11.おりょうりとくいなんです!
ベイビーちゃんには俺のシャツと短パンを着せてやった。
しかしノーブラノーパンであった。
下着がいるな……。今度服と一緒に買いに行くか。
よし厨房に移動だ。料理を始めよう。
さて、料理をするとは言ったものの、コイツの料理は全く当てにしていない。
後方保護者面で腕組みしてフラグ回収する様を見届けてやんよ。
一方、俺の作る料理は至って簡単。卵かけご飯である。
……そんなの料理じゃないって?
馬鹿言え、アレンジしてトッピングするだけでも十分な料理になる。
まずは今朝炊いてくれた米をボウルに投入。
天かす(のようなもの)、小ねぎ(のようなものに)、そして青のり(のようなもの)を振りかける。
そして味付けにめんつゆ(に似せて作った調味料)を加えて混ぜる。
そうすると、いわゆるたぬきごはんが出来上がる。
そしてここに生食用の貴重な卵を乗せれば、瞬く間に卵かけたぬきごはんの完成だ。
ちなみに~のようなものと称したのは、この世界では全て正式名称が異なるからだ。
なんて面倒なSETTEIをしてやがる。
あと時間の単位も距離の単位も何もかもが異なっている。クソが。
言語は統一されてるのに、どうしてそこを統一してくれなかったんだと文句の一つも言いたくなる。
余りにも面倒臭いので自動翻訳のコモンスキルを取得して使用しているくらいだ。
「おまえ……これはりょうりとはいわないのでは……?」
俺の作った一品を見て、怪訝な顔ではっきりと告げられた。
まあそういうなベイビーちゃん。
手軽で美味いものこそ尊ばれる世界もあるんだ。
「たしかにてがるなものはじかんがかからなくていいですが……おまえまさか、こんなのばかりでりょうりがつくれるとうそぶいてるんじゃないでしょうね?」
馬鹿言うない。ちゃあんと凝ったものだって作れるさ。
まぁ酒の肴みたいなのばっかだけどな。
さぁてベイビーちゃんは一体何を作るんだい?
冷蔵庫(のようなもの)にある食材なら自由に使っていいぞ。
「ふむ……そうですね。ごはんにすいものがあるなら、きっとしゅしょくになるものがいいのでしょう。……よし」
そう言って手に取ったのは、殺人鳥の精肉セットをごっそり詰めたタッパーだ。
殺人鳥はダチョウサイズの鳥型モンスターであり、向こうの
その上可食部が多いとあって、いつでも大人気御礼の獲物である。
「うーん……このぶいですかね」
ぺたぺたと精肉パーツを触った後、一つの部位を手に取った。
後で衛生観念について説かなくてはいけない。
手に取った部位は”ささみ”だ。胸骨に沿って左右1本ずつに存在する意外と希少な部位。
牛肉で言うとヒレやフィレ、テンダーロインといった有名な部位だ。
俺は解体スキルを持っているので、前世では詳しく知り得なかったそこら辺の知識がオートで入ってくるのだ。
そしてわざわざささみを手にしたのは、何か意図有ってのことなのだろうか?
……こいつは確か鑑定スキルのようなものを持ってたな。まさかそれで部位毎の違いを調べたのか?
ささみは淡白で肉質が柔らかいが、事前に筋の下処理をしないと肉が縮んでしまう。
ベイビーちゃんに果たしてそこまでの料理スキルはおありかな……?
「ちょうみりょうはなにがありますか?」
ああ、そこの棚に入ってるのを使ってくれ。
……こいつ、スキルで味なんかも判断できるのだとすれば、かなり”ヤ”るんではないか……?
「ふむ……。さっぱりとしたかんじでいきましょうか」
そう言ってベイビーちゃんは手際よく調理を開始し始めた。
おお……おおおっ……!?
*
「できましたよ」
ベイビーちゃんは出来上がった一皿をコトリとテーブルの上に置いた。
こ、これは……!!
「とりにくをあげてさっぱりとしたソースをかけたものです」
ささみを素揚げにしたものの上から、刻み葱を主体とした香味だれをかけた一品……つまり。
──
えっ、めっちゃ普通に料理しとった……。
さっきまでのフラグは一体どこに消えたんだ……!?
まさかささみで
ヘルシーかつ野菜も入って栄養と食べ応え充分なんて……まさかそこまで計算していたって言うの!?
キーッ! 何て小癪な!
なんて料理漫画の悪役みたいな真似をしてみたが、普通に美味そうで普通にびっくりしている。
「さぁ、たべましょう。なーちゃんがたべさせてあげましょうか?」
いつの間にか朝の味噌汁の残りまでよそって配膳まで済ませていた。
こ、こいつめっ、油断してたら急に嫁度を上げてきやがったじゃねえか……!
だが味はどうかな!? こういうのは見た目がしっかりしてても、味が悲惨になってるってのが定番なんだぜ!?
「はいあーん」
あ~ん。
ぱくりと一口。もぐもぐ咀嚼。ごくんと嚥下。
……うん。普通に美味いわ! まあそりゃそうだよな!
普通に作ってたのを後ろからバッチリ見てたしな!
何の危なげもなく道具と火を使いこなしたのを見て、もはや俺に後方保護者面は不可能であった。
何なら俺より上手い。前方アシスタントになって先生の教えを請いたい気分だわ。
「おいしーですか?」
ベイビーちゃんは俺の嫁かもしれなかった。
抱きっ!
「きゃっ! もう、よろこびすぎですよっ!」
天才や。ドラゴンガールは料理もチート級やったんや!
*
意外な結果に舌鼓を打ち、俺は食後のお茶を楽しんでいた。
茶を入れるのも美味いと来たもんだ。汎用人型料理兵器であった。
しかしふと疑問に思ったことがある。
……なあ、本当に今更だけど、料理とかの知識ってどこから得たんだ?
「だいたいはうまれたときにもってましたよ。”そらのていおう”さまにおしえていただいたものもありますが」
なるほど。
裏側の事情を知っている俺からすると、一般的な知識をシステムから得た上で生まれてきたと考えるのが妥当だろう。
しかし……そうだな。
これだけ料理が上手となると、本当にこの宿で働かせるのもありかもしれないな。
人と添い遂げたいというこいつの目的も、宿を繁盛させて色んな人の目に掛かれば、きっとお眼鏡に適う奴も出てくるだろう。
なぁベイビーちゃん。
賃金は要相談だが、ここで働く気はないか?
「……? だんなのおてつだいをするのは、さいしょからつまのやくめですよ?」
いや……君が本当にそれでいいんなら、もうとやかくは言わないさ。
雇用登録の仕組みとか全く知らんから口約束しかできないけど、受けてくれるか?
「プ、プロポーズということですね……! わかりました! なーちゃんはおまえのためにいっしょうをささげるとちかいます!!」
プロポーズではない。れっきとした雇用登録である。
「けっこんはしゅうしんこようとうろくのようなものじゃないんですか?」
最近は世知辛いので滅多に終身雇用なんてありません。転職が普通の時代です。
ともあれ、これで遂に正式な従業員をゲットしてしまった。
ISEKAIものにありがちな、壮大な成り上がりストーリーが始まってしまう予感がプンプンしてきやがったぜ……。
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