第4話 奇策


味方のテベ方面軍は兵を二万減らし後退。三万の兵で南の山を背にして態勢を整え、陣を組みました。


追撃する敵軍ジドの兵は一万減らしたもののまだ四万。狭い平野を挟んだ丘の上に陣を敷いたといいます。


味方の軍は不利ながら地形を利して固着状態に持ち込んだと誰もが思うでしょう。ですが、それは違います。逆に山に押し込められたのです。いくら防衛陣地を築いて守りを硬くしようとも兵站へいたんを失っているのです。軍が崩れるのは時間の問題でした。


悪い知らせはそれだけではありません。それを機と見たジドの王ディルクが自ら軍を率い、三万の兵で王都ザームエルを発った。テベへと向かったのです。


私たちリア国と敵国ジドは元々一つの国でした。分裂する前はジドの王都ザームエルを中心とした国家で、ディルク王の野望は自身の治世に王都ザームエルのもと、国を元の一つにまとめることにありました。


誰かが救援に向かわなければなりません。ですが、ブリンケン王は動きませんでした。


お父様の軍三万はというと、味方二万と共にマイ河の河口シオで敵ジド軍五万と対峙しておりました。山岳地テベとは距離にして1600㎞です。味方の軍を離れ、救援に向かうなぞ有り得ない。


お父様は大小様々な大きさの漁船二百隻とそれに見合った船夫を雇いました。彼らに空荷のままマイ河を南へさかのぼらせたのです。


それに合わせ、お父様も自身の軍三万を率い、シオの陣から離れ、河に沿って南下を始めました。


対峙していたジド側はその状況に、お父様の軍三万が船を使ってマイ河を渡河し、回り込んで側面から攻撃しようとしている、と考えた。テベが危険な状況であるためにシオ戦線の早期決着を目論んでいると判断したようです。


ジド軍も三万の兵を陣から引き抜き、お父様の軍の動きに合わせ南下を始めました。双方とも敵を対岸に見つつ、マイ河をさかのぼる漁船に合せてゆっくりと進軍します。


シオから五十キロほど離れた地点でお父様の軍は急激に速度を上げました。渡河せずに、河をさかのぼる漁船を置いて上流の都市ザマへと向かったのです。ザマには大きな橋が架かっており、その先はジド国王都ザームエルへと繋がっている。


シオ戦線の早期決着を狙い、回り込んで側面を襲って来ると思い込んでいたジド軍三万は慌てたことでしょう。戻るに戻れず、追うしか選択肢はない。ディルク王への直接攻撃を恐れたのです。対岸にお父様の軍を見つつ追います。


お父様の軍はザマに着陣すると橋を渡る素振りを見せます。当然、ジド軍は橋の前にして防衛線を張る。


その姿を確認するとお父様の軍はあっさりと渡河を諦め、ザマを捨てました。そして、さらに南下、パトへと向かいます。パトにも大きな橋が架かっていて、ここもその先はジド国王都ザームエルへと繋がっている。ジド軍はお父様の軍を追います。


お父様の軍は行軍の速度をさらに上げました。いままでにない速度です。対岸を進むジド軍も必死に食らいついて来たそうです。ところが、お父様の軍はパトを通り過ぎた。橋を渡る気配さえ見せず、さらに南下を続けたのです。


ジド軍はここでようやくお父様の軍の本当の狙いを理解したことでしょう。山岳地テベで敗退した我がリア軍の救援です。しかも、お父様の軍がこのまま南下を続ければテベを突破したジド軍の背後を突く形になる。


ですが、時すでに遅しです。テベのジド軍四万は背後からお父様の軍三万、前方から敗退したリア軍三万に攻め立てられ戦列は崩壊、兵は霧散してしまうのです。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る