13.お嬢様は寂しがり屋さん

今回怒られるのは俺だけにしてもらおう。

ロリ二人には協力して夜のご飯を作るようお願いした。


そして俺とお嬢様は寝室に移動して二人きりになる。


「……全く、亭主には呆れて物も言えん」


お嬢様は俺のベッドに腰を掛け、細っこいおみ足を組んでいた。

さぞブーツの中は蒸れているだろうな。

どれ、お疲れでしょうから小生がおみ足をマッサージして差し上げましょう。


「…………」


おみ足を撫でたら無言で手を蹴り飛ばされた。

えへっ。


「変態め……! 今度という今度は愛想が尽きたぞ……!」


まぁまぁ待ちなよお嬢さん。

いつも言っていることだが、こんなスラムの中で常識人ぶってもしょうがないぜ。

ここは肩の力を抜いて、気楽にいこうじゃないか。


「私は真面目な話をしているのだっ!」


分かってるさ。

だけどな、君の正論ばかりが通じるほど世の中は甘くはない。

一々目の前の些事に囚われてしまうと、大切なことを見落としてしまうかもしれないぜ?


「……隣に座るな。……亭主はいつもそうだ。そうやって私を煙に巻いて、のらりくらりとかわす」


煙に巻いているつもりは無いさ。

君が心配なだけだよ俺は。


こんな小さな体で頑張っている君が、いつか潰れてしまうんじゃないかって、いつも心配なんだ。


「……私のことを何も知らない癖に、分かった風な口を利くな」


そうだな。俺が知る君は、全部偽りの君かもしれないな。

それでも、君は何かを成そうと日々頑張っている。

そんな健気な女の子だってことは知ってるよ。


「……そうやってまた、亭主は……!」


肩を自然に抱いた。ぽんぽんと軽く叩いてやる。

お嬢様の体がぴくりと震えた。


「……本当に、ずるい男……」


小さな体を預けてきた。

ふとその表情を見ると、頬は赤く染まっていた。


こうなると後はもう簡単です。そっと抱き上げて向かい合うように膝の上に乗せる。

そのまま優しく抱きしめてあげれば、ほーらご覧の通り。


「あ……っ」


寂しがり屋の女の子の出来上がりです。




お嬢様は孤独である。

いつもソロで冒険者をやってるし、事情があって誰にも深入りされたくないんだろう。

隠しているつもりだろうが、貴族のいいとこ育ちの匂いは全く隠しきれていない。

そんな彼女がスラムの宿屋を利用し続けなければいけない理由は、想像に難くない。




お嬢様。他の人が居る前だと恥ずかしいなら、隠れて夜にでも会おうか。

それか、たまには一緒にパーティでも組むか?


「……ばか。……そういう問題じゃない」


お嬢様は俺の胸に顔を埋めて、ぽつりと言った。


「……もう少しだけ、このままで居させて」


俺で良ければいつでもどうぞ。あんまり無理をしちゃダメだぞ?

子供は大人に甘えるもんだ。


「……そんなこと、言わないで。……我慢できなくなる」


俺の前だけでなら構わないだろ。ほらほら、曝け出してみ?

どれだけ抑圧されてきたのか、吐き出してみ?


「……だめ」


ようやく向こうから控え目にぎゅっと抱き着いてきた。

こうしてハグするだけでも、なんたらホルモンが出てストレスが減るらしい。

お嬢様の悩みが少しでも和らぐといい。


「……あんまり、他の子にいい顔しないで」


そんな言葉がとても小さな声で聞こえた。

結局のところ、彼女が怒っていた理由はこれである。

可愛いやつめ。可愛いやつめっ!

つい嬉しくなって、俺はお嬢様を強く強く抱きしめてしまった。


「あ、う……うぅ~~~っ……!」


ふにゃんふにゃんに蕩けてしまったお嬢様が俺の腕の中で身悶えていた。

宿泊客のメンタルケアも立派な仕事の内である。

特に溜め込みがちであろう彼女は、当初から俺の要注意監視人物であった。




──レーヴェという少女は初めて会った時から俺の目を引いた。

小柄な少女だった。しかし麗しいレディになるであろうことを予感させる容姿。

輝かしい銀髪、赤い瞳は意思の強さを如実に表すかのような鋭い光を宿している。

美少女にしか許されないハーフツインとクソデカリボン。特注で作られたと思われる白を基調としたドレスアーマー。

そして由緒正しき謂れがありそうな剣を身に纏い、凛とした佇まいで立つ姿は、まさしく少女騎士といった様相であった。


そんな子がスラムへ踏み込もうとしていたのである。

もうね、どこのエロゲーの主人公だよと突っ込んでしまった。

そして俺は咄嗟にスラムの危険性を忠告する人になった。


『へっへっへ、お嬢ちゃんこの先はスラムだ。乱暴されたくなかったら引き返すんだな』

『……忠告痛み入る。だが、私はここでなくては駄目なのだ」


生真面目であった。まさしくエロゲの女主人公タイプだった。

そしてスラムに入った瞬間、案の定騒ぎになった。

その麗しい姿を全く隠そうともせずにスラムへと立ち入ったことで、クリーチャーたちが大ハッスルしてしまったのだ。

奴らにすればはぐれメタルでも発見してしまったようなものだろう。俺でもそう思うもん。


襲い掛かるクリーチャーズに、少女は年に見合わぬ華麗な剣技で斬った張ったの大暴れをするも、流石に数の暴力には勝てなかった。

死屍累々と化した戦場に倒れ、迫る魔の手……。

限界と見た俺は途中で乱戦に参加した。この戦争を終わらせに来た。


そしてそのまま少女を宿に連れて帰り、手当をして……レーヴェと名乗った少女との付き合いも、何だかんだでもう半年ほどか。

身を潜めようと考えてスラムを訪れた彼女にとって、俺の宿は渡りに船であったことだろう。


宿の中でもトップで重い事情を抱えているのは、この子だ。

故に、俺は彼女に構うことを日々の日課としているのであった。



しばらく可愛いお嬢様を堪能していたが、唐突に俺の腕から離れていった。


「……ん」


もういいの?

もっと俺とラブラブハグハグしててもいいんだよ?


「……ラブラブなどしていない。どうせ亭主は、私にそんな感情を抱いてないのだろう」


何を言うか。ちゃあんとラブはあるぜ。

性欲が無いだけである。


「他の子に関しても、そうだ。貴方はいつでも大人の仮面を被っていて、本当にただ、私たちの様な子に優しくしているだけなんだって、分かっている」


……過剰に優しくするのは、勃たないことの代償行為だって昔誰かに言われたっけ。

別に、下心はあるんだがな。


「だけど、私は……その……本当に、貴方に感謝している。……厄介者と分かりきっている私を、こんなに真剣に気に掛けてくれる人は、他に居なかったから」


そりゃあ良かった。

俺はお節介焼きなもんでね。困っている人を見過ごすことはできないのさ。

女の子限定だけど。


「……だがな、亭主。あんまり気の多い行動ばかり取っていると、いつか後ろから刺されるぞ?」


バッドエンドルート確定ってか。

ふんっ、望むところだいっ、切り抜けてハーレムルート作り上げてやらぁ。

夢は大きくなけりゃつまらないだろって勇気も言ってるしな。


そうだ。お嬢様が俺を刺す時は、一思いにぐっさりと頼むよ。


「……馬鹿者めっ」


軽いパンチを貰った。へへっ!


「……もう知らん!」


お嬢様はぷいっとそっぽを向いてしまった。

よしよし、悪かったよ。

俺は刺しても死なないから安心してくれ。

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