2.ある日森の中ドラゴンさんに出会った(後)
ドラゴンという種族は大抵のゲームで最強種として設定されているが、この世界でもそれは同じだ。
悪魔やら幻獣やら妖怪やらの激強種族のモンスターが蔓延る中で、竜種が明確に頂点に君臨している。
この世界じゃマジでチート級の存在である。まず単純にデカいし強い。あと反則級スキルも使えるから超強い。
物理攻撃は大抵効かないし、並みの魔法じゃ傷一つ付けられない。
というか人類側が貧弱すぎて大抵は勝負にならない。
そんなドラゴンの中でも固有の名を持ってる奴は特にヤバイ。
尋常ではないほどのステータスの高さに加えて、それぞれに特殊な固有スキルが備わっているというクソゲー仕様である。
ぶっちゃけどこからどう見てもクソゲー要素しかない。何を考えてこんなバランスにしたのかと運営を問い詰めたい。
とりあえず人類が太刀打ちできるような相手じゃないのは確かだ。
ドランコーニアオンラインの長い歴史の中でも、
***
そんなチート存在を俺は叩きのめした。
案外弱かった。というか、向こうはあんまり本気じゃなかったんだな。隙だらけだったし。
凍り付いた湖の水面に剣を突き刺して、俺は人心地付いた。
「い……いのちだけは……たすけてください……!」
今にも泣き出しそうな声で、凍った水面に全裸土下座する少女の姿が目の前にあった。
「なんでもいたします……! どうか、いのちばかりはおたすけください……!」
……ドン引きだよ。
だっていきなりドラゴンが人間の女の子に変身するんだもん。
人化するスキルなんて持ってやがったのかよ。
お前安易な人型化とか、向こうの世界だったら即炎上してるかんな。
「うぅ……ぐす……ひっくっ……!」
おいやめろ泣くな。こっちが悪いことしたみたいだろうが。
クソッ、こんな卑劣な精神攻撃仕掛けてくるとは思わなかったぜ……!
「ぐす……いたい……ひりひりする……」
少女の身体にはあちこちに傷が付いて血が滲んでいた。
明らかに俺が付けた傷であった。
……ねえその姿で泣くのやめてくんない? 罪悪感半端ないんだけど。
「な、なーちゃんは……なーちゃんは……ただ、にんげんにおねがいがあっただけなのに……」
ドラゴンさんはなーちゃんって言うのか。可愛いね。
さあ元の姿に戻れ、介錯してやる。
「わあああぁん! ごめんなさいぃっ!!」
ピーピー泣き喚く最強種がここにいた。
……よーしなんかもうメンドくさいし逃げよう。
ちょっとでも心を許したら後ろからガブッといかれる系のヤツかもしれないしねっ!
「っ!? おいていかないでぇっ! ひとりにしないでよぉ! わぁぁぁぁぁぁんっ!!」
サヨナラ! しようと思ったら服を掴まれて逃走に失敗した。
ええいもう何なんだよ。何が望みなんだ。
「……いっしょにいてっ!」
全裸で抱き着かれた。
おっぱいがあたってむにゅっとした感覚が胸板に伝わる。
むほほ、これが俗に言うラッキースケベちゃんというヤツですか。
でも全然嬉しくねぇ。もうね、おじさんオチンチンおっきしないのよ。お分かり?
色気で釣るのは無理と思い知れ。
でもね、向こうの世界に居た時は丁度このくらいのロリ美少女がストライクゾーンだったよ。へへっ。
「ぐすっ、ひぐっ……えっく……!」
…………ウーム。どうすりゃいいのコレ。誰か助けて。
まぁ俺とこのドラゴンガール以外、この場には誰も居ないんですけどね。
取り敢えず上着を着せてやろう。流石に裸はアカンと思う。
「──! ありがとぉ……えへへ、あったかい」
ドラゴン少女が俺の胸に顔を埋めてスリスリしてきた。
あざといな。やっぱ殺すか。
「なんでぇっ!? どうしてころそうとするのっ!?」
だってあざといんだもん。
そういうあざとい動作をする女は絶対腹の中が黒いって相場が決まってんだ。ブラックストマック。
「なにいってるのかわからないです! にんげんはひどいです! いじわるです!!」
舌ったらずな口調で抗議してくるドラゴン少女。
改めて見るとそれはそれは結構な美少女であった。
見た目年齢は十代前半と言ったところだろうか。
身長は俺より頭一つ低いから150cmあるかないか。
透き通るような水色のロングヘア―に蒼い瞳。シミ一つ無い白い肌に華奢な肢体。
胸は控えめなお椀型、だが手で覆えるほどには……ある!
透明感のある美少女という表現がドンピシャだろう。
総じて見れば以前の俺の好みド真ん中である。
ど真ん中ではあるが……ネ……うん……。
「だいたいなんでにんげんのくせになーちゃんよりつよいんですかっ! わけがわかりませんよもうっ!」
ドラゴンガールはぎゅうっと力強く抱きしめながらそんな事を申してくる。
まずは一旦離れようか。話はそれからだ。
「や、やーですよぅ! はなしません! ぜったいにはなさないのです!」
そう言って更に強く抱きしめられた。
おい待った待った痛い痛い。殺す気か?
やっぱり俺を殺すつもりで色仕掛けしてきたの?
「ち、ちがいますよっ! そんなつもりじゃありません! ただ、その、うれしくて……つい」
顔を赤く染めてモジモジするドラゴン少女。
恥じらう姿はとても可愛らしいが俺は騙されないぞ。
さっさと俺を離せ。そしてどこかへ去れ。
「むぅ~……なーちゃんはにんげんにおねがいがあっただけなのです。にんげん、おねがいをきいてくれませんか?」
やだ。
「なんでですか! なーちゃんのおねがいをきいてくれるまではなしてあげないのです!」
ほらみろめんどくせぇ!
さっきまで泣いてたくせに調子乗りやがって!
「なーちゃんのなまえはめりゅじーなといいます。あのいだいなる”そらのていおう”さまにつけてもらったなまえなのです」
唐突な自分語りが始まってしまった。
ムービースキップは? できない? クソがよ……。
しかも一切の抵抗ができないので話が終わるまでこのままである。チクショウめ。
「なーちゃんはさいきんうまれたばかりのドラゴンなのです。このみずうみにおちたかみさまのざんしからうまれて、いままでずっとここにいました」
しかもなんかこう舌ったらずというか、なんて言ってるのか分かりづらいんだよな……可愛いけどさ……。
えーっと……最近生まれたばっかりで、この湖に落ちた神様の残滓から生まれた……ってことか。
この場合の神っていうのは龍のことだろう。
──龍。
竜と同じ読み名だが、この世界では神扱いされている存在だ。
なんたって龍はこの世界そのものを形作ったという史実があり、神様のように信仰されているからだ。
だが俺のような奴からすると、単なる世界の管理AIという立ち位置だ。
つまり運営である。クソ運営が。
そんな龍がトップの世界なので、自然と世界もドラゴン贔屓されている。クソ運営が。
ちなみにドラゴンは奴らから生まれる子供のようなものだ。神様直系の存在だからそりゃ強い。
「ここはしずかでいいところですが、だれもいません。なーちゃんはずっとひとりでした。たまに”そらのていおう”さまがきておはなししてくれますが、それいがいはずっとみずうみのそこでねむってました」
そらのていおうって……空の帝王?
龍の異名か何かか。空ってついてるくらいだから天の龍だろうな。
うわぁこいつアレと関わりあんの……? もうなんか全部放り出して帰りたいんだけど。
「さびしいとかんじたのです。”そらのていおう”さまにはまだはやいといわれていましたが、もうがまんできなかったのです」
ぎゅうっと俺を抱きしめる力が増した。
……ドラゴンであっても、一人ぼっちが寂しいという感情は人と同じなのだろうか。
「それで、みずうみのそとへでてちらちらとにんげんをみてしまいました。たいていはなーちゃんのすがたをみてびっくりして、ひっくりかえるようなひんじゃくなにんげんばかりでしたが……」
そらドラゴンなんかと出会ったらみんな腰抜かすわ。
しかもそれが
人類にとっての最大の脅威といっても過言ではない。
そんなもんが新しくポンと生まれましたってなったらもう大騒ぎよ。
「おまえはちがいました。なーちゃんのすがたをみておそれるどころか、たちむかってきたのです。あげくのはてにこんなボロボロにされてしまいました」
ねぇだからその姿でそんなこと言うのやめよ?
「なーちゃんはほんとうにびっくりしました。にんげんはよわくてすぐしぬものだとばかりおしえられてましたから」
まあ間違ってはないよ。
お前らみたいチート種族に比べたら人間なんてアリンコみたいなもんだ。
「だから……きっとおまえがうんめいのひとなのです」
おっとぉ? 急にアクセル踏んで来たな?
クソッ今すぐ逃げてぇ! フンッ!フンッ! ダメだ力が強すぎる!
レイプよこんなの!
「なーちゃんは、あるつよいおもいをうけてうまれました。……そのおもいのかたちはあい。ひととあいしあいたいというつよいねがいのけっしょうがなーちゃんなのです」
そっか! 頭の中お花畑で大変だね!
じゃあね! おじさん忙しいんだ! 帰らせてください!
「なので、おねがいです」
俺の言う事全部無視されて、きゅっと両手を握られた。
透き通るような美少女の真剣な眼差しが俺を射抜いていた。
ちなみに足でだいしゅきホールドをかまされているので逃げられない。
なんてはしたないんだこやつめハハハ。
ドラゴン少女は意を決したようにすぅっと息を吸い込んで。
その舌ったらずな甘い声で、とんでもないことを確かに告げた。
「なーちゃんと、けっこんしてください!」
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Drancohnia:Flagments... Ultra Hyper Gigantic Love.
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