第2話 反逆の狼煙


朝日が昇るとジャンと一緒に宿を出て、街道筋の森に向かいました。荷馬車と護衛の騎士五百人と合流するためです。お父様には申し訳ないのですが、手紙をブリンケン王に何度も送って頂いています。


内容は娘の非礼を侘び、考え直してくれないかというものです。


ブリンケン王は当然聞く耳を持つどころか、責め立てるでしょう。そもそもアルナルディをおとしめるために私を利用した。


何度も許しを請い、最後に王太子とマリエット・ワトーのことを認め、私を修道院に送り、これまでに用意した私のためのお祝いの品を王太子のために送ると申せば強欲なブリンケン王のことです。上機嫌で受け取りましょう。


私とジャンは防具を身に着け、剣を腰に差し、森の中で荷馬車を待ちました。ジャンは二十五歳の若さでお父様の重臣となっております。ジャンのバランド家は代々我が家に仕えていました。ジャンの父上も我が家の重臣であったことから私は幼い頃からジャンを知っています。


その頃のジャンは活発で、笑うのが好きな男の子でした。面白い話を聞きつけて来ては私によくその話を聞かせました。私には笑えなかったけど、話した本人は面白いらしく、話し終わるといつも笑っていました。


ジャンは部屋に引き籠りがちな私をよく外へ連れ出してくれました。馬に乗って草原を駆ければ、太陽の光に触れ、風を感じられる、気持ちいいぞって。


私たちリア国と隣国のジド国は元々一つの国でした。その時代に我が先祖は新天地を求めて東に移動しました。アルナルディ領の人々は開拓民を祖先に持ち、その名残で貴賤問わず今でも誰もが馬に乗れるのです。


私は幼い頃からずっと、このジャンと結婚するものだと思っておりました。おそらくはジャンもそう。周りを意識してしまったのです。十五歳の頃からか、まったく私に会いに来てくれないようになりました。


ジャンは先のいくさ、私たちリア国とジドの争いではよく働いたといいます。その知らせに私は喜んだものでした。あの若さで名実ともにアルナルディの重臣となった。


お父様は、他でもないそのジャンを私に寄越してきました。使える男だ、お前の手足となって働いてくれようという返事を託して。


荷馬車と騎士らがやって来るとジャンは、防具の重さでもたもたしている私の手を引き、騎士団の前に連れて来ると細身の体でどこにそんな力があるのか、防具を着た私を軽々と馬に乗せてしまいました。


ジャンは昔のようなよく喋る、楽しい人ではなくなっていました。私が言葉を発するまではずっと無言で絶えず周囲に気を配っていました。それは大勢の騎士がいようとも関係ありません。


王都ラミデスは私たち一行を歓迎してはくれませんでした。市街地を進む私たちに罵声や笑い声、時には石ころが飛んできました。彼らはアルナルディの人々を軽んじる傾向にあります。文化が発達してない野蛮で未開の民と思っているようです。


お父様の手紙も効いているのだと思います。未開の領主が泣いて許しを請うていると噂を広められたのでしょう。城門に着くなりすんなりと跳ね橋が下ろされました。


私たちが来るのを待っていたようです。やはりブリンケン王は王都でアルナルディをはずかしめていたようです。その上で、許しを貢物みつぎものを受け取る。それによって王の絶対性を諸侯に示したかったのでしょう。


誰の出迎えもなく、衛兵が荷馬車を中に運び込め、とまるで下僕に指示するかのように私たちに命じました。ラウール王太子とマリエットの結婚式は明日に控えています。


人手が足りないのでしょう。私たちは荷馬車を城内に入れると、ほぼ無抵抗な衛兵、近衛騎士たちを次々と容赦なく討ち取って行きました。


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