第79話 少年部のいさかい

 リアムは週に二回ほど王宮の騎士団に練習に通っている。

 十三歳のリアムは少年部の年長にあたり、現在は複数人で年少組のリーダー役も請け負っている。


「よう、リアム、久しぶり!」


「カール、久しぶりだな」


 同い年で別の組の面倒を見ているカール・ライツェとあいさつを交わした。


「なあ、お前知っているか、騎士団長の息子が力を使えなくなったって噂?」


 カールがリアムに尋ねる。


「団長の息子って、あの火炎魔法のダンゼルか?」


「ああ、そうさ」


「あくまで噂だろ。休みが続いているから……」


「でも本当だったら、イシュリー・カースがまた騎士団に顔を出してくれるようになるかもしれないんだけどな……」


「カース? 君の組の子だったのか、大けがさせられたというのは!」


 騎士団では有名な話である。

 騎士団長の息子でしかも火炎魔法の天才児。

 否が応でも注目が集まる存在でありその彼がやらかした不祥事なのだから。


 きっかけは違う組同士のいさかいに過ぎなかった。

 年少の少年たちが言い合いになりおさまらないようなので、十一歳のイシュリー・カースが彼らをいさめた。


 その時、自分がうけおっている組の少年たちだけでなく、対立していたダンゼルたちのいる組のことも非難したことがダンゼルの気に障り、腹いせにダンゼルは火炎魔法を放ち、イシュリーは顔に痕が残るほどの大やけどを負ってしまう。さすがにこれはやりすぎだということで、親として騎士団長もカース伯爵家に何度も謝罪と慰謝料の話し合いに出向いたという。


「でも、肝心の技を放ったダンゼルはおとがめなしだったもんな。うちの組のやつらは、納得できねえっていきり立って大変だったんだぜ。まあ、おれもモヤっているけど……」


「ふうん、自分や周囲の誰かが危害をくわえられそうなとき以外に、他人を傷つける魔法を使うのは魔道協会にも禁止されてるんじゃなかったか? 破ったら程度に応じて、魔道協会から派遣された者によって一定期間魔法が使えなくなるよう処理される。使えなくなったってそのことじゃないのか?」


「いや、違うんだよ。うちの組でも魔法に詳しいやつがそのことを上に進言したけど、ダンゼルは魔道協会に登録していないからそれには及ばないって」


「それはちょっとおかしいな、彼ほどの能力があれば登録するのが当たり前じゃ……?」


「だろ、団長の息子ってことでみんなして事件を隠蔽しようとしている、団長の奥さんなんて、夫人同士の集まりで被害者の悪いところをあげつらって息子を正当化しようとしているらしい」


 カール率いる組を中心にダンゼルの処遇については不満がくすぶっていた。

 前の時間軸ではそれでも上層部の忖度によるもみ消しによって事なきを得た。評判の高いダンゼルは学園入学後、王太子の側近的な立ち位置を手に入れる。


「それにしても、お前、魔法のこと良く知っているな、使えないのに?」


 カールがリアムに言う。


「実は先日どういうわけか使えるようになってな。組のみんなが見ている前だったし、こっちが面食らったよ」


「えっ、ほんとか!」


「ああ、ダンゼルと違い水魔法だけどな」


「へえ、俺達くらいの年でもそんなことあるのか、水魔法なら、それで上層部に冷や水浴びせてくれよ」


「冗談言うなよ。でも、母親連中の中傷まであるんじゃ、被害者のイシュリーだったっけ、騎士団にも通いにくくなりそうだな」


「ああ、だから、いっそのこと能力そのものでもなくなってしまえばなって思ってさ。そしたら、ざまあ見ろという気持ちもなくはない」


 

◇ ◇ ◇


「と、言う話があったんですよ。どう思います、ノア殿?」


 騎士団から帰ってきたリアムは応接室でノアに団であったことを話していた。

 

 魔法覚醒についての助言を受けて以来、二人は打ち解けるようになり、時々こうやって話をするようになった。


「子供のやったことにしては被害の程度が大きすぎるし、それに甘い対応をしていたら彼自身に間違ったメッセージを伝えかねないな。そこを親である騎士団長がわかってくださるといいのだけどな」


 ノアは答える。


「やっぱりノア殿はすごいな。なんか、こっちがもやもやしていることを分かりやすい言葉でまとめてくれる」


 リアムが感心した。


 前の時間軸の記憶があるうえにジェイドという別の人間の記憶もあるがゆえの優位性に過ぎないのだけどな。

 ノアはそう考え、照れくさそうな表情をした。


「二人とも楽しそうね」


 和気あいあいとした応接室にセシルが入ってきた。


「「セシル!」」


 二人は少し疲れた様子のセシルを見やった。


「今日はユリウス殿とお茶会ではなかったかい?」


 ノアがセシルに尋ねた。


「ええ、そうよ。やっと終わったところ、もう疲れちゃった」


 大きくため息をつくと、セシルはリアムが座っている側のソファの空いている空間に腰を下ろした。


 

☆―☆―☆―☆-☆-☆

【作者メモ】

 騎士団の態度は虐めを隠蔽しようとする学校や教育委員会と似ていますかね。 

 よろしければ☆や♡頂けると嬉しいです。

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