07
「ねえねえ、確認なんだけどさ、あんたたちって一応は宗教やってるってことになってんだよね?」
アタシは初めて乗るリムジンの総革シートのスルッスルの手触りを楽しみながら二人に話しかけた。
運転席との間には仕切りがあってどんな人間が運転しているのかはわからない。
「言ったらあれだけどさ、宗教で儲かってるのって、こういうのでアピールするもんじゃないと思うんだけどなあ。ご本尊さまとかそういうのピッカピカにしとけばいんじゃないの? 」
「…我々はヒーリング・ソサエティだ。その辺の怪しげな宗教団体とは違う。」
ガタイのいいのがボソリと答えた。対面四座の後部座席、前向きの席にアタシとこいつ、こいつの向かいにアザのおにーさん。アタシはいちおう客人待遇ってことだな。多分、二人もこの車に乗ったのは初めてなんだろう。威厳付けようとしてるけどなんかソワソワしてるし。
「あ、そなの?ごめんね全然知らなくて。」
でもどうせ宗教団体ってことで税金逃れてんだろ。まで言うこたあないな。
「んでそのソサエティってのは、じゃあなにしてるところなの?」
「…宗教団体とは身内だけの救済と利益を約束することで勢力を拡大することを目的とした営利追及団体だが、我々は違う。我々の救済対象は全人類だ。教義が違うだの崇める神が違うなどという選民は行わない。我々の理想は宗教よりはるかに高潔なものだ。その理想を具現化するために己の研鑽と鍛錬を行い、社会奉仕を行うのが我々の活動だ。」
ガタイのいいのがもったいぶった口調で言う。なんか雰囲気まで変わってそれっぽい威厳を感じさせる。もしかしたらアタシが思っていたよりランク上の立場の人間かも知れない。
「へぇ。ずいぶん立派な理想でやってんだね。でもそのわりにはこの人、アタシに喧嘩売る気満々だったみたいだけど。」
アタシはアザのほうに矛先を変えてみた。
「全人類を救うといっても、それは無抵抗主義を意味しない。理想実現の障害となる敵対勢力を排除することは別に教義に反するものではないぞ。」
先にガタイのいいほうに釘を刺されてしまった。挑発失敗。
「いやそんな、やだなあ敵対勢力て。ちょっと話がおおげさすぎない?それとも実際そんな勢力がいるの?」
ガタイのいいのは片眉を吊り上げて、無言だけを返してきた。
しらけた空気と沈黙。
「…ま、第一印象が悪かったのは認めるよ。アタシは神宮司。字面にすると名字だけっぽいけどこれでフルネームだから。で、えーと、おにーさんは?」
対面のアザに右手を出しながら挨拶する。
「あ、浅田、シゲキ、です。」
つられてフルネーム答えてやんの。さっきまでこのアマ呼ばわりだったのにね。サービスで左手も添えてギュッと握手してやった。アサダくんしどろもどろになって目が泳ぐ。かーわいいねぇー。
「んっ?」
流れでガタイのいい方にも右手を出すと、掌を向けて拒絶のポーズをしながら
「東条だ。」とだけ。
はぁ?決まりだな。こいつの本職はスナイパーだ。
自分の思いつきにニヤニヤが止まらなくなって、思わず窓の外を眺めて誤魔化す。
いつの間にか車は川の上のバイパスを走り、夕暮れ前の斜光が照らす街並みが音もなく視界の後ろへ飛んでいった。
高い車って、いいなぁ。
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