああ、何事もない」
「お兄ちゃんやっぱり強~い♡」
「さすがですね、なーちゃんのだんなさまは!」
くぅ~っ! 美少女たちの称賛の声が心地良いぜっ!
俺の力は百倍になるっ!
「昨日もこんな調子で見知らぬ奴らに声を掛けられ続けてな。あんまりにも数が多すぎて面倒になって、ギルドへと辿り着く前に引き返してきたんだ」
なるほどぉ。昨日帰りが早かったのはそういうわけね。
まぁ任せてくださいよ。
お嬢様の前に塞がる有象無象の輩は、私が跡形残さず片付けて見せましょう。
キリッ!
「……助かるが、油断はしないようにしてくれ。今のは雑魚だったが、腕の立ちそうな連中も見かけたのでな」
何、どんな敵が来ようが問題ありませんよ。
全員分からせてやればそれで終いです。
「お兄ちゃんかっこいいっ! 大好きっ!」
「なーちゃんも! なーちゃんもだいすきですよっ!」
両手に花はまだまだ続くらしい。
はっはっはっ、モテモテで困っちゃうぜ。
「…………」
お嬢様、俺の背中とか空いてますよ。どうです?
「何がだっ! 私は何も必要としていないッ!」
やれやれ、強情な方で困っちゃうぜ。
*
その後も何度か喧嘩を売られては捻り潰しを繰り返し、やっとこさスラムを抜け出した。
かなりの重労働であった。お嬢様が諦めたのも頷けるわ。
というかスラムのくせにメインストリート並みに人が流入してるのはなんなの?
「恐らくだが、王都の事変の影響だろうな」
やっぱそうよなぁ。それ以外考えられないもん。
ま、いいさ。
今日の目的は服を買うことだ。それも女の子の。心はウキウキである。
だって女の子の服を合法的に購入できるんだぜ?
リシアは商業都市であるからして、その手の店はかなり充実しているのだ。
俺たちは迷うことなく大通りのお高めな店が並んでるエリアへ足を踏み入れた。
「亭主、こっちは些か高価なものが並んでる区画だぞ?」
知ってるよ。
せっかく服を買うんだから、一流で品の良いものを揃えないと駄目でしょうが。
「そんな金、亭主は持っているのか? というか、何故服にそこまで気合を入れてるんだ」
そりゃあ気合も入るってもんよ。だって女の子の服を買うんだぜ!?
ここで金を使わなきゃいつ使うっていうんです!
「いや……他に使い道は沢山あると思うのだが」
あるだろうか? いや、ない。
まぁ身も蓋もないことを言うと、気にせず使える金は十分以上にある。
昔の資産がインベントリにがっぽりと残っているのだ。
今はただ宿屋の店主としてのロールプレイに興じているだけなのであった。
「いいなぁ、ジーナだけ……」
何言ってるんだエウリィ。君も勿論好きなのを選んでいい。
めちゃくちゃ可愛いのを着てくれよ。
「ほんと!? やったー! お兄ちゃん大好きっ!」
エウリィががばっと抱き付いてきたので、受け止めて頭を撫でてやった。
はっはっは、気分はパパ活おじさんである。
「なーちゃんもっ、なーちゃんもだいすきですよっ!」
負けじとジーナも飛びついてきた。
よーしパパ頑張っちゃうぞー!
「……はぁ」
ほら、お嬢様も抱きついて抱きついて!
パパ大好き~って飛び込んできて!
無視された。
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