18.攻略難易度が高い男

「なーちゃんはしんじてましたよ! おまえならきっとなーちゃんをえらんでくれるとおもってたのです」


ふふんと得意げにする全裸少女。

レーヴェとエウリィが居なくなった瞬間に脱ぎやがった。

そんなに嫌か、服着るの。


「えへへっ。おまえはなーちゃんのことがだいすきですね! ほんとうにしかたないのですっ」


がばっとドラゴンガールが全裸で抱き着いてきた。

そのまま少女とは思えないほどの惰力で締め上げられる。


「ふーっ、ふーっ……! なーちゃんのだんなさま……! なーちゃんのものっ! なーちゃんだけのっ!」


俺はインベントリから剣を取り出して、ケツをぺちんと叩き上げた。

おいコラ。発情してんじゃねえ。


「ぴぃっ!? け、けんはやめるのです! なーちゃんわるいことしたですか!?」


そのままツンツンと突っついて部屋の隅に追い立ててやった。

震え上がる全裸の少女。迫る成人男性。世間様には見せられない光景である。


悪いことをしたなぁ。俺が真っ二つに別れる羽目になってたぞ。

お前はもうちょっと自分の力を自覚しろ。

そして我儘ばかり言うのもやめろ。我慢というものを覚えろ。


「だ、だってぇ……おまえがほかのおんなをみるからぁ……!」


何度も言うが、俺はお前のものでもなんでもない。

お前を連れてきたのは、あくまで同情したからってことを忘れるな。

ある程度の我儘は聞いてやるが限度はある。

それをしっかり理解しろ。分かったか?


「うぅ……はい……わかったですぅ」


しゅんとする全裸のドラゴンガール。

俺も女の子にキツく当たりたくはないんだが……。


「うう……きらいにならないでください……」


……嫌われたくないのなら、どうしたら人に好かれるかを考えろ。

そうすれば自然と人の気持ちも分かるようになる。


「ヒトに……好かれる……」


取り合えずは、まず俺に好かれるように努力してみろ。

言っとくがさっきので好感度はマイナススタートだぞ。


「ううぅ……」


べそっと涙目になってしまった。

俺も心が痛いが、こいつがこれから先も人と一緒の生活を送るのなら、ここでちゃんと叱らねばなるまいよ。


ほら、寝るぞ。

しょんぼりとした様子の少女を抱きかかえてベッドに入る。


「いっしょにねてくれるですか……?」


だってベッド一つしかないし。

流石に放り出すほど嫌っちゃいない。


「……」


無言で擦り寄ってきて、控え目な様子でくっ付いてくる。


「なーちゃん、がんばるですよ……もっとだんなさまに、すきになってもらえるように」


おう、その調子だ。なんせお前は見た目だけなら百点満点だからな。

美少女で中身が良かったら俺はいくらでも靡くぜ。


「……おまえがなーちゃんのことしかかんがえられないほど、いっぱいだいすきにしてみせますからね?」


なるかな~?

俺結構攻略難易度高めだからな~?


「してみせますっ!」


ふっ、その意気やよし。

なれば俺を攻略して見せよ。攻略のヒントは出さんがな。


「とりあえずはむねをおおきくしようとおもってます。おまえのめせんが、ずっとあのこむすめのははおやのむねにいってるようなので」


なーにを馬鹿な事を仰るか。胸に貴賤はありません。等しく尊ぶべきものです。

よーく耳の穴をかっぽじってききんしゃい。

エカーテさんの巨乳は至高の宝だし、君のお椀型で形が美しいお胸も素晴らしい。

エウリィの将来性溢れる膨らみかけもまた捨てがたい。

そしてレーヴェの膨らみの皆無なちっぱいは最高なんだ。

みんな違ってみんな良い。それが真理だ。


「でもおまえのめせんは、いちばんおおきいほうにむかってますよね?」


それは仕方ないじゃん……。

男の人は大きいおっぱいを見たら目を奪われる生き物なのっ。


「じゃあやっぱりおおきいほうがとくじゃないですか」


違うんだよなぁ……。

目を奪われるからと言って性癖に結び付くかと言われたらそうじゃないんだ。

むしろ俺的には小さい方が愛らしいと言うか、究極的に性癖にマッチするのはレーヴェなんだよ。

レーヴェの胸はちっちゃくて可愛いだろ? あれは貧乳という属性がキャラにマッチしているからこその可愛さだ。

銀髪ハーフツインクソデカリボンツリ目ツンデレ小柄美少女という要素に最も合致するおっぱいは巨乳ではなく貧乳なんだ。

分かるか? マリアージュしてるんだよ、彼女のキャラと貧乳が。

つまりレーヴェのちっぱいは本人の魅力を心底引き立てるおっぱいなんだよ。

ということは、だ。

誰しもにベストなおっぱいサイズ感というものが必ず存在するといっても過言じゃないと思わないか?


「よ……よくわかりませんが、おまえはおっぱいがすきなのだということはわかりました」


バッカオメー、おっぱいが嫌いな男はいねぇべ?

大体だなぁ、おっぱいって言うのは、


「も、もうむねのはなしはいいですぅ! べつのはなしをしてくださいっ!」


何ぃ? せっかく熱が入って来たところなのに……。

つーかもう寝る時間なんだべ。寝んべ寝んべ。


「……ねるまえに、なーちゃんからひとつだけいいですか?」


あん? 一つだけだぞ?


「はい。……おまえがなーちゃんにあいしょうをつけてくれたのは、とってもうれしかったです」


あいしょう?

相性……愛称?


「はい。ジーナってなづけてくれました」


それは……愛称っていうか、単に略しただけなんだが。


「それをあいしょうっていうのでは?」


まぁ……確かに。

そういうもんだよな。愛称とか、あだ名なんて。


ちなみに、俺が宿泊客をよくあだ名で呼ぶのは、一応宿泊客の個人情報を出すのを控える為だったりする。

他人の前で咄嗟に本名を言わないように、という配慮からだ。


「これからはベイビーちゃんではなくて、ジーナってよんでください。そっちのほうがうれしいです」


……ふーん。

それは、どうして?


「どうして? なまえやあいしょうでよばれたほうがうれしいとおもうのは、あたりまえのことじゃないですか?」


だよな。当たり前のことだ。

お前も他人の名前や愛称をキチンと呼んでやれば、相手が喜ぶって分かるよな?


「……おまえのことをいってるんですか? ですが、おまえのなまえは……」


違う違う、俺以外だよ。

他の人の名前を、小娘や小娘の母とかそういう風に呼ぶんじゃなくて、ちゃんと名前で呼んでやれってことだ。

そうすりゃ相手にも好かれるし、俺からの心証も良くなる。


「ほんとうですか?」


ああ本当だ。大勢の人から慕われたり好かれたりする奴は、異性からの評価も高くなる。

そう思わないか?


「──……! おもいますっ! おまえはみんなにすかれてるので、なーちゃんはほこらしいです!」


あ、俺?

俺かぁ……やっぱ愛され系ってことカナ?

男衆はどうでもいいけど、レディたちにはやっぱりモテモテだよなぁ……。


「むーっ……なーちゃんもいっぱいあいしてあげますよう……!」


はいはい、話はこれで終わりだ。

明日も早いんだから、さっさと寝ろ。


「……おやすみのチューをしていいですか?」


一つだけっつったのによー。

それに、美少女のキスって言葉は安売りするもんじゃないと思うが……まぁ、別にいいか。


はい、チュウチュウ──と、昨日みたいに額にしようと思ったら、両手で顔を掴まれてしまった。


「なーちゃんからしてあげます」


……物凄いパワーで固定されたというわけじゃない。添えられた程度だ。

だから、振りほどこうと思えばできた。


だが、俺はそうしなかった。

できなかった。


こいつの顔が、何かを我慢しているような……苦しそうな、泣き出しそうな、そんな表情をしていたから。


「ん……」


唇同士が触れあった。

冷たくて、ひんやりとして、柔らかくて……少し震えていた。

触れた瞬間はほんの少し。

その感触を認識した時には、もう離れていた。


「……ごめんなさい。なーちゃん、いっぱいがまんするので、これだけはゆるしてください」


それだけ言って、ジーナは頭ごと布団に潜り込んでしまった。

俺は何か声を掛けようかと迷ったが、結局何も思い浮かばなかった。


……ドラゴンの本能ってやつだろうか。

こいつはこいつなりに、精一杯我慢しているってことか……?


そう思うと……なんだか、とても悪いことをしてしまった気分になる。

偉そうに説教をして、的外れな事を言って……いや、別に悪くはないよな。

だって俺さっき本当に死ぬとこだったし、束縛されるのも好きじゃないし。

だけど……拾ってきた責任を取って、ちゃんとこいつの事も考えてやらないとな。


思考を打ち切って目を閉じた。

温かいような、ひんやりしたような温度が、ジーナの身体から伝わってくる。

普段はこんなに寝付きが良い方じゃないのに、どうしてか、こいつと一緒だとすぐに眠くなってしまう……。

これもチートお嫁さんパワーの一種なのだろうか?


……どうでもいいか。

今はとりあえず、この心地良い微睡みに、身を任せよう……。

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